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この物語は、少し暗いテーマや感情的に重い部分がありますので、そういった内容が苦手な方はご注意ください。ご自身の気分を大切にし、無理せず読んでいただければと思います。

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深海の愛

#4

誰のための愛

玄関の鍵を開けた瞬間、強い視線を感じた。
リビングに入ると、彼女はソファに座ったまま、スマホを握りしめていた。

「……おかえり」

いつもの声。でもその中に、張り詰めた糸のような緊張が走っていた。

「さっき、既読だけついてたよね。どうして返事くれなかったの?」

僕は息を整え、上着を脱ぎながら答える。

「ただの大学の友達に会ってただけだよ。前に話した、川崎ってやつ」

「……うん、知ってる。でも、どうして言ってくれなかったの?」

彼女の手が震えていた。
爪がスマホのカバーをぎゅっと押して、カチカチと不規則な音を立てている。

「隠したつもりはないよ。言うほどのことじゃないって思ってた」

「……そういうとこだよ」

彼女がゆっくり立ち上がる。

「そうやって、“大したことじゃない”って決めつけて、私の不安を無視するの。いつもそう。私が何を考えてるか、ちゃんと見てくれてないよね?」

「見てるよ」

「嘘」

彼女の声が震えた。涙がこぼれる寸前で、ギリギリのところに立っている。

「ねぇ、あなたが誰かと会ってるだけで、私がどれだけ不安になるかわかる?
頭の中で最悪の想像ばかりして、勝手に泣いて、吐きそうになって、それでもあなたの帰りを待ってたの」

「それは――」

「あなたが悪いって言ってるんじゃない。ただ、私が壊れていくのが止められないの。苦しいのに、あなたと一緒にいたいって思うことが、怖いの」

彼女の叫びは、泣き声でも怒りでもなかった。
それは、どこにもぶつけようのない「孤独」の形だった。

僕は彼女に近づいて、そっと抱きしめた。
彼女の身体は細く、震えていて、まるで崩れそうな硝子の彫刻だった。

「俺も、怖いよ」
僕はようやく本音を口にした。

「お前がいなくなったら、もう生きていけないと思うくらいには、俺もおかしくなってる。でも、それでも離れたくない。壊れてもいいって、思ってしまう」

彼女は僕の胸に顔をうずめて、声を上げずに泣いていた。
涙の熱が、シャツをゆっくり染めていく。

外は静かだった。
窓の外の街灯が、にじむように揺れていた。

部屋の中で、ふたりだけの時間が流れる。
その時間は、まるで真綿のように柔らかくて、でも首を絞めるように窒息感を伴っていた。

“これが愛だ”と信じたかった。
でも本当は、これはもう、ただの生きるための依存だった。

作者メッセージ

「誰のための愛」では、登場人物が自己のアイデンティティと向き合い、愛と承認が心に与える影響を探求しています。彼らがどのように自分を理解し、成長していくのかを描く中で、他者とのつながりが自己認識に与える重要性を強調しています。愛がどれだけ私たちの心を形作るのか、その複雑さに触れることができればと思っています。

月影

2025/04/20 21:38

月影 ID:≫ 5iUgeXQ3Vbsck
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