心を失った少女 年明けのニューイヤーゲーム編
[大文字][明朝体]第八章 臆病者[/明朝体][/大文字]
会場の空には、相変わらずコウモリがわんさか飛び交っている。そして、時折空から赤黒いものが落ちてくる。千匹ほどもいるコウモリたちに挑む無謀なものは、後を絶たない。時々落ちてくるものの正体──、それは、無謀にもコウモリに挑み無惨にも肉片となってしまった者たちだ。それでも、奇跡的にコウモリを殺せたものは役職『コオモリ』を襲いに行く様子もちらほら見られる。
なぜこんなにも無謀なのに、自ら向かっていくのか。答えは簡単だ。
[中央寄せ]───死が恐い臆病者なのだ───。[/中央寄せ]
「はぁ、イベント長いなぁ……」
蘭が呟く。闇男が賛同する。
「だよなぁ………、こういうときだけ長く感じるんだよ、時間って残酷だよなぁ」
そう言いながら、窓の外を眺める。ぼとぼと何かが落ちていく。さぞ地面は悲惨なことになっているだろう。
「……………………………、この音やだ」
雅は少しだけ耳が敏感だ。ボトッとという音が聞こえているのだろう、耳を抑えて無言で悶えている。
「早く、終わってほしいな……」
雅は声のトーンを落として呟いた。
一方で
「あぁ〜、ひ〜まだぁ〜〜、なんかおもしろいことないのか〜?」
そう呟くのは、休憩スペースでくつろぐ狼だ。イベント中は行動しない、というルールがあるので、仕方なくくつろいでいるのだが、早くイベント終わんねぇかなと、ただひたすら待ち続ける始末である。
[中央寄せ]コンコンッ[/中央寄せ]
ドアがノックされる。
「だれだぁ〜?ドアなら開いてるぞ~?」
ドアが開く。誰もいない。
「ん?」
瞬間オオカミに影が覆いかぶさった。
「あ、しまっ」
[中央寄せ]プスッ ジューーー[/中央寄せ]
いつの間にか謎の液体が注入されてしまった。
ドアから謎の人物が逃げていく。
「くそ!」
オオカミはムスッとしながら注射器を引き抜いた。だが、時すでに遅し。
「ぐ、あぁああっぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?????」
そのままオオカミは気絶する……。[水平線]
そして、地獄が終わる瞬間──12時30分が来た。
優勝確定者4名、死亡者36名、残り参加者104名。
それなりの仲間が逝ってしまった。このイベントで40人。他の何かで6人ほど消えてしまった。46人、約50人。
これは痛い。だがオオカミたちから見ると好成績と言えるだろう。イベントは一個や二個ではない。一つのイベントで50人が死ぬと考えるとたった三回で全滅だ。
まぁ、ニンゲンはそこまで馬鹿ではないというのも知っている。イベントがどれほど恐ろしいか、それがわかった以上、次からは慎重に行動するだろう。
『死』を恐れる臆病者と、『生』を大事にする賢いものとの間では、天と地ほどの差があった。
12時30分。残り時間9時間30分。残り参加者104名。
[大文字][明朝体]異変[/明朝体][/大文字]
通常のゲームに戻ったはずだが一向にオオカミによる死亡者が現れない。害悪と人狼により5,6人位が死んでいるがオオカミによる死亡者数が一向に増えない。
良いことだがみるみる不安が募っていく。
「なんか、変だよな………?」
蘭は一人で呟く。考えられることはいくつかあった。
・ただの気のせい。
会場自体それなりに広い。が、死亡者は出ているのでそれななし。
・なにかのトラブル。
誰かがオオカミを襲った、なら説明はつく。だがそれもない。なぜそう言い切れるかというと、蘭たちはかつてのゲームで、システムの穴をつき、沢山の仲間を募り、オオカミと大々的に戦ったことがあるからだ。もし本当にオオカミを襲ったというのならこんなに静かなはずがない。
・イベントでバグなどが発生した。
そんな様子は見られなかった。
それもない、あれもないと色々試行錯誤を繰り返していると、
「お、おい!蘭あれ見ろ!!!」
闇男が突然声を荒げた。つられて蘭も顔を上げる。
「ぐ、ぅぅ、がぁあ、が、が、が」
「な、何だよあれ!?」
唸り声ではない、苦しそうだ。
巨大なオオカミが苦しんでいる。
「ぐー、ぅ゙。がー、ゥ゙ー、ぐぅー、うぅ、ぎ、ぐー。ぐ、ぎー、ぐ、ぎー、ぎー、ぎー、ぐ、ぎー、ぎー」
どうやらなにかの信号で何かを伝えようとしているようだ。闇男や雅にはわからないが、蘭は趣味で学んでいたのが幸いした。
「………何だっけな、なんかの信号だ。助けて、って言ってる」
なるほど、助けてほしい。だが問題がある。
「…………………こいつを、か?」
オオカミを助ける理由なんてあるだろうか?
ひとまず、蘭たちは状況を整理した。
オオカミに発生していると思われる以上はおもに3つ。
・ひたすら大きいこと
・喋れないこと
・恐らく動けないこと
動けないのなら放っておけばいい。無理して助ける必要はない。知らない参加者は不審がるだろうがこれで、あとは害悪と人狼を潰せば皆が助かる。その場にいる誰もがそう思った。
しかし、
「!!やだ、恐い、誰か、いる!」
突然雅が口を開いた。向こうを指さして、
「あ?どした雅??」
「~~~~~~~~~!!!!!」
「と、とりあえず見に行くわ、ここよろしくな」[水平線]
「ちっ、こっちにも気が付きやがった」
木の上に立つ黒いローブの男が言った………。
「しっかし、何をどー分解したらでっかくなっちまうのかね〜」
オオカミには試作中の薬物を注入した。生き物を殺す前提で作られていたため実験台にちょうどよかったのだが───。
「おい、『[漢字]Poisonous[/漢字][ふりがな]ポイゾナス[/ふりがな]』これはどういうことだ?(以下『[漢字]毒のある[/漢字][ふりがな]ポイゾナス[/ふりがな]』)」
「俺が知りたい」
「たっくよぉ、まぁいい。ただの暗殺未遂だ。次はしっかり殺せよ?」
「わかってるよサイコパス」
「誰がサイコパスだ、その呼び方やめろ」
サイコパス呼ばわりされた男は「ちっ」と舌を打った。
[大文字]ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・[/大文字]
一方で闇男達。
「遅いなぁ………」
雅が怖いというので蘭と一緒に様子を見に行ったのだが、いくらなんでも遅すぎる。何かあったのだろうか?
[中央寄せ]ボウボウボウ ボォウ ボォウ ボォウ ボウボウボウ!![/中央寄せ]
少し遠くで炎が燃える。
(これは!!あらかじめ決めておいたSOS!!)
「まじかよ!いかねぇと!!」
しかし、近くの茂みがガサガサと音を立てる。
「おぉっと〜、待ちなよ兄さん」
闇男は少し焦る。もし蘭たちを襲ったやつの仲間だった場合、勝率はかなり下がるからだ。蘭が一人でやって勝てない相手。それは、自分が一人でやっても勝てない相手を意味する。
闇男は慎重に接する。作り笑いを浮かべる。だが冷や汗は止まってくれない。
「な、何、でしょうか?」
「くくっ。ちょっと遊ぼうぜ?」
その男は怪しく笑う。
「遊ぶ暇は、ない、ですね〜(棒)」
男はフードを脱ぎ去った。その下に見えていたのはフラスコなどをぶら下げた白衣だった。
「おれは『毒のある』。今頃お仲間は『[漢字]Drown[/漢字][ふりがな]ドゥラウン[/ふりがな]』(以下『[漢字]溺れ死ぬ[/漢字][ふりがな]溺れ死ぬ[/ふりがな]』)の水に溺れている頃だろうなぁ?ホォら、遊ぼうぜ?」
「っ………!!」
Drownというのは、溺れ死ぬという意味。蘭が扱うのは火。生きているのを祈るしかない。
「薬品バトルでもしようぜ?」
会場の空には、相変わらずコウモリがわんさか飛び交っている。そして、時折空から赤黒いものが落ちてくる。千匹ほどもいるコウモリたちに挑む無謀なものは、後を絶たない。時々落ちてくるものの正体──、それは、無謀にもコウモリに挑み無惨にも肉片となってしまった者たちだ。それでも、奇跡的にコウモリを殺せたものは役職『コオモリ』を襲いに行く様子もちらほら見られる。
なぜこんなにも無謀なのに、自ら向かっていくのか。答えは簡単だ。
[中央寄せ]───死が恐い臆病者なのだ───。[/中央寄せ]
「はぁ、イベント長いなぁ……」
蘭が呟く。闇男が賛同する。
「だよなぁ………、こういうときだけ長く感じるんだよ、時間って残酷だよなぁ」
そう言いながら、窓の外を眺める。ぼとぼと何かが落ちていく。さぞ地面は悲惨なことになっているだろう。
「……………………………、この音やだ」
雅は少しだけ耳が敏感だ。ボトッとという音が聞こえているのだろう、耳を抑えて無言で悶えている。
「早く、終わってほしいな……」
雅は声のトーンを落として呟いた。
一方で
「あぁ〜、ひ〜まだぁ〜〜、なんかおもしろいことないのか〜?」
そう呟くのは、休憩スペースでくつろぐ狼だ。イベント中は行動しない、というルールがあるので、仕方なくくつろいでいるのだが、早くイベント終わんねぇかなと、ただひたすら待ち続ける始末である。
[中央寄せ]コンコンッ[/中央寄せ]
ドアがノックされる。
「だれだぁ〜?ドアなら開いてるぞ~?」
ドアが開く。誰もいない。
「ん?」
瞬間オオカミに影が覆いかぶさった。
「あ、しまっ」
[中央寄せ]プスッ ジューーー[/中央寄せ]
いつの間にか謎の液体が注入されてしまった。
ドアから謎の人物が逃げていく。
「くそ!」
オオカミはムスッとしながら注射器を引き抜いた。だが、時すでに遅し。
「ぐ、あぁああっぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?????」
そのままオオカミは気絶する……。[水平線]
そして、地獄が終わる瞬間──12時30分が来た。
優勝確定者4名、死亡者36名、残り参加者104名。
それなりの仲間が逝ってしまった。このイベントで40人。他の何かで6人ほど消えてしまった。46人、約50人。
これは痛い。だがオオカミたちから見ると好成績と言えるだろう。イベントは一個や二個ではない。一つのイベントで50人が死ぬと考えるとたった三回で全滅だ。
まぁ、ニンゲンはそこまで馬鹿ではないというのも知っている。イベントがどれほど恐ろしいか、それがわかった以上、次からは慎重に行動するだろう。
『死』を恐れる臆病者と、『生』を大事にする賢いものとの間では、天と地ほどの差があった。
12時30分。残り時間9時間30分。残り参加者104名。
[大文字][明朝体]異変[/明朝体][/大文字]
通常のゲームに戻ったはずだが一向にオオカミによる死亡者が現れない。害悪と人狼により5,6人位が死んでいるがオオカミによる死亡者数が一向に増えない。
良いことだがみるみる不安が募っていく。
「なんか、変だよな………?」
蘭は一人で呟く。考えられることはいくつかあった。
・ただの気のせい。
会場自体それなりに広い。が、死亡者は出ているのでそれななし。
・なにかのトラブル。
誰かがオオカミを襲った、なら説明はつく。だがそれもない。なぜそう言い切れるかというと、蘭たちはかつてのゲームで、システムの穴をつき、沢山の仲間を募り、オオカミと大々的に戦ったことがあるからだ。もし本当にオオカミを襲ったというのならこんなに静かなはずがない。
・イベントでバグなどが発生した。
そんな様子は見られなかった。
それもない、あれもないと色々試行錯誤を繰り返していると、
「お、おい!蘭あれ見ろ!!!」
闇男が突然声を荒げた。つられて蘭も顔を上げる。
「ぐ、ぅぅ、がぁあ、が、が、が」
「な、何だよあれ!?」
唸り声ではない、苦しそうだ。
巨大なオオカミが苦しんでいる。
「ぐー、ぅ゙。がー、ゥ゙ー、ぐぅー、うぅ、ぎ、ぐー。ぐ、ぎー、ぐ、ぎー、ぎー、ぎー、ぐ、ぎー、ぎー」
どうやらなにかの信号で何かを伝えようとしているようだ。闇男や雅にはわからないが、蘭は趣味で学んでいたのが幸いした。
「………何だっけな、なんかの信号だ。助けて、って言ってる」
なるほど、助けてほしい。だが問題がある。
「…………………こいつを、か?」
オオカミを助ける理由なんてあるだろうか?
ひとまず、蘭たちは状況を整理した。
オオカミに発生していると思われる以上はおもに3つ。
・ひたすら大きいこと
・喋れないこと
・恐らく動けないこと
動けないのなら放っておけばいい。無理して助ける必要はない。知らない参加者は不審がるだろうがこれで、あとは害悪と人狼を潰せば皆が助かる。その場にいる誰もがそう思った。
しかし、
「!!やだ、恐い、誰か、いる!」
突然雅が口を開いた。向こうを指さして、
「あ?どした雅??」
「~~~~~~~~~!!!!!」
「と、とりあえず見に行くわ、ここよろしくな」[水平線]
「ちっ、こっちにも気が付きやがった」
木の上に立つ黒いローブの男が言った………。
「しっかし、何をどー分解したらでっかくなっちまうのかね〜」
オオカミには試作中の薬物を注入した。生き物を殺す前提で作られていたため実験台にちょうどよかったのだが───。
「おい、『[漢字]Poisonous[/漢字][ふりがな]ポイゾナス[/ふりがな]』これはどういうことだ?(以下『[漢字]毒のある[/漢字][ふりがな]ポイゾナス[/ふりがな]』)」
「俺が知りたい」
「たっくよぉ、まぁいい。ただの暗殺未遂だ。次はしっかり殺せよ?」
「わかってるよサイコパス」
「誰がサイコパスだ、その呼び方やめろ」
サイコパス呼ばわりされた男は「ちっ」と舌を打った。
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一方で闇男達。
「遅いなぁ………」
雅が怖いというので蘭と一緒に様子を見に行ったのだが、いくらなんでも遅すぎる。何かあったのだろうか?
[中央寄せ]ボウボウボウ ボォウ ボォウ ボォウ ボウボウボウ!![/中央寄せ]
少し遠くで炎が燃える。
(これは!!あらかじめ決めておいたSOS!!)
「まじかよ!いかねぇと!!」
しかし、近くの茂みがガサガサと音を立てる。
「おぉっと〜、待ちなよ兄さん」
闇男は少し焦る。もし蘭たちを襲ったやつの仲間だった場合、勝率はかなり下がるからだ。蘭が一人でやって勝てない相手。それは、自分が一人でやっても勝てない相手を意味する。
闇男は慎重に接する。作り笑いを浮かべる。だが冷や汗は止まってくれない。
「な、何、でしょうか?」
「くくっ。ちょっと遊ぼうぜ?」
その男は怪しく笑う。
「遊ぶ暇は、ない、ですね〜(棒)」
男はフードを脱ぎ去った。その下に見えていたのはフラスコなどをぶら下げた白衣だった。
「おれは『毒のある』。今頃お仲間は『[漢字]Drown[/漢字][ふりがな]ドゥラウン[/ふりがな]』(以下『[漢字]溺れ死ぬ[/漢字][ふりがな]溺れ死ぬ[/ふりがな]』)の水に溺れている頃だろうなぁ?ホォら、遊ぼうぜ?」
「っ………!!」
Drownというのは、溺れ死ぬという意味。蘭が扱うのは火。生きているのを祈るしかない。
「薬品バトルでもしようぜ?」