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この物語は、少し暗いテーマや感情的に重い部分がありますので、そういった内容が苦手な方はご注意ください。ご自身の気分を大切にし、無理せず読んでいただければと思います。

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深海の愛

#6

深海

朝、目を覚ますと、彼女はベッドにいなかった。

リビングに行くと、テーブルの上に乱雑に置かれた薬の殻と、こぼれた水のグラスがあった。
床に座り込む彼女は、虚ろな目でカーテンの隙間を見つめていた。

「……寒いね」

薄着のままで、唇が青ざめている。
慌ててブランケットをかけたが、彼女は身を縮めたまま、微動だにしなかった。

「薬、何錠飲んだ?」

「……そんなに飲んでない。眠れなくて、ちょっとだけ」

「ちょっとじゃないだろ、これ……」

声が震えた。怒りじゃない。恐怖だった。

彼女が、自分の手で自分を終わらせようとしていたかもしれない。
その可能性が、胸を締めつける。

「死にたいの?」

彼女は顔を上げた。
泣いていなかった。ただ、静かに笑っていた。

「ううん、死にたいわけじゃない。ただ、あなたがいないって思ったら、もう何もいらない気がして……だから、何かを感じたくて飲んだの。
生きてる感じがしなかったの。昨日も、今日も。あなたに抱きしめられてても、なんだか空っぽで」

僕は彼女の手を握った。細くて冷たかった。

「一緒にいるよ。ちゃんと、そばにいるから」

そう言うと、彼女は目を伏せた。

「ねぇ、いつまでこうしていられるんだろうね」

その言葉は、まるで終わりの予告のようだった。

数日後、会社を早退した。
朝から頭が重く、まともに人と話せなかった。
心の中に霧がかかっているようで、川崎からの未読メッセージすら、読めずにいた。

家の前に立ち止まり、しばらく鍵を差せなかった。
ドアの向こうにあるのは、安らぎではなく、“監視”だった。

中に入ると、彼女は何も言わずに玄関で待っていた。
まるで、飼い主を待つ犬のように、じっと、静かに。

その姿を見て、ふいに喉の奥が詰まった。

「……なんで、いつもそうやって待ってるの?」

「あなたが帰ってこなかったら、どうしようって……思うから」

「そんなに、怖いの?」

彼女はうなずいた。
涙はこぼれなかった。ただ、肩が震えていた。

「失うのが怖い。あなたがいなくなるのが、一番怖いの。生きていけないって、わかってるの」

僕も、何も言えなかった。

彼女を捨てることも、抱きしめ続けることも、もう僕にはできなかった。

その夜、夢を見た。

彼女と手をつないで、海に沈んでいく夢だった。
光のない深海。
水圧に潰されていく感覚だけが、鮮明に残っていた。

目覚めたとき、彼女はまだ隣にいた。
深く眠っていて、安らかに見えた。

“もし今、逃げたら”
そう思って、布団から体を起こした。

でもその瞬間、彼女の手が無意識に僕のシャツの裾を掴んでいた。

手放せない。
彼女も、僕も。

深海の底にいても、互いの手を離さない限り、沈み続けるしかない。

作者メッセージ

この章では、愛と依存の関係を描きました。主人公と彼女はお互いに依存し合いながらも、愛が時に苦しみや孤独を生むことを示したかったのです。愛を求めることで心が満たされるのではなく、逆に空虚さが深まる瞬間を感じてほしいと思いました。二人が沈んでいくような関係性を通じて、「愛とは支配ではなく、自由であるべきだ」というメッセージを込めています。しかし、二人の関係がどう進展するのかは、まだ明確に見えていません。

月影

2025/04/22 21:07

月影 ID:≫ 5iUgeXQ3Vbsck
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