キャベツの答え
#1
僕は、毎日、同じ時間に崖の前に立っている。目の前でキャベツを落とし、その後ろで誰かが繰り返し同じことをしている。彼らがそれを終わらせると、また次の人が来る。その繰り返し。それが、僕の仕事だった。
キャベツを崖から落とす。それだけだ。言ってしまえば、非常に単純で、何の変哲もない仕事だ。なのに、なぜか人々はそれに惹かれてくる。最初は皆、戸惑いながらも、やがてそれが日常の一部になる。そして、気づけば皆、顔に疲れた表情を浮かべている。
僕は、そんな彼らを見守りながら、無表情で言うことを繰り返すだけだ。「詮索しないこと。」それだけがルールだ。それが全てだ。
「また来たな、君も。」
彼がやってきたのは、普段の時間通りだった。佐藤亮太。何かに悩んでいるような顔をしているが、まぁ、それはどうでもいいことだ。僕はただ、彼に言う。「キャベツを崖から落とせ。」
彼はその言葉に従い、渡されたキャベツを手に取る。そして、無言で崖の縁に立つ。僕はその背中を見守り、しばらく黙っていた。
その日もいつものように、キャベツは空を舞い、そして岩に当たって粉々になった。何の音もなく、ただそれだけの出来事だった。
でも、亮太は違った。数日経ったある日、彼が何かに気づいたような素振りを見せた。崖の下をじっと見つめ、足を一歩前に踏み出す。僕は瞬時にその動きに気づき、声をかけた。
「詮索しないことだ。」
その声は冷たく響いた。亮太はびくりと肩を震わせ、すぐに足を引っ込めた。だけど、彼の目はどこか揺れていた。それから、彼は毎日、何かに引き寄せられるように、崖の下に目を向けていた。
僕はそれを見逃すことなく、ただ黙って立っていた。彼が疑念を抱くのは当然のことだ。なぜなら、この場所には、何かが埋まっているのだから。
実際、その「何か」こそが、すべての真相に繋がっている。僕はそのことを知っている。何も言わないけれど、亮太もすぐにそれを感じ取っただろう。
ある日、彼はとうとうその真相に踏み込んだ。僕の言葉が冷たく響いたその瞬間、彼は無意識に手を伸ばしそうになった。でも、僕がそれを止めたとき、彼の顔に浮かんだのは、確かに怖れと好奇心だった。
その時、ついに彼が口にした。
「…あれ、何なんですか?」
言葉が出た瞬間、僕はようやくその問いに答えることを決めた。
「君が知りたかったんだな。」
僕はゆっくりと崖の下を指さした。「あれが、君の答えだ。」
亮太が目を凝らして見つめると、崖の下から少しずつ現れたのは、予想外のものであった。それはキャベツではなく、まるで古びた箱のようなものだった。箱の表面は苔むし、時が止まったように静かに輝いている。亮太はその箱を見つめ、しばらく無言だった。
「これは、君が求めていた答えか?」僕は静かに言った。
「…答え、ですか?」
僕は彼の目をじっと見つめた。「この場所に来る理由は、ただひとつ。繰り返し。崖からキャベツを落とすこと、それ自体に意味はない。だが、意味がないからこそ、人々はその中に意味を見出そうとする。君も、その一人だ。君がここに来た理由も、答えを知りたかったからだ。」
亮太は箱を見つめる。僕はその背中に目をやりながら、最後の言葉を口にした。
「だが、知ることがすべてではない。」
その時、箱がひときわ強く光り、少しずつ消えていった。
「その箱を開ければ、君が知りたかったことが全てわかるだろう。しかし、君はその後、何をすべきか分かるだろうか?」
亮太は箱に手を伸ばさなかった。恐れもあったか、あるいは別の理由で、手を引っ込めた。
僕はその姿を見て、少しだけ満足した。答えを求めることが、時には最も恐ろしいことだと知っているから。
「君は、もう分かっただろう。」
僕は静かにそう言った。
亮太はその後、何も言わずに立ち去った。もう二度とここには来ないだろう。だが、彼の中には確かに何かが変わったのだと感じた。
キャベツが落ちる音だけが、今日も崖の下に響く。答えを求めても、それが果たして本当に「答え」なのか、誰もわからないまま。
キャベツを崖から落とす。それだけだ。言ってしまえば、非常に単純で、何の変哲もない仕事だ。なのに、なぜか人々はそれに惹かれてくる。最初は皆、戸惑いながらも、やがてそれが日常の一部になる。そして、気づけば皆、顔に疲れた表情を浮かべている。
僕は、そんな彼らを見守りながら、無表情で言うことを繰り返すだけだ。「詮索しないこと。」それだけがルールだ。それが全てだ。
「また来たな、君も。」
彼がやってきたのは、普段の時間通りだった。佐藤亮太。何かに悩んでいるような顔をしているが、まぁ、それはどうでもいいことだ。僕はただ、彼に言う。「キャベツを崖から落とせ。」
彼はその言葉に従い、渡されたキャベツを手に取る。そして、無言で崖の縁に立つ。僕はその背中を見守り、しばらく黙っていた。
その日もいつものように、キャベツは空を舞い、そして岩に当たって粉々になった。何の音もなく、ただそれだけの出来事だった。
でも、亮太は違った。数日経ったある日、彼が何かに気づいたような素振りを見せた。崖の下をじっと見つめ、足を一歩前に踏み出す。僕は瞬時にその動きに気づき、声をかけた。
「詮索しないことだ。」
その声は冷たく響いた。亮太はびくりと肩を震わせ、すぐに足を引っ込めた。だけど、彼の目はどこか揺れていた。それから、彼は毎日、何かに引き寄せられるように、崖の下に目を向けていた。
僕はそれを見逃すことなく、ただ黙って立っていた。彼が疑念を抱くのは当然のことだ。なぜなら、この場所には、何かが埋まっているのだから。
実際、その「何か」こそが、すべての真相に繋がっている。僕はそのことを知っている。何も言わないけれど、亮太もすぐにそれを感じ取っただろう。
ある日、彼はとうとうその真相に踏み込んだ。僕の言葉が冷たく響いたその瞬間、彼は無意識に手を伸ばしそうになった。でも、僕がそれを止めたとき、彼の顔に浮かんだのは、確かに怖れと好奇心だった。
その時、ついに彼が口にした。
「…あれ、何なんですか?」
言葉が出た瞬間、僕はようやくその問いに答えることを決めた。
「君が知りたかったんだな。」
僕はゆっくりと崖の下を指さした。「あれが、君の答えだ。」
亮太が目を凝らして見つめると、崖の下から少しずつ現れたのは、予想外のものであった。それはキャベツではなく、まるで古びた箱のようなものだった。箱の表面は苔むし、時が止まったように静かに輝いている。亮太はその箱を見つめ、しばらく無言だった。
「これは、君が求めていた答えか?」僕は静かに言った。
「…答え、ですか?」
僕は彼の目をじっと見つめた。「この場所に来る理由は、ただひとつ。繰り返し。崖からキャベツを落とすこと、それ自体に意味はない。だが、意味がないからこそ、人々はその中に意味を見出そうとする。君も、その一人だ。君がここに来た理由も、答えを知りたかったからだ。」
亮太は箱を見つめる。僕はその背中に目をやりながら、最後の言葉を口にした。
「だが、知ることがすべてではない。」
その時、箱がひときわ強く光り、少しずつ消えていった。
「その箱を開ければ、君が知りたかったことが全てわかるだろう。しかし、君はその後、何をすべきか分かるだろうか?」
亮太は箱に手を伸ばさなかった。恐れもあったか、あるいは別の理由で、手を引っ込めた。
僕はその姿を見て、少しだけ満足した。答えを求めることが、時には最も恐ろしいことだと知っているから。
「君は、もう分かっただろう。」
僕は静かにそう言った。
亮太はその後、何も言わずに立ち去った。もう二度とここには来ないだろう。だが、彼の中には確かに何かが変わったのだと感じた。
キャベツが落ちる音だけが、今日も崖の下に響く。答えを求めても、それが果たして本当に「答え」なのか、誰もわからないまま。
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