ｻﾞｰ…ｻﾞｻﾞｰｰ…
乃伊は、何故か大阪に居た。
賑わう街、飛び交う関西弁。
乃伊は、大阪の街を一人ぽつぽつと歩いていた。
どこに行くのかもわからないのに。
ふと、一人の男性が目に入った。
その人は見覚えがあって――。

[水平線]
ｺﾞﾛ…ｺﾞﾛｺﾞﾛ……
乃伊の足場がだんだん崩れていく。
そして、完全に崩れ落ちる。
ｻﾞﾌﾞｯ！
乃伊は、果てのない海へと沈んでいく。

[水平線]
花弁「乃伊〜！おはよ！」
花弁は乃伊を見つけた瞬間、猪のように猪突猛進する。
乃伊「ぐへっ！もー、突進しないでよ…」
それを食らった乃伊は、びっくりしながらも笑う。
いつも通りの楽しい日々。
ずっと続くと思っていた。
あの日、までは。
乃伊は信じられない光景を目にした。
あの花弁が、仲間を大切にしていた花弁が、乃伊のクラスメイトを殴っていたから。
乃伊は必死に止めようとした。
魔法を使ってでも。
だけど、花弁と乃伊の差は圧倒的だった。
通用しない魔法がほぼ全て。
乃伊はボロボロになりながらも止めた。
それでも、完全に止めることは出来なかった。
それから乃伊は、東京に来てから花弁とはなんの関係も無いように過ごした。
仲間を心配させたくない。
ただの自意識過剰かもしれない。
そんなこと、乃伊が一番分かっていた。
このことは自分で終わらせると心に決めた。
花弁が学校に来ても。
操り魔法が解けてでも、言わなかった。
そんな自分に嫌味が差してきて、どうしようかと悩む日々が続いた。
もう、死んでしまいたいと思うほど。
乃伊はまた元気なふりをする。
心配しないなら、もうそれでいい。
でもついに我慢できなかった。
乃伊は寝静まった夜の学校を歩き、職員室から屋上の鍵をおもむろに取った。
そして、屋上の鍵を開ける。
ガチャリと鈍い音を立て開けられる扉は何故か重くて、必死に阻止しているようだった。
それでも乃伊は押し開け、屋上の階段を駆け上がる。
でも、駆け上がった先に居たのは静かな風が吹き抜ける屋上ではなかった。
誰かの防御壁が、ここは通すまいと守っている。
しかも、凄い魔力で。
乃伊はそれを不思議に思い、防御壁をコンっと叩いた。
乃伊を阻止していたのは誰なのか。
その思いが先走り、杖を構えた時だった。
？？「お前か。乃伊。」
夢羅でも帳でも暁でもない声が屋上に響いた。
いや、屋上だから響くことは無いのだが、防御壁で響いたように聞こえた。
乃伊はふっと頭を上げる。
そこに居たのは―――
[太字]狐梨亀屋、魔法使い最強と記された者が居た。[/太字]
乃伊はそれが信じられなくて、目を強く擦った。
でも、消えない。
乃伊は恐る恐る話しかけた。
乃伊「なんや…？貴方は本当に狐梨亀屋さんなのか……？」
乃伊の声は震え、恐怖に満ちた声だった。
だが少し、安心したような感情も籠もっていた。
すると狐梨はこう答えた。
亀屋「実態では無い。ただ、転生者を見つけただけ。」
乃伊「転生者？」
転生者。
この魔法界ではあり得ないこと。
乃伊は更に言及した。
乃伊「……もしかして、うちが狐梨さんの生まれ変わりってことなん…？」
亀屋「御名答。大正解。」
乃伊「でも、あり得ないんじゃ―」
亀屋「あり得るよ。君が存在している限り。だから、まだ死ぬなってこと。じゃね。」
乃伊「ま、まっt、」
ﾋﾞｭｯ！
亀屋は煙のように消えた。
たった少しの出来事過ぎて、呆然と立ち尽くす乃伊。
それでも何故か、心のモヤが消えたような気がして。
乃伊は、そのまま走り出す。

[水平線]
ｺﾞﾎﾟ…
乃伊は目を開く。
そして、目に映る光景を眺めながら、また深く沈んでいった。