少女たちの地獄
尾座羽藍陽は書斎にいた。そこは父の書斎だった。
書斎の扉は内側から鍵が掛けられ、藍陽は扉にくっ付くように立っていた。
藍陽の足元には頭から血を流した男が倒れていた。それは藍陽の父親だった。
話は数分前に遡る。
藍陽は説教を受けていた。試験の点が前回より三点下がったので父親から叱られているのだった。厳格な父は、藍陽の試験の点数が一点でも下がることを許さなかった。
藍陽は項垂れながら、そろりと横目で部屋を見まわした。藍陽の真横にある棚の上に、ピカピカ輝くトロフィーが置いてあった。父が何かの…藍陽に言わせればくだらない…賞で貰ったものだった。父のモットーは「常に上へ」。自他共にそれを課すストイックな人間だった。彼は少し度が過ぎた。そのせいで、数分後に藍陽の足元に転がることになったのだった。
「…とにかく、以後気をつけるように。二度とこんな点数を取るんじゃないぞ」
「はい」
藍陽の殊勝な返事を聞いて、父は説教をやめ、背を向けた。藍陽はそれを確認すると同時に、棚の上のトロフィーを掴んだ。「…お父さァん」と呼んだ。
「…何だ」
父が振り返る。藍陽は手を振り上げ、トロフィーを父の頭に叩きつけた。
父の頭から血がしぶいた。数歩よろめいて彼は倒れた。この書斎はバイオリンを嗜む父の為に防音の壁を使っていたので、今の凶行の音を誰かに聞かれる心配はなかった。
藍陽は着ていたセーラーの制服に返り血が付かないよう後ずさった。そして、あらかじめスカートのポケットに入れておいた手袋を取り出して、手にはめた。父の倒れている床に敷かれたカーペットの両端を掴み、父親ごと引っ張り上げた。勿論、血が付かないよう充分注意した。満身の力を込めてずるずると引きずり、クローゼットの中に父を押し込んだ。カーペットを抜き取り、丁寧に戻した。全てを終えると、姿見で前髪や制服の皺を直して、落ち着き払って書斎を出た。扉の内側のノブを手袋で拭いておくことも忘れなかった。そして手袋を外し、これも持って来ていたビニール袋に仕舞って、スカートに押し入れた。
書斎の扉は内側から鍵が掛けられ、藍陽は扉にくっ付くように立っていた。
藍陽の足元には頭から血を流した男が倒れていた。それは藍陽の父親だった。
話は数分前に遡る。
藍陽は説教を受けていた。試験の点が前回より三点下がったので父親から叱られているのだった。厳格な父は、藍陽の試験の点数が一点でも下がることを許さなかった。
藍陽は項垂れながら、そろりと横目で部屋を見まわした。藍陽の真横にある棚の上に、ピカピカ輝くトロフィーが置いてあった。父が何かの…藍陽に言わせればくだらない…賞で貰ったものだった。父のモットーは「常に上へ」。自他共にそれを課すストイックな人間だった。彼は少し度が過ぎた。そのせいで、数分後に藍陽の足元に転がることになったのだった。
「…とにかく、以後気をつけるように。二度とこんな点数を取るんじゃないぞ」
「はい」
藍陽の殊勝な返事を聞いて、父は説教をやめ、背を向けた。藍陽はそれを確認すると同時に、棚の上のトロフィーを掴んだ。「…お父さァん」と呼んだ。
「…何だ」
父が振り返る。藍陽は手を振り上げ、トロフィーを父の頭に叩きつけた。
父の頭から血がしぶいた。数歩よろめいて彼は倒れた。この書斎はバイオリンを嗜む父の為に防音の壁を使っていたので、今の凶行の音を誰かに聞かれる心配はなかった。
藍陽は着ていたセーラーの制服に返り血が付かないよう後ずさった。そして、あらかじめスカートのポケットに入れておいた手袋を取り出して、手にはめた。父の倒れている床に敷かれたカーペットの両端を掴み、父親ごと引っ張り上げた。勿論、血が付かないよう充分注意した。満身の力を込めてずるずると引きずり、クローゼットの中に父を押し込んだ。カーペットを抜き取り、丁寧に戻した。全てを終えると、姿見で前髪や制服の皺を直して、落ち着き払って書斎を出た。扉の内側のノブを手袋で拭いておくことも忘れなかった。そして手袋を外し、これも持って来ていたビニール袋に仕舞って、スカートに押し入れた。