少女たちの地獄
L県県立高校M学校の朝である。
弥代琴音は髪を食べていた。
正確に言うと口に入れて噛んでいた。ぎしぎしとくもった音がする。
「見てアイツ、また髪食ってるよ」
「うわほんとだ、きしょ…」
遠まきに彼女を眺め、グループをつくった女子生徒たちがひそひそと陰口をはじめる。
琴音はそれを見回して、暫く静止したのち、べろんと髪を吐き出した。口から滑り落ちた髪は、まとまって濡れ、てろてろと光っている。女子生徒たちから悲鳴が上がった。
琴音はR組の2年生で、ごく普通の女の子である。琴音の家族は3人で、母と、父と、兄。
琴音は高校生活を楽しんでいた。しかし、周りは琴音といても楽しくはなかったようだ。
「ねー、弥代さんって何で髪食ってんの?美味いの?」
ふいに、1人の男子生徒が近づいてきて、琴音にそう聞いた。彼の後ろには、彼のグループの男子生徒たちがいて、面白そうに琴音を見ている。やめろよお前、アイツマジで言ったぞ、と、半笑いの囁きが聞こえる。
琴音は少し考えて、さっきまで咥えていた髪を摘み、男子生徒に向けた。彼は笑いに歪めた唇をひくりと動かす。
「試してみる?」
教室が、シーンと音を鳴らして静かになった。
「や、いいです、いいです」
ややあって、男子生徒が慌てたように答えると、ようやく空気が弛緩した。件の男子生徒は、頭を掻いて自分のグループに戻っていった。
「試してみる?だって」
「アイツマジ頭おかしいよ」
そんな言葉が小さく飛び交う。中には声を出さず、目と目でテレパシーを送りあっている者もいる。くすくす、ひそひそ、琴音を中心に、悪意の澱んだ空気がひろがって、溜まっていく。困ったように眉をひそめる者、不快そうに舌をつき出す者、琴音の真似をする者。じゃりじゃりする、と琴音は思った。暖房が効きすぎているのかもしれない。とも。
弥代琴音は髪を食べていた。
正確に言うと口に入れて噛んでいた。ぎしぎしとくもった音がする。
「見てアイツ、また髪食ってるよ」
「うわほんとだ、きしょ…」
遠まきに彼女を眺め、グループをつくった女子生徒たちがひそひそと陰口をはじめる。
琴音はそれを見回して、暫く静止したのち、べろんと髪を吐き出した。口から滑り落ちた髪は、まとまって濡れ、てろてろと光っている。女子生徒たちから悲鳴が上がった。
琴音はR組の2年生で、ごく普通の女の子である。琴音の家族は3人で、母と、父と、兄。
琴音は高校生活を楽しんでいた。しかし、周りは琴音といても楽しくはなかったようだ。
「ねー、弥代さんって何で髪食ってんの?美味いの?」
ふいに、1人の男子生徒が近づいてきて、琴音にそう聞いた。彼の後ろには、彼のグループの男子生徒たちがいて、面白そうに琴音を見ている。やめろよお前、アイツマジで言ったぞ、と、半笑いの囁きが聞こえる。
琴音は少し考えて、さっきまで咥えていた髪を摘み、男子生徒に向けた。彼は笑いに歪めた唇をひくりと動かす。
「試してみる?」
教室が、シーンと音を鳴らして静かになった。
「や、いいです、いいです」
ややあって、男子生徒が慌てたように答えると、ようやく空気が弛緩した。件の男子生徒は、頭を掻いて自分のグループに戻っていった。
「試してみる?だって」
「アイツマジ頭おかしいよ」
そんな言葉が小さく飛び交う。中には声を出さず、目と目でテレパシーを送りあっている者もいる。くすくす、ひそひそ、琴音を中心に、悪意の澱んだ空気がひろがって、溜まっていく。困ったように眉をひそめる者、不快そうに舌をつき出す者、琴音の真似をする者。じゃりじゃりする、と琴音は思った。暖房が効きすぎているのかもしれない。とも。