心を失った少女 年明けのニューイヤーゲーム編
[大文字]第十二章 家族の絆[/大文字]
蘭は思考を巡らせる。相手の名前から、予測される反撃を導き出す。
『[漢字]反射[/漢字][ふりがな]リフレクション[/ふりがな]』なら、こちらの攻撃を跳ね返す能力か? それに対して、『[漢字]反対[/漢字][ふりがな]オポジット[/ふりがな]』はなんだ? 反対……。行動が逆になる? わかんねぇな。
蘭は、試行錯誤をするのが得意な方ではない。凡人より少しマシぐらいの予測しかできない。それに、基本即断即決。なんとこの間たったの三秒で──
(わかんねぇなら、跳ね返されても被害が少ない攻撃当てて確認すりゃぁいい!)
あっというまに蘭は考えるのを放棄し、炎をまとった拳を突きつける。当たる、そう思ったのだが。
──ここで『反射』は魔法を行使する。
「あっはは、《アポジット》! そんなの効かないよ〜だ」
なんと、蘭の動きが逆転し、拳で殴ろうとしたはずが、自分の顔面を殴っていた。なるほど、《アポジット》という魔法は、相手の動きを逆転させる魔法か。
(……面倒くせぇ)
続いて蘭は蹴りを放つ。『反対』の魔法で、後ろ側を蹴るハメになる。自分に被害が出ないのはいいが、このまま戦いを続けていたら確実にこちらが消耗してしまう。
(マジかよ、無敵じゃねぇか!?)
蘭は、辛い表情を見せ始める。迂闊に火でも放てば魔法を使われ雅たちに当たってしまう。パンチも蹴りも効かない。ハッタリしか方法はないが、そんな事ができるほど蘭に技量はない。そんな中、止んでいた雨がまた降り出してきてしまった。特に大したことのない、普通の雨だったが、蘭は目を見開く。
(…………!! あれはっ!!)
おそらく、常に魔法を行使しているのだろう。『反対』たちに向かっていくはずの雨粒が、すべて跳ね除けられている。
…………常に魔法を行使しているということは。
(雨が降ると煙のたぐいは普段より濃くなる。前は煙の量が多すぎて動けなかったが、今回は好都合! 足元に投げようとすれば、自動的に、遠くに投げるって行動に置き換えられる!!)
良し、これなら行けそうだと推測した蘭は闇男に向かって話しかけた。
「おい! 火水度さん! 作戦AKS!」
「っ了解! AKSだな!」
作戦AKSとは。雨の中で煙玉と閃光弾を同時に使用して相手の目をくらませる作戦のことである。
あらかじめ作戦を立てていたこともあって、闇男の準備はスムーズに終わった。あとは蘭がほんの隙でも作れれば、そこに投げ込める。
蘭はどうにかして隙を作らなければいけないが、相手は手練れ。そう上手くもいかない。地面を蹴り、後ろを蹴るふりをしたりと、ハッタリを噛ませようとはしているのだが、相手もこちらをよく観察している。余計な分の魔法を使いたくはないのだろう。蘭は少しずつ追い詰められていく。
(やべぇ……!)
息が辛い。心臓の鼓動が耳の中で響いている。
──このままではダメだ。他のなにかで相手の意表を突かなければ。だが、どうすれば。
蘭は心のなかで頭を抱える。表情も苦々しい。じんわりと汗が滲み出る。
ぽん。
そんなときに、雅が蘭の背中に手をかけた。
「……やって。KAS」
ポツリと、一言。
今、雅の中で、何かが弾けた。その何かが、雅に言葉を紡がせた。
「……AKSな? って、そんなこと置いといて、……どういうつもりだ?」
蘭はサラッと言い間違えを訂正し、雅に動機を確認する。雅の目には、役に立ちたい、という強い意志が感じられた。だが、雅はかつて心を失ってしまった。ある程度取り戻せていたのかもしれないが、何をするというのか。
「一個だけ……方法、ある」
雅は肩のあたりをクイクイと引っ張り、耳を寄せさせると、雅が考えた『作戦』を伝えた。火水度はもう知っているらしい。こちらを不安げな様子で伺っている。
「…………、一か八かのかけだ。大丈夫か?」
雅は無言で、しかし力強く頷いた。その瞳には、自信が宿っていた。
その瞳には、仄かな光があった。今まで真っ暗闇しか移さなかった雅の瞳に、ぼんやりと、しかし、決意のこもった、温かい眼差しが。
それを見て、蘭は満足そうに頷いた。いや、誇らしげに、と言ったほうが良かったかもしれない。親として、娘息子の成長ほど嬉しいものはない。心を失っていたならなおのことだ。
蘭は、自信を持って首を縦に振る雅を火水度に見せる。火水度も納得したようだった。
「うおっし! やるしかない! 火水度さん! 〈閃光玉で逃げる〉ぞ!!」
「おう! 目くらましっと!」
二人は閃光玉と煙玉を投げるふりをして地面に叩きつけようとした。予想どうり、魔法によってそれらは反反姉妹の方へ向かっていき、爆ぜた。タイマー式のものを使ったため、空中でだ。
それらは目論見どうりパアッっと眩い光を放ち、ボッフンと大きな音を鳴らす煙でその場は満たされた。
「キャァァァァァ!!!??目が、目がぁぁぁ!!!」
「ぐおぉ、げっほごっほ、けむりがごほっごほ、うぎぎ〜許せなごっほごほっ!」
雨によって煙は濃くなりやすい状況だった。更に閃光玉も雨粒や煙に反射しなおのこと輝いていたため、中にいた二人は災難だろう。
「……今……! 闇魔法発動! 対象・反反姉妹、 形状・鎖型、 効果・魔法禁止及び移動禁止 〈[漢字]実行[/漢字][ふりがな]プレイ[/ふりがな]〉」
雅は息を潜めて背後へ回った。彼女は、ほんの少しだが闇の魔法が使える。真っ暗闇でも視界がクリアであるため煙の中であろうと彼女だけは動けるのだ。もちろん、吸い込まないようにガスマスクはつけている。
雅の作戦とは、〈自分が魔法を使いなにもできなくさせるから手伝いをしてほしい〉だったのだ。
煙や閃光が跡形も消えた頃に、反反姉妹は自分たちの状態を把握しはじめた。 まぁ、もう遅いのだが。
「っ……!? 魔法がっ……!?」
「やっば、詰んだじゃんこんなの」
蘭たちの、いや、雅の。戦略的完全勝利であった。
「まったく、こんなことできたなんて……。流石だな、雅」
蘭は嬉しそうにガシガシと雅の頭を撫でる。少し痛そうだった。
それはさておき、たった一人の少女にしてやられた反反姉妹は心底ダルそうに応援を待っていた。まぁ、それを許すほど蘭たちも甘くはない。これまで10何回もデスゲームを切り抜けたベテランでもあるからだ。
二人で雅を愛でまくり、気が済んだところで、蘭たちは反反姉妹に事情聴取をする。
「なんで、俺達は殺されなくちゃいけないんだ?」
まずは、これを聞いておかなければ、今後の安全が保証されない。
「「…………………」」
闇男が質問を変わる。
「どうして、俺達お前らに狙われるんだ? なんかやっちまったかな?」
「「…………………」」
その後も質問を続けるが、何を聞いても無言を押し通す。極めつけにはこちらを睨み返す始末。とうとうイベントの残り時間が二分を切った。二人は、仕方無しにこの二人を手に掛けると決める。ここで生かしていたらまた命を狙われかねない。彼女らの組織のせいで死んでしまったミクを蘇生できる。
「ちっとは情報が欲しかったな……」
「だぁな、まぁ、そう上手くもいかねぇって」
二人はいつも道理に、薬品を撒いて、火で燃やす。
はたから見れば、ガソリンを撒いて火を付ける、立派な放火犯であった。
まぁ、彼らの『ガソリン』の威力は他の比でもないのだが。
例の二人が灰になると〈蘇生カード〉、というのが出現した。どうやら、これに組成させたい人物の名前、あるいは特徴を言いつければその場で蘇生されるらしい。何故か雨に濡れていないのが不思議だったが、そんなことは気にしてられない。
二人はゴクリと息を呑む。もう時間がない。二人は同時に口を開いた。
「「ツインテールの『キツナ』持ちの女の子!」」
あたりがフワ……と明るくなった。その淡い光の中に、美空が静かに横たわっていた。
(よかった……、私にも、できた……)
雅は、久しぶりに情を抱いた。どこか温かい、まだなんの感情なのかもわからない、その温かいものを、静かに心の奥底にしまい込んだ。
丁度に、イベント終了を告げるブザーが鳴り響き、雰囲気が台無しになったのは仕方のないことだった。
蘭は思考を巡らせる。相手の名前から、予測される反撃を導き出す。
『[漢字]反射[/漢字][ふりがな]リフレクション[/ふりがな]』なら、こちらの攻撃を跳ね返す能力か? それに対して、『[漢字]反対[/漢字][ふりがな]オポジット[/ふりがな]』はなんだ? 反対……。行動が逆になる? わかんねぇな。
蘭は、試行錯誤をするのが得意な方ではない。凡人より少しマシぐらいの予測しかできない。それに、基本即断即決。なんとこの間たったの三秒で──
(わかんねぇなら、跳ね返されても被害が少ない攻撃当てて確認すりゃぁいい!)
あっというまに蘭は考えるのを放棄し、炎をまとった拳を突きつける。当たる、そう思ったのだが。
──ここで『反射』は魔法を行使する。
「あっはは、《アポジット》! そんなの効かないよ〜だ」
なんと、蘭の動きが逆転し、拳で殴ろうとしたはずが、自分の顔面を殴っていた。なるほど、《アポジット》という魔法は、相手の動きを逆転させる魔法か。
(……面倒くせぇ)
続いて蘭は蹴りを放つ。『反対』の魔法で、後ろ側を蹴るハメになる。自分に被害が出ないのはいいが、このまま戦いを続けていたら確実にこちらが消耗してしまう。
(マジかよ、無敵じゃねぇか!?)
蘭は、辛い表情を見せ始める。迂闊に火でも放てば魔法を使われ雅たちに当たってしまう。パンチも蹴りも効かない。ハッタリしか方法はないが、そんな事ができるほど蘭に技量はない。そんな中、止んでいた雨がまた降り出してきてしまった。特に大したことのない、普通の雨だったが、蘭は目を見開く。
(…………!! あれはっ!!)
おそらく、常に魔法を行使しているのだろう。『反対』たちに向かっていくはずの雨粒が、すべて跳ね除けられている。
…………常に魔法を行使しているということは。
(雨が降ると煙のたぐいは普段より濃くなる。前は煙の量が多すぎて動けなかったが、今回は好都合! 足元に投げようとすれば、自動的に、遠くに投げるって行動に置き換えられる!!)
良し、これなら行けそうだと推測した蘭は闇男に向かって話しかけた。
「おい! 火水度さん! 作戦AKS!」
「っ了解! AKSだな!」
作戦AKSとは。雨の中で煙玉と閃光弾を同時に使用して相手の目をくらませる作戦のことである。
あらかじめ作戦を立てていたこともあって、闇男の準備はスムーズに終わった。あとは蘭がほんの隙でも作れれば、そこに投げ込める。
蘭はどうにかして隙を作らなければいけないが、相手は手練れ。そう上手くもいかない。地面を蹴り、後ろを蹴るふりをしたりと、ハッタリを噛ませようとはしているのだが、相手もこちらをよく観察している。余計な分の魔法を使いたくはないのだろう。蘭は少しずつ追い詰められていく。
(やべぇ……!)
息が辛い。心臓の鼓動が耳の中で響いている。
──このままではダメだ。他のなにかで相手の意表を突かなければ。だが、どうすれば。
蘭は心のなかで頭を抱える。表情も苦々しい。じんわりと汗が滲み出る。
ぽん。
そんなときに、雅が蘭の背中に手をかけた。
「……やって。KAS」
ポツリと、一言。
今、雅の中で、何かが弾けた。その何かが、雅に言葉を紡がせた。
「……AKSな? って、そんなこと置いといて、……どういうつもりだ?」
蘭はサラッと言い間違えを訂正し、雅に動機を確認する。雅の目には、役に立ちたい、という強い意志が感じられた。だが、雅はかつて心を失ってしまった。ある程度取り戻せていたのかもしれないが、何をするというのか。
「一個だけ……方法、ある」
雅は肩のあたりをクイクイと引っ張り、耳を寄せさせると、雅が考えた『作戦』を伝えた。火水度はもう知っているらしい。こちらを不安げな様子で伺っている。
「…………、一か八かのかけだ。大丈夫か?」
雅は無言で、しかし力強く頷いた。その瞳には、自信が宿っていた。
その瞳には、仄かな光があった。今まで真っ暗闇しか移さなかった雅の瞳に、ぼんやりと、しかし、決意のこもった、温かい眼差しが。
それを見て、蘭は満足そうに頷いた。いや、誇らしげに、と言ったほうが良かったかもしれない。親として、娘息子の成長ほど嬉しいものはない。心を失っていたならなおのことだ。
蘭は、自信を持って首を縦に振る雅を火水度に見せる。火水度も納得したようだった。
「うおっし! やるしかない! 火水度さん! 〈閃光玉で逃げる〉ぞ!!」
「おう! 目くらましっと!」
二人は閃光玉と煙玉を投げるふりをして地面に叩きつけようとした。予想どうり、魔法によってそれらは反反姉妹の方へ向かっていき、爆ぜた。タイマー式のものを使ったため、空中でだ。
それらは目論見どうりパアッっと眩い光を放ち、ボッフンと大きな音を鳴らす煙でその場は満たされた。
「キャァァァァァ!!!??目が、目がぁぁぁ!!!」
「ぐおぉ、げっほごっほ、けむりがごほっごほ、うぎぎ〜許せなごっほごほっ!」
雨によって煙は濃くなりやすい状況だった。更に閃光玉も雨粒や煙に反射しなおのこと輝いていたため、中にいた二人は災難だろう。
「……今……! 闇魔法発動! 対象・反反姉妹、 形状・鎖型、 効果・魔法禁止及び移動禁止 〈[漢字]実行[/漢字][ふりがな]プレイ[/ふりがな]〉」
雅は息を潜めて背後へ回った。彼女は、ほんの少しだが闇の魔法が使える。真っ暗闇でも視界がクリアであるため煙の中であろうと彼女だけは動けるのだ。もちろん、吸い込まないようにガスマスクはつけている。
雅の作戦とは、〈自分が魔法を使いなにもできなくさせるから手伝いをしてほしい〉だったのだ。
煙や閃光が跡形も消えた頃に、反反姉妹は自分たちの状態を把握しはじめた。 まぁ、もう遅いのだが。
「っ……!? 魔法がっ……!?」
「やっば、詰んだじゃんこんなの」
蘭たちの、いや、雅の。戦略的完全勝利であった。
「まったく、こんなことできたなんて……。流石だな、雅」
蘭は嬉しそうにガシガシと雅の頭を撫でる。少し痛そうだった。
それはさておき、たった一人の少女にしてやられた反反姉妹は心底ダルそうに応援を待っていた。まぁ、それを許すほど蘭たちも甘くはない。これまで10何回もデスゲームを切り抜けたベテランでもあるからだ。
二人で雅を愛でまくり、気が済んだところで、蘭たちは反反姉妹に事情聴取をする。
「なんで、俺達は殺されなくちゃいけないんだ?」
まずは、これを聞いておかなければ、今後の安全が保証されない。
「「…………………」」
闇男が質問を変わる。
「どうして、俺達お前らに狙われるんだ? なんかやっちまったかな?」
「「…………………」」
その後も質問を続けるが、何を聞いても無言を押し通す。極めつけにはこちらを睨み返す始末。とうとうイベントの残り時間が二分を切った。二人は、仕方無しにこの二人を手に掛けると決める。ここで生かしていたらまた命を狙われかねない。彼女らの組織のせいで死んでしまったミクを蘇生できる。
「ちっとは情報が欲しかったな……」
「だぁな、まぁ、そう上手くもいかねぇって」
二人はいつも道理に、薬品を撒いて、火で燃やす。
はたから見れば、ガソリンを撒いて火を付ける、立派な放火犯であった。
まぁ、彼らの『ガソリン』の威力は他の比でもないのだが。
例の二人が灰になると〈蘇生カード〉、というのが出現した。どうやら、これに組成させたい人物の名前、あるいは特徴を言いつければその場で蘇生されるらしい。何故か雨に濡れていないのが不思議だったが、そんなことは気にしてられない。
二人はゴクリと息を呑む。もう時間がない。二人は同時に口を開いた。
「「ツインテールの『キツナ』持ちの女の子!」」
あたりがフワ……と明るくなった。その淡い光の中に、美空が静かに横たわっていた。
(よかった……、私にも、できた……)
雅は、久しぶりに情を抱いた。どこか温かい、まだなんの感情なのかもわからない、その温かいものを、静かに心の奥底にしまい込んだ。
丁度に、イベント終了を告げるブザーが鳴り響き、雰囲気が台無しになったのは仕方のないことだった。