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なんでもたんぺんしゅー

#12

「俺の輝ける場所、お前の輝ける場所」


墨野視点

俺が得意なことは、体育だ
小学校から高校までずっとバスケ一筋
このデイサービスではその恩恵か、
レク担当と体育担当で、
その2つのリーダーになってる
でも


大翔
[大文字]「ここわかりません!」[/大文字]

墨野先生
「えっとここはな……」
「えーっとなんて読むのこれ、比べ、例…?」

大翔
「比例と反比例だよ!」

墨野先生
「なんこれ、俺やったことねぇよ」

大翔
「うそぉ!どーしよ!」

二人で同じ顔して、プリントをにらむ

うーん、と唸っていると

麻生が通る
麻生先生
「比例と反比例……?」

一瞬で状況把握した顔

麻生先生
「あー、そこはね。」「墨野、あと任せろ。」


「任せます〜」


勉強は…見てのとおりだ
体育は教えられんだけど…

人生も反比例してほしい
運動神経と学力

どっちも伸びろよ




優斗視点
大翔
「わかった!」
周りも少しずつ進む

優斗は、止まったまま
でも聞けない


消え入る声で
優斗
[小文字]「なんでみんな普通にできるんだよ…」[/小文字]


なんで俺だけ

頭の中がうるさい

[中央寄せ]母「修斗すごいね!100点じゃん!」[/中央寄せ]
[中央寄せ]父「優斗も頑張ってるもんな、大丈夫だぞ」[/中央寄せ]

弟はすごいんだ。自慢だ、でも…


ふっと立つ
誰も止めない

[太字]もうなにもかも嫌だ[/太字]


ドアを開ける

逃げた、というより、息をしに出た



[水平線]



カリカリ、鉛筆の音

ひなは、ふと顔を上げる

優斗の席、空いてる

一問目の途中

椅子が、少しだけ斜め

ひなの胸が、ちくっとする
立ち上がる

小さな声

ひな
「……先生」

墨野は別の子の横でまた一緒に頭悩ませている
墨野先生「んー?」

ひな
「優斗くん、いません。」

その一言で、空気が変わる

麻生が振り向き、りりも顔を上げる

りり先生
「トイレは?」
麻生先生
「さっき行ってないよな?」

やすたち先生が廊下を見る
やすたち先生
「…えっ…ない…」
墨野先生もそこにくる

靴箱

上履きがない

ざわ、と先生たちの間に緊張が走る

[水平線]

建物の裏

コンクリートに座り込む優斗

膝を抱えてるわけでもない
ただ、ぼんやり前を見る

足元の小石を蹴る



墨野視点

明らかに、ただ事じゃない

麻生先生
「いつから?」

ひな
「……さっきまで、いました」

墨野の目が、優斗の席に止まる

考えるより先に

体が動く

墨野先生
[大文字]「俺、外見てくる!」[/大文字]

止める間もなく、走る

ドアが開く

りり先生
「怒ってたのかなぁ?」
ひな
「いや…」
「怒ってはないと思います」


俺はとにかく走った

あぁ、もう、勉強はできないけど、
子供見るのは得意だと思ってたのに!

だめじゃん…こんな…
[中央寄せ][大文字]一人の異変に気づけねぇの![/大文字][/中央寄せ]





角を曲がる

裏手に回る

いた
コンクリートに座る背中



墨野先生
[大文字][大文字]「ゆうとぉぉぉ!!!」[/大文字][/大文字]

優斗、びくっ

[大文字][大文字]「見つけたぁぁぁ!!!」[/大文字][/大文字]

建物に反響する

[大文字][大文字]「建物の裏にいたのかぁあい!」[/大文字][/大文字]

その瞬間

[斜体][大文字]ワンッ!![/大文字][/斜体]

通りすがりの小型犬に全力で吠えられる

墨野先生
「うわっ、ごめんごめんごめん!」

飼い主にぺこぺこ

「すみません!驚かせちゃって!」

犬、まだ吠える

墨野、最敬礼

「ほんとすみません……!」

優斗、ぽかん
さっきまで胸を締めつけてたものが、
少しだけ、緩む



[水平線]

デイの中

外から男の大声

久保先生
「えっちょっとまって、墨野先生の声聞こえたけど」

やすたち先生
「あの人声デカすぎ」

ひなは窓の方を見る

何も言わないけど
少しだけ肩が下がる

[水平線]



墨野先生
「わあー…やっちまったー…」

座り込む優斗を見下ろす墨野
それに優斗はいい気がせず、ため息をつく
墨野先生
「よし!バスケしようぜ!」

優斗は墨野を見上げ
優斗「は?」

墨野先生
「怒られると思った?」
「怒れねぇよ。怒られたの俺だし、犬に」

墨野はしゃがみ、目線を合わせる
「俺、犬に嫌われてんのかなぁ。」
「昔飼ってたんだけど…よく吠えられんだよなぁ…」

優斗「…」

墨野先生
「頭動かさないで、体動かそ」
墨野はあぐらをかく

優斗は黙ったまま

墨野は手を差し出す

「だからバスケしよう」


墨野先生
「俺のとっておきの場所、教えるから」

優斗、差し出された手を見る

さっきまで、
何もかも嫌で

できない自分も
逃げた自分も

でも今は、

犬に吠えられて謝り倒す大人が目の前にいる

まるで先生とは言えない情けなさ

……なんなんだこの人

優斗、小さく

[小文字]「……意味わかんねぇ」[/小文字]


墨野の手は取らずに立つ

墨野先生は、にやっと笑い
「それでよし!」

そして先に歩き出す

「案内しよう!俺のとっておき!」

優斗は少しだけ遅れてついていく



少し歩く

住宅街を抜けて、
細い坂を上る

角を曲がる

そこに、フェンスに囲まれた小さなコート

ラインは少し薄れてる
ゴールのネットはほつれてる

でも、ちゃんとリングがある

墨野、両手を広げる

墨野先生
「到着!!」

優斗
「……ここ?」

墨野先生
「俺の秘密基地」

茂みから、くたびれたボールを取り出す

ぽん、と地面に落とす
バウンドの音が乾いた空に響く

その音だけで、墨野の目が少し変わる

さっきまでの情けない先生じゃない

ボールを優斗に投げる

「ほい」

優斗は反射で受け取る

墨野先生
「とりあえず一本。リング見るだけ」

優斗は戸惑う
でも、ボールの感触を確かめるみたいに指を動かす

リングを見る

跳ぶ

[斜体]シュッ[/斜体]

ボールが弧を描いて、

[斜体]カン[/斜体]、と当たって入り、ネットが揺れる


墨野先生
「今の何」「すごい」

優斗も、びっくりしてる

優斗
「……知らねぇ」

墨野、にやっと笑う

「優斗上手いじゃん」

優斗、もう一度リングを見る

さっきより、少しだけ目がまっすぐ



最初はぎこちない

優斗は無言
墨野はちょっとだけはしゃいでる

「ほら、もう一本!」

ボールの音がコートに跳ねる


墨野がわざと大げさにディフェンスに入る

「うわ、速っ!」

優斗はするっと抜き、レイアップ

入る

 
「なんで普通にうまいんだよ!」

しばらく、二人とも無言でボールを追う

風が通る

優斗はボールを抱えて止まった
優斗
「俺、落ちこぼれなんだ」
「親にも怒られないほど」

墨野は黙って話を聞く

優斗
「弟の方が優秀だよ」
「親はいつも弟を褒めてから必ず言うんだ」
「『優斗も頑張ってるもんな』って」
「それ言われるたび…言われるたび…苦しい…」
と優斗の頬には涙がつたう


墨野先生
「俺、勉強苦手なんだ」

優斗、ちらっと見る

「知ってるよな」

自分で笑う

「でもさ、体動かすのは、あの中で一番自信がある!」
ボールを指先で回す
「勉強じゃなくても、優斗が輝ける場所絶対ある!!」

強く言い切り、3Pシュートを打つ
軽々と入れた

優斗
「……!」

目が、まっすぐ墨野を見る

「……ねぇ、墨野先生」

墨野
「ん?」



一瞬、迷う

「俺にバスケ教えて…いや、」

小さく息を吸って、

「教えて下さい!」

墨野、一瞬固まる

それから、満面の笑み

「任せろ」

ボールを拾って、優斗に投げる
墨野先生
「まずフォーム直す。」
「キレイっちゃキレイだけど、ちょっと力みすぎかも」

優斗
「え」

墨野
「あと敬語いらない」「慣れないからっ」
とにやっとする

優斗も少しだけ笑う


墨野先生
「さぁ、もう一本!未来のエース!」

優斗
「うるせぇ」



夕方

リングに最後の一本が吸い込まれる

墨野
「今日はここまで!」

優斗、肩で息をしながらうなずく

さっきの涙は、もうわからない

墨野
「明日、筋肉痛な」

優斗
「ならねぇし」


行きより、距離は少し近い



[水平線]
デイの前

扉を開けた瞬間、視線集中


久保先生
「どこ行ってたんですか!」

田中先生
「心臓止まるかと思った……!」

墨野は手をひらひら

「事情はあと!」

優斗の肩をぽんと軽く押す

「とりあえず通常運転!」

ちょうど帰宅の時間

バタバタと子どもたちが荷物をまとめ始める

「さよならー!」
「また明日ー!」



みんな帰っていく

墨野「ひな」

振り向く

墨野先生、少しだけ真面目な顔で
「優斗のこと、気づいてくれてありがとうな」

ひなは一瞬だけ目を丸くして、
それから小さく会釈


麻生が墨野もたれかかり、小声で

[小文字]「何したんだ」[/小文字]

墨野、にやっと

「体育指導」

麻生、ため息をつき、少しだけ笑う

優斗は靴を履き替えながら

「……明日もやってくれる?」

墨野、即答

「やる」

優斗、ほんの少しだけ笑う

夕方の光が、窓から差し込む


優斗の後ろ姿を見届けた

墨野はぱっと振り向き
墨野先生
「一件落着!」

中原先生
「その前に事情話してくれ…」
[太字]「こんな長時間帰ってこず…!」[/太字]
と語気が強い

柴井先生
「日誌書かないといけないからな」
柴井先生はすでに椅子に座り、ペンを構えている

墨野先生は固まり、視線が左右に泳ぐ

さっきまでのヒーロー顔はどこへやら…

墨野先生
「あはは…ごめんなさぁいっ!」


俺は

勉強はできないけど、
自分には他にできることが、輝けることがある
それを今日、改めて思った

2026/03/17 19:54

かのん ID:≫ 1.6ekCz9QCfE6
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