或る田舎の話
「おお、もう元気そうだな。よかったよかった」
次の日、円堂先生が家にやって来てそう言った。お母さんがお礼を言って、お菓子と冷たい麦茶を出した。「なんかこれ目当てで来たみたいになっちゃったな」と照れくさそうに笑いながら、円堂先生は麦茶を飲んだ。俺は円堂先生と並んで縁側に座って、庭を眺めていた。
「昨日はありがと」
「いや、いいよ。…それよりお前で、夏休みの宿題やってるか」
「なんにも手つけてない」
「おいおい。ひまわりの観察だけでも今やっちゃえよ」
「…はぁい…」
俺はランドセルから「ひまわりの観察」と印刷されたプリントをひきずり出した。鉛筆をとがらせて、プランターに入ったひまわりの絵を描く。
1人ひとつひまわりの種とプランターが分けられ、それを育てて絵を描こうという宿題だ。俺はよく水やりを忘れるから、プラスチックのプランターに育つひまわりは小さい。
「あら、やだ、本当にすいません、宿題まで見てもらっちゃって…」
お母さんが麦茶のおかわりを入れながら先生に謝った。
「いえいえ、大したことじゃありませんし。麦茶ごちそうさまです」
「その麦茶、私とお母さんの手作りなんですよ」
暇を持て余したらしい姉さんが、こっちへ来て口を出した。姉さんはこういうおしゃべりモードになるとやかましい。ぴょんぴょん飛び跳ねながら、しきりに円堂先生に話しかけた。
「円堂先生、あたしはもう夏休みの宿題、半分以上終わりましたよ。あと自由研究と、ワーク少し、それからえっと…そう、読書感想文だけなんですけどね、ふふ、あたし宿題はすぐに終わらせたいタイプなんです。終わったらプールとか行って、友だちとも遊ぶんですよ、それから…」
「出た、姉さんのマシンガントーク」
俺がぼそりと呟くと、先生は思わず吹き出した。だけどその後先生はずっと姉さんのおしゃべりに付き合わされて、おもしろくなくなった俺は、描きかけのひまわりを放り出して、畳をもぞもぞと移動した。手足にひんやりした畳が触れて、気持ちが良い。芋虫のように転がっていると、ふと、押し入れの奥に目がいった。布団と、一冊の本が置いてある。
(あ、あれ)
思い出の中に引き込まれるように、俺はあることを思い出していた。
次の日、円堂先生が家にやって来てそう言った。お母さんがお礼を言って、お菓子と冷たい麦茶を出した。「なんかこれ目当てで来たみたいになっちゃったな」と照れくさそうに笑いながら、円堂先生は麦茶を飲んだ。俺は円堂先生と並んで縁側に座って、庭を眺めていた。
「昨日はありがと」
「いや、いいよ。…それよりお前で、夏休みの宿題やってるか」
「なんにも手つけてない」
「おいおい。ひまわりの観察だけでも今やっちゃえよ」
「…はぁい…」
俺はランドセルから「ひまわりの観察」と印刷されたプリントをひきずり出した。鉛筆をとがらせて、プランターに入ったひまわりの絵を描く。
1人ひとつひまわりの種とプランターが分けられ、それを育てて絵を描こうという宿題だ。俺はよく水やりを忘れるから、プラスチックのプランターに育つひまわりは小さい。
「あら、やだ、本当にすいません、宿題まで見てもらっちゃって…」
お母さんが麦茶のおかわりを入れながら先生に謝った。
「いえいえ、大したことじゃありませんし。麦茶ごちそうさまです」
「その麦茶、私とお母さんの手作りなんですよ」
暇を持て余したらしい姉さんが、こっちへ来て口を出した。姉さんはこういうおしゃべりモードになるとやかましい。ぴょんぴょん飛び跳ねながら、しきりに円堂先生に話しかけた。
「円堂先生、あたしはもう夏休みの宿題、半分以上終わりましたよ。あと自由研究と、ワーク少し、それからえっと…そう、読書感想文だけなんですけどね、ふふ、あたし宿題はすぐに終わらせたいタイプなんです。終わったらプールとか行って、友だちとも遊ぶんですよ、それから…」
「出た、姉さんのマシンガントーク」
俺がぼそりと呟くと、先生は思わず吹き出した。だけどその後先生はずっと姉さんのおしゃべりに付き合わされて、おもしろくなくなった俺は、描きかけのひまわりを放り出して、畳をもぞもぞと移動した。手足にひんやりした畳が触れて、気持ちが良い。芋虫のように転がっていると、ふと、押し入れの奥に目がいった。布団と、一冊の本が置いてある。
(あ、あれ)
思い出の中に引き込まれるように、俺はあることを思い出していた。