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この物語は、少し暗いテーマや感情的に重い部分がありますので、そういった内容が苦手な方はご注意ください。ご自身の気分を大切にし、無理せず読んでいただければと思います。

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深海の愛

#1

沈むふたり

最初は、ただ一緒にいるだけで、満たされていた。

彼女と出会ったのは、梅雨の終わりだった。
じめじめとした空気のなかで、彼女だけがどこか乾いて見えた。細い腕をカーディガンで隠していたのが印象的だった。まるで自分を守るように、誰かから隠れるように。

「この世の中で、誰かとちゃんとわかり合えるなんて、奇跡だと思うの」
最初にそう言ったのは彼女の方だった。

僕は、その言葉に救われた。
誰とも本音で繋がれず、笑顔の仮面を被ることに疲れていた僕にとって、彼女は唯一、自分でいられる相手だった。

──それが、始まりだった。

夜の部屋で、彼女はよく僕に触れてきた。指先で肩に触れ、背中に回し、鼓動を確かめるように腕にしがみついてくる。
「生きてるって、こういうことなのかな」
そう呟いた彼女の声が、やけに寂しげで、胸に残って離れなかった。

誰よりも近くにいたかった。
だから、僕も彼女に触れ返した。
彼女の寂しさごと抱きしめることで、僕は自分の孤独もなかったことにできる気がした。

けれど、気づけば彼女の不安は日々大きくなっていった。

「今日、あの女の人と何話してたの?」

「え、誰のこと?」

「ほら、いつもあなたの隣の席にいる人。よく笑ってるじゃん。……ねぇ、本当に仕事の話だけ?」

問い詰めるような声じゃなかった。
優しい声だった。微笑みすら浮かべていた。
でも、その瞳の奥には、静かに広がる闇があった。

僕は何も否定できなかった。
なにか間違ったことをしたわけじゃないのに、彼女が不安になるような“要素”があること自体が、僕の罪のように思えてきた。

──だから、全部やめた。

連絡先を整理し、LINEの履歴も消し、友達との飲み会を断り続けた。
仕事以外の人間関係をすべて切り捨て、彼女だけに向き合う日々に変わっていった。

彼女は少しだけ笑顔を見せるようになった。
「やっと、私のことだけ見てくれてるね」
そう言って、僕の頬にキスをした。

その夜、僕は眠れなかった。

こんなにも、彼女を求めていたはずなのに。
ようやく手に入れたはずなのに。
なぜか、胸の奥にずっと沈殿している冷たい何かがあった。

まるで、水底に引きずられるように。

僕たちは、静かに、確実に、沈んでいた。

作者メッセージ

愛と依存が交錯する中で、壊れた関係を描かせていただきました。
誰かを求めることで、逆に傷つけてしまうことがある。
それでも終わらせる決断をした時、少しだけ楽になったように感じました。
しかし、その先に何が待っているのかは、まだわかりません。

月影

2025/04/17 21:52

月影 ID:≫ 5iUgeXQ3Vbsck
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