# 後悔はディナーの後で .
メイドに案内された王城の通用口。
セレスティアは古くからの学友であり女性騎士隊に所属しているリーシャと向き合っていた。
彼女の顔には、普段の冷静さはなく、困惑と深い悲しみが刻まれている。
「 ルミナリス嬢、本日は申し訳なかった。殿下があのような態度を取られるとは……」
リーシャは深々と頭を下げた。
彼女は好んで人に近づかないさっぱりとした性格だからか リリアーナの魅了にはかかっていないようだった。
彼女の声は震え、セレスティアを見上げる瞳には どうすることもできないもどかしさが滲んでいる。
「 リーシャ、顔を上げてちょうだい。貴女は何も悪くないのよ。」
セレスティアはリーシャの震える手をそっと握った。
学園内では、よく殿下と私とリーシャの3人で受講していて、仲が良かった。
彼女の苦悩は、セレスティアにも痛いほど伝わってくる。
「 殿下は ... 殿下は、あの令嬢に完全に魅了されている。どうすれば、この状況を打開できるのか ... 」
リーシャは絞り出すような声で言った。
彼女の言葉は リアム殿下への深い忠誠と、理解できない現実への困惑を示している。
彼女にとって、おそらく王城の全ての者にとって リアム殿下の態度は、単にリリアーナへの恋慕からくるものとしか映っていないのだろう。
( そう、誰も気づいていない。殿下自身も、リーシャも、殿下の側近たちも ... 自身が偽りの感情を持っていることを、転生者である私と彼女しか知らない。)
セレスティアは心の中で呟いた。
ゲームの知識がなければ セレスティアもまた、殿下が変わってしまったのは自分のせいだと自責していたかもしれない。
だが、彼女は知っている。
彼らの感情が、操作されたものだということを。
その事実がセレスティアの心を締め付ける一方で、彼女を突き動かす原動力となっていた。
馬車がゆっくりと動き出し、王城の高くそびえる壁があっという間に遠ざかっていく。
窓の外に広がる王都の賑やかな街並みも、セレスティアの目にはどこか虚ろに映った。
( 彼とは縁が無かった、と思えば楽かしら )
この世界で唯一、リリアーナの真の目的と、アイテムの恐ろしさを知る自分。
その知識が、セレスティアを孤独な戦いへと駆り立てる。
リアム殿下を救うためには、彼らの「盲信」を打ち破る必要があった。
しかし、その手段はまだ見つからない。
( ゲームでは、ここから国外追放ルート。ヒロインはそこで新たな出会いを果たし、最終的に真の愛を見つける ... でも、それはリリアーナの思い通りになるということ。)
セレスティアは、決してそのシナリオ通りにはさせないと心に誓った。
彼女は、帰路に着く馬車の中で、静かに次の策を練り始める。
このまま指をくわえて見ているつもりはなかった。