少女たちの地獄
回向並木は歩いていた。木枯らしが彼女の身体の上をころがって、骨を軋ませた。並木は首に巻いたマフラーに小さな顎を埋めるようにして歩いた。
ふと、並木の鼻のすぐ先に、柔らかく白い玉が落ちてきた。並木は黝い、もったりした色の空を見上げて、呟いた。
「雪…」
「初雪ですね」
ふいに、並木にそう声をかけてくるテノールの声があった。並木のそばに、軍服を着て、鼠色のコートを羽織った男が立っていた。男の並木を見る目には、どこか愛情のようなものが浮んでいた。
「何処へ行かれるのです」
男に尋ねられ、並木は答えた。
「遠い処へ」
「如何やって行かれるのです」
「お船に乗って、空を飛んで、ずっとずっと階段を昇って。遠い遠い処へ行くのです」
並木が言うと、男は笑った。木枯らしの鳴るような、かすかな枯れた笑い声だった。
「それは大変だ。何故そうまでして行かれるのです」
「判りません。忘れてしまいました」
並木も笑った。やはり木枯らしのような笑い声だった。
「おやおや。目的を忘れたのなら、行く必要はないのでは」
「いいえ。あります」
並木は男にほほ笑みかけた。そして言った。
「私の心が、行けと言うからです。心がそう言うのなら、たとえ目的を失っていても、私は行くべきなのでしょう」
並木の言葉に、男はふと寂しそうな顔をした。そして、揺れる声で、誰に言うともなく囁いた。
「あなたはまた、私を忘れられたのですね」
「…?何か言われまして?」
「いいえ。何でもありませんよ。どうかお気をつけて。あなたの旅路に幸多からんことを」
男は慈愛深くほほ笑むと、並木に背を向けて歩き出した。並木もまた、歩き出した。何処からともなく、犬が現れて、並木の隣を歩きだした。雪のかたまりのような、真っ白な犬だった。並木は犬を見て、そっと笑みをこぼし、抱きあげた。そうして、犬を抱いたまま、木枯れた路を歩いて行った。
ふと、並木の鼻のすぐ先に、柔らかく白い玉が落ちてきた。並木は黝い、もったりした色の空を見上げて、呟いた。
「雪…」
「初雪ですね」
ふいに、並木にそう声をかけてくるテノールの声があった。並木のそばに、軍服を着て、鼠色のコートを羽織った男が立っていた。男の並木を見る目には、どこか愛情のようなものが浮んでいた。
「何処へ行かれるのです」
男に尋ねられ、並木は答えた。
「遠い処へ」
「如何やって行かれるのです」
「お船に乗って、空を飛んで、ずっとずっと階段を昇って。遠い遠い処へ行くのです」
並木が言うと、男は笑った。木枯らしの鳴るような、かすかな枯れた笑い声だった。
「それは大変だ。何故そうまでして行かれるのです」
「判りません。忘れてしまいました」
並木も笑った。やはり木枯らしのような笑い声だった。
「おやおや。目的を忘れたのなら、行く必要はないのでは」
「いいえ。あります」
並木は男にほほ笑みかけた。そして言った。
「私の心が、行けと言うからです。心がそう言うのなら、たとえ目的を失っていても、私は行くべきなのでしょう」
並木の言葉に、男はふと寂しそうな顔をした。そして、揺れる声で、誰に言うともなく囁いた。
「あなたはまた、私を忘れられたのですね」
「…?何か言われまして?」
「いいえ。何でもありませんよ。どうかお気をつけて。あなたの旅路に幸多からんことを」
男は慈愛深くほほ笑むと、並木に背を向けて歩き出した。並木もまた、歩き出した。何処からともなく、犬が現れて、並木の隣を歩きだした。雪のかたまりのような、真っ白な犬だった。並木は犬を見て、そっと笑みをこぼし、抱きあげた。そうして、犬を抱いたまま、木枯れた路を歩いて行った。