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なんでもたんぺんしゅー

#10

「―四人の春は尊し―桜降るのを待ちぼうけ」+α

前日譚
――深夜、コンビニの帰り道

夜は静かだった
白い街灯が、アスファルトをまだらに照らしている

田中「四月になったらさ」
田中が、唐突に言った
「桜の下で花見するんだ。四人で」

中原は少しだけ眉を上げる。
中原「……もう過ぎたけど」

柴井「いいじゃん、先に決めとくの」
柴井が笑った

いつき「どうせまた直前になってゴタゴタするんだろ」
いつきがコンビニ袋を持ち替える

その様子を、後ろからついてきた知人が見ていた

「へえ」
知人が言う
「仲いいんだな」

悪意のある言い方じゃなかった
ただ、どこか引っかかる言い回しだった

柴井「まあな」
柴井が肩をすくめる
「俺ら、四人で一つみたいなもんだから」

その言葉に、知人が一瞬黙った

「……それ、重くない?」

空気が、ほんの少しだけ冷えた

田中「別に」
田中は気にせず言った
「楽しいよ!」

それ以上、誰も続けなかった
ただ、歩く速度がわずかに乱れた





知人「4人でしか行動できないんだな」
棘がある言い草だった

柴井「は?」

「一回、帰ろ」
中原が止めるように言った
「今日は遅い」

大通りを外れ、路地へ入る

それは正しい判断だった
人目を避けて、早く終わらせるための

けれど、狭い路地は声を逃がさな

「さっきのさ」
知人が、足を止める
「俺、バカにされた気がしたんだけど」

柴井「そんなつもりない」
柴井が即座に返す
「お得意の被害妄想だろ」

その一言で、線が切れた

言葉が荒れ、距離が縮まり、
気づいた時には、誰かの肩がぶつかっていた

柴井が前に出る
止めようとして、田中が間に入る

田中「やめなよ――」

押した
意図は、なかった

鈍い音がして、知人が倒れた
動かない

田中「……え?」

田中の声が震える

田中「ね、起きてるよね」
「ねぇ?」

返事はない

田中「ちが、僕、そんな……」

息が荒くなる
目の焦点が合っていない

四人は、立ち尽くした

そのとき

背後で、靴音がした

いつきが振り向いた瞬間、
知人の手に、レンガがあるのが見えた

いつき[大文字]「危ない!」[/大文字]



蹴りが脇腹に入る
レンガが落ちる

「やめて!」
誰かが叫んだ

けれど、もう止まらなかった

柴井といつきが、動いた
守るためだった
終わらせるためだった

それでも――
手は、止まらなかった

やがて、静かになる

中原だけが、立っていた
一歩、引いた位置で

中原「……終わった」

誰も答えない

田中「警察、呼ぶ?」
田中が、かすれた声で聞く

いつきは首を振った

いつき「無理」
「今は、だめだ」
いつきが息を荒くする柴井の肩を抱き寄せる

夜は、何も言わない

中原「片付け、しないと」

誰も、止めなかった

その沈黙が、
四人の春を、遠ざけた




[水平線]



番外編

四人で田中の家に集まっていた

床に座ったり、ソファに転がったり、特に目的もなく過ごす午後

田中「なんかいいのやってないかなぁ」

そう言って、田中はリモコンを手に取り、
ぱちぱちとチャンネルを変え始めた

バラエティ、通販、アニメの再放送
どれも長くは映らない

――そして、ふと画面が止まった

[明朝体][太字][大文字]《特集:二十年前に起きた、ある事件》[/大文字][/太字][/明朝体]

中原「……こんな事件、あったんだね」

画面には、ぼかしの入った古い写真と、淡々としたナレーション
詳しい説明はない
ただ[太字]「四人の若者」「深夜の事件」「刑が執行された」[/太字]とだけ語られる

いつき「……な」
それ以上、言葉は続かなかった

画面が切り替わる

今度は、静かな墓地
年を取った二人の男性が映っていた

[明朝体]ナレーション[/明朝体]
[明朝体]『当時、彼らを担当していた刑務官たちです』[/明朝体]

そのうちの一人が、墓石の前にしゃがみ込み、
紙袋から何かを取り出す

[明朝体]看守『この四人、みーんな甘いものが好きでね』[/明朝体]

そう言って、墓前に小さなお菓子を供えた
キャンディ、クッキー、安そうなチョコレート

[明朝体]看守『だから、毎年これを』[/明朝体]

もう一人が、静かに手を合わせる

画面の端に、四つ並んだ墓石が一瞬だけ映った

柴井「……四人か」

ぽつりと、柴井が呟いた

その声は小さくて、
誰に向けたものでもないようだった

田中は、無意識に胸のあたりを押さえていた
理由は分からない
ただ、なぜか少しだけ、息が詰まる

中原は画面から目を離し、
三人の顔を順に見た

中原「……ねぇ」

誰も返事をしない。

けれど、
四人は確かに、同じ場所にいた。

テレビの向こうで終わった四人と、
今、ここにいる四人

画面が次の番組に切り替わる

田中「あ、変わっちゃった」

そう言って笑う田中に、
いつきは小さく言った

いつき「……甘いもん、食うか」

柴井「いいな」

中原「じゃあ、花見のときは団子ね」

田中「花見?やったー!」

何も知らないまま、
それでも確かに――
約束だけは、ここに残っていた






2025/12/28 09:21

かのん ID:≫ 1.6ekCz9QCfE6
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