# 華麗に演じて魅せましょう .
お母様の言葉は、私の心に深く重くのしかかっていた。
政略結婚の相手国を「野蛮な俗物」と罵り、その国へ娘を嫁がせることに猛反対する母親の姿は、リーゼにとって慣れたものだった。
しかし、今回ばかりは、その言葉の矛先が、愛国心溢れる者ならば決して許さないであろう冒涜的な表現を含んでいたため、私は内心で激しい怒りを覚える。
(さぞ愛国心の強いハーデンベルギア国の使いでもいれば、相手の立場が例え大聖女だろうと迷わず切り殺しているでしょうに)
リーゼは、顔に貼り付けた笑顔を崩さずに、膝に重ねた両手を強く握りしめる。
爪が食い込み、赤い跡が残るほどだ。
数秒後、ハッと我に返り、自分の手を見下ろす。
(…かの方も、可哀想にね。)
この政略結婚が、お互いの意思ではなく、それぞれの国の事情によって強行されていることを私は理解していた。
自国の重圧と、民の安心を願う相手国の大臣たちが皇子を押し切って決定したのだろうと。
「___分かったわね、リーゼ。」
母親の鋭い視線が私を射抜く。
「…はい。」
私は か細い声で答える。
それだけ聞くと、母親は不機嫌さを露わにし、大声で愚痴を吐きながら部屋へ戻っていった。
母親のいない食卓はすぐに中断され、父もセリーナも自室へ帰っていく。
残されたのは、リーゼ一人。
冷え切った食事を口に運び、料理長に礼を言ってから、夜空が見える廊下を自室へと歩む。
(たたかれずに済んだだけ、マシかしら)
私はそう思い、ドレスのフリルで隠れていた自分の腕をまくり上げた。
そこには、赤く腫れ上がり、くっきりと残る折檻の跡。
メイドが淹れた紅茶がぬるいとカップを床に投げ捨て、ちょうど近くを通りかかったリーゼを捕まえ、「お前のせいだ」と叩かれた跡だ。
____お母様は、私を憎んでいる。
その事実は、リーゼの心を深く蝕んでいた。