少女たちの地獄
小島かろりは書物をしていた。児猫のしっぽの如く細く、白い彼女の指がペンを握り、原稿用紙の上を踊った。かろりは十八だった。かろりには二つの未来が見えていた。一つは、某パトロンの膝の上で、飴を舐めている未来ーーもう一つには、このまま貧しい暮らしを続け、孤独に両親を看取る未来だった。どちらにも彼女は曖昧な流し眼を向けただけで、甘い、哀しい感傷の域を出ることはなかった。要するに、どちらとも決めかねていたのである。その理由には、かろりのような十人並みの小娘が何を選んだところで、結局それらを押し流す強い波があるだろうという気持があったからだった。彼女は未来について考えるごとに、この結論に帰した。諦め、或いは楽天的。それが彼女に根づいた性格だった。
「お嬢さん。少し休んではいかがで」
不意に、後ろから声をかけられ、かろりは手を止めた。ペンを静かに置くと、振り返って応えた。
「執筆中は入ってこないでって言ってるでしょう」
そう言いはしたものの、かろりにそこまで嫌そうな色はなかった。室に入ってきた相手、女中のサヤ婆さんは、子供を諭すように言い返した。
「ですがね、また昼餉を抜くつもりなのでしょう。いけませんよ、お嬢さんの歳で…いい加減、下に降りていらしったらいかがです」
「厭よ。降りていけばどうせ、父さんと母さんに小言を言われるんですもの」
かろりの小さな、端正な顔に、かすかな恨みがましいものが通りすぎた。
「だけど、そう長いこと執筆なされていては、お疲れになるでしょう」
「そうでもないわ」
かろりは胸を張って答えたが、「でもさすがに、」と言いかけた。
「少し、疲れました」
かろりは微笑した。サヤ婆さんは最初から判っていたように、茶と握り飯を差し出した。...
かろりは握り飯を噛み乍ら、自分の行く末について考えた。そして、今と違うのなら何んでもいいと思った。彼女はこの生活に食傷気味だった。いっそこの二階の窓から飛び降りて見たいとぼんやり考えたが、噛みくだかれた米と一緒にその思考は飲みこまれ、かろりは忘れた。
「お嬢さん。少し休んではいかがで」
不意に、後ろから声をかけられ、かろりは手を止めた。ペンを静かに置くと、振り返って応えた。
「執筆中は入ってこないでって言ってるでしょう」
そう言いはしたものの、かろりにそこまで嫌そうな色はなかった。室に入ってきた相手、女中のサヤ婆さんは、子供を諭すように言い返した。
「ですがね、また昼餉を抜くつもりなのでしょう。いけませんよ、お嬢さんの歳で…いい加減、下に降りていらしったらいかがです」
「厭よ。降りていけばどうせ、父さんと母さんに小言を言われるんですもの」
かろりの小さな、端正な顔に、かすかな恨みがましいものが通りすぎた。
「だけど、そう長いこと執筆なされていては、お疲れになるでしょう」
「そうでもないわ」
かろりは胸を張って答えたが、「でもさすがに、」と言いかけた。
「少し、疲れました」
かろりは微笑した。サヤ婆さんは最初から判っていたように、茶と握り飯を差し出した。...
かろりは握り飯を噛み乍ら、自分の行く末について考えた。そして、今と違うのなら何んでもいいと思った。彼女はこの生活に食傷気味だった。いっそこの二階の窓から飛び降りて見たいとぼんやり考えたが、噛みくだかれた米と一緒にその思考は飲みこまれ、かろりは忘れた。