或る田舎の話
切ったばかりの手首を母さんにつき出した。傷口からシミシミと血がにじんでくる。母さんは傷ついた顔をして、首を振ると、救急箱を取りに行った。お互い、何も言わなかった。こんなことは、一度や二度ではなかったのだ。俺は残酷な、笑いたいような気持ちで、傷口を眺めていた。割れた線からしたたる血が、畳に染みを作るのを見つめていた。部屋に出しっ放しの、血を拭き取ってすらいないカッターと、俺自身と、母さんと、この状況を笑いとばして、どこかにやってしまいたい気分だった。
母さんは救急箱を抱えて戻ってくると、消えそうな声で「座りなさい」と俺に命じた。俺は畳の上に座り込んだ。母さんは救急箱から包帯を取り出した。それは端にテープが巻かれた新品で、まだ残っているやつがあるのに、そっちは使わないのかなと俺は思った。でも、何も言わなかった。母さんは消毒もせず、俺の手首に包帯を巻いた。消毒は傷口に染みて、俺が嫌がるからだった。クルクル巻かれていく包帯と母さんの手の白が、薄暗い部屋でひきたった。
ふいにぽとんと、包帯に涙が落ちた。顔を上げると、母さんが声をたてずに泣いていた。俺は、母さんの目に薄い膜を張るそれを舐めとってやりたいと、狂気じみたことを考えた。やさしさと、いじめたい気が、一緒になって頭の中でかきまぜられた。
お互い、何も言わなかった。
母さんは救急箱を抱えて戻ってくると、消えそうな声で「座りなさい」と俺に命じた。俺は畳の上に座り込んだ。母さんは救急箱から包帯を取り出した。それは端にテープが巻かれた新品で、まだ残っているやつがあるのに、そっちは使わないのかなと俺は思った。でも、何も言わなかった。母さんは消毒もせず、俺の手首に包帯を巻いた。消毒は傷口に染みて、俺が嫌がるからだった。クルクル巻かれていく包帯と母さんの手の白が、薄暗い部屋でひきたった。
ふいにぽとんと、包帯に涙が落ちた。顔を上げると、母さんが声をたてずに泣いていた。俺は、母さんの目に薄い膜を張るそれを舐めとってやりたいと、狂気じみたことを考えた。やさしさと、いじめたい気が、一緒になって頭の中でかきまぜられた。
お互い、何も言わなかった。