金曜日の夜の事。【曲パロ中太】
#1
金曜日の夜。
私達が「そういう関係」で会うのはいつもその時だけだった。
太宰side
夜の街をふらふらと彷徨っていた。
街灯、光るネオン、匂い。全てが煩わしくて。
暗いところを歩きたい、そんな欲望に横浜の街が応える訳もなく。
ずっとずっとそんなことを繰り返していた。
結局帰り着くのはいつものあの家で、そんな自分に嫌気がしていたが。
元相棒。
昔も今も、ずっと変わらないその肩書。
_____所謂セフレだった。
昔も今も、ずっと変わらない。
仕事で破壊しつくしても吐き出せなかった欲。
いつもの相手への嫌がらせ、鬱憤晴らし。
なんとなく、物足りない。
お互いそんな時は体だけを頼った。
金曜の夜というのは、一週間のこと全てを忘れ去ることができそうだから、なんていう馬鹿みたいな理由しかない。
相手を好きになるなんて以ての外で、毎秒殺したいと思っていたようなそんな関係。
中也が死んだって私は多分気にもかけないだろう。
飽きたら捨てる、捨てられる。それが当たり前。
私は中也に、何時の間にか恋心を抱いていたようだ。
それを伝えれば今の体だけの関係というのも、元相棒というのも、全てが壊れるのが分かっていた。
だから言わない。だから言えない。
そのもどかしさを抱えながら私は今日も中也に抱かれに行く。
~…~…~…~… ・ …~…~…~…~
慣れた手付きでドアを開ける。
辺りにカチャ、という鈍い金属の音が鳴った。
「お邪魔しまぁ~す」
「よぉ、来たか」
中也side
金曜日の夜のことだ。
「中也は安っぽいラブソングは嫌い?」
「はぁ?まぁつまんねぇし、何か足りなねぇな~とは思う」
明日には忘れたいくらいクソみたいな曲にも出会ったことがある。
例えばこいつくらいクソと言えば伝わるだろうか。
我ながら不格好な愛だ。
本当は太宰のことが好きだった。
ずっと昔から。
でも当の本人は気付かない、見て見ぬ振りをしているかの様な気もする。
だから行為中に好きだとか愛してるだとかは言わない。
何だか薄っぺらいラブソングみたいだ、太宰と同じようなクズに成り下がった覚えはない。
嘘でも言いたくなかった、自分が傷つくんじゃないかとかいう邪魔なプライドが全てを覆っていく。
いつもいつも繰り返した、もし自分が太宰に愛を伝えて、それに太宰が応えたとして。
恋人同士になったなら、どれだけこの気持ちが楽になるのだろうか。
でもそれは自分の願いでしかなくて、それを妄想の太宰に押し付けるが同時に自分の心も締め付けた。
「そういえば、するときは何でも君が決めていたね」
「まぁ…言われてみれば。太宰がしたいことでもあんの?」
「じゃあ、今日はしない。いつもの様に酒を飲むだけにしよう」
そういう日もありなのか、と思った。
毎晩のように飲んでいても飽きないのが酒だ。
太宰side
酒を飲んで全てを忘れる。それが今の私の望みだ。
今日の様な夜なら、今頃お互いを貪りあっていたろうに。
私は何に縋り付いているんだろうか。
好きだと伝えれば壊れるこの関係か、だが伝えたいこの気持ちか、ただ中也という存在にか。
昔から自分にとって取るに足らないモノだと感じていたそれは、勘違いだったのだ。
「なぁ、今日はブランデーの気分なんだ。早く注いでくれない?」
そうやって金曜日の夜をやり過ごす、泥の様に眠るのもまた悪くない。
~…~…~…~… ・ …~…~…~…~
金曜日の夜。
今日で終わらせるんだ。絶対に。
ある決心をした。
ずっと前から考えていたルートの一つだが。
それは中也に好きだと伝えず、飽きたから捨てるという理由でセフレを解消すること。
そうすればお互い気まずい雰囲気になることもなく、平和に終わることができる。
少なくとも元相棒という関係は守られることになる。
だから今日だけは、私が好きに振り回してもいい。
どうしようもなく酔っているんだ、中原中也という男に。
~…~…~…~… ・ …~…~…~…~
またいつもの様に鍵を開ける。
カチャ、と鳴ったその音は心なしかいつもより軽い音だった気がした。
「………………」
無言で部屋にあがった。
「………………」
あちらも無言。
もしかすると相手もまた同じことを考えているのかもしれない。
外衣のポケットから、白い錠剤を取り出して飲み込んだ。
「そういえば、さ。中也この前安っぽいラブソングは、っ、つまらなくて、何か足りない気がするって、言ってたよね」
「言ったが…てか、なんでお前そんなに息」
太宰が中也の上に馬乗りになる。
「もっと欲しくない…?」
言わせて欲しかった言葉を自分から吐き出した。惨めだなぁ。
「欲しくねぇよ」
中也side
金曜の夜だ。
今日で、太宰との関係を断つ。
ある決心をした。
ずっと前からすれば良かっただけだが、出来なかったことに挑戦するのだ。
太宰もきっと同じことを考えているのだろう。
雰囲気を壊さず、平和的にセフレを解消出来たらいいのだが。
そして元相棒という立場は残す。
一つ、自分の想いを告げぬまま終わってしまうことだけが心残りとも言えるだろうか。
今日は何もしない。そうしないと心残りが増えてしまいそうだからだ。
~…~…~…~… ・ …~…~…~…~
「何?これくらい言わせてよ。今日くらい不格好な愛でもいいじゃない」
「はは、偶然だな。もう不格好な愛は捨てるって決めたんだ、俺は」
「今日くらい付き合ってよ!!いつもいつもそうやって、君に流されていく私が悪いのかな」
「ハッ、そうなんじゃねぇの?」
「___________っ」
ぽたりと、頬に水滴が落ちたのを感じた。
「はは、そうだ、そうだったね。何を勘違いしたか分からないよ、今丁度思い出したところだ。私達がただの体だけの関係だということ」
起き上がって言う。
「まぁ取り敢えず水飲めよ」
太宰は、手に持っていた解毒薬と共に水を飲んだ。
「最後まで私は足りない…何も満たされないまま終わるみたいだ」
「別に足りないもクソも無いだろ。俺はもう勘定しねぇからお前ももうするな」
「ふふ。私はこの手の取引では嘘は吐かない、君の言うことも聞こう」
「全部忘れようぜ、今までの金曜の夜のこと」
そう言って、ロマネ・コンティの64年物を手に取って太宰に渡す。
「なぁ、注いでくれよ。今日はブランデーの気分だ」
「夢に浸って溺れよう。全部壊れるのだから、忘れてしまっても大差ないさ。言いたい事はそれくらい?」
息をついて続けた。
「損な話だったな」
「まぁね」
カチッとグラスを合わせる。
さよなら、俺のフライデー・ナイト。
終
私達が「そういう関係」で会うのはいつもその時だけだった。
太宰side
夜の街をふらふらと彷徨っていた。
街灯、光るネオン、匂い。全てが煩わしくて。
暗いところを歩きたい、そんな欲望に横浜の街が応える訳もなく。
ずっとずっとそんなことを繰り返していた。
結局帰り着くのはいつものあの家で、そんな自分に嫌気がしていたが。
元相棒。
昔も今も、ずっと変わらないその肩書。
_____所謂セフレだった。
昔も今も、ずっと変わらない。
仕事で破壊しつくしても吐き出せなかった欲。
いつもの相手への嫌がらせ、鬱憤晴らし。
なんとなく、物足りない。
お互いそんな時は体だけを頼った。
金曜の夜というのは、一週間のこと全てを忘れ去ることができそうだから、なんていう馬鹿みたいな理由しかない。
相手を好きになるなんて以ての外で、毎秒殺したいと思っていたようなそんな関係。
中也が死んだって私は多分気にもかけないだろう。
飽きたら捨てる、捨てられる。それが当たり前。
私は中也に、何時の間にか恋心を抱いていたようだ。
それを伝えれば今の体だけの関係というのも、元相棒というのも、全てが壊れるのが分かっていた。
だから言わない。だから言えない。
そのもどかしさを抱えながら私は今日も中也に抱かれに行く。
~…~…~…~… ・ …~…~…~…~
慣れた手付きでドアを開ける。
辺りにカチャ、という鈍い金属の音が鳴った。
「お邪魔しまぁ~す」
「よぉ、来たか」
中也side
金曜日の夜のことだ。
「中也は安っぽいラブソングは嫌い?」
「はぁ?まぁつまんねぇし、何か足りなねぇな~とは思う」
明日には忘れたいくらいクソみたいな曲にも出会ったことがある。
例えばこいつくらいクソと言えば伝わるだろうか。
我ながら不格好な愛だ。
本当は太宰のことが好きだった。
ずっと昔から。
でも当の本人は気付かない、見て見ぬ振りをしているかの様な気もする。
だから行為中に好きだとか愛してるだとかは言わない。
何だか薄っぺらいラブソングみたいだ、太宰と同じようなクズに成り下がった覚えはない。
嘘でも言いたくなかった、自分が傷つくんじゃないかとかいう邪魔なプライドが全てを覆っていく。
いつもいつも繰り返した、もし自分が太宰に愛を伝えて、それに太宰が応えたとして。
恋人同士になったなら、どれだけこの気持ちが楽になるのだろうか。
でもそれは自分の願いでしかなくて、それを妄想の太宰に押し付けるが同時に自分の心も締め付けた。
「そういえば、するときは何でも君が決めていたね」
「まぁ…言われてみれば。太宰がしたいことでもあんの?」
「じゃあ、今日はしない。いつもの様に酒を飲むだけにしよう」
そういう日もありなのか、と思った。
毎晩のように飲んでいても飽きないのが酒だ。
太宰side
酒を飲んで全てを忘れる。それが今の私の望みだ。
今日の様な夜なら、今頃お互いを貪りあっていたろうに。
私は何に縋り付いているんだろうか。
好きだと伝えれば壊れるこの関係か、だが伝えたいこの気持ちか、ただ中也という存在にか。
昔から自分にとって取るに足らないモノだと感じていたそれは、勘違いだったのだ。
「なぁ、今日はブランデーの気分なんだ。早く注いでくれない?」
そうやって金曜日の夜をやり過ごす、泥の様に眠るのもまた悪くない。
~…~…~…~… ・ …~…~…~…~
金曜日の夜。
今日で終わらせるんだ。絶対に。
ある決心をした。
ずっと前から考えていたルートの一つだが。
それは中也に好きだと伝えず、飽きたから捨てるという理由でセフレを解消すること。
そうすればお互い気まずい雰囲気になることもなく、平和に終わることができる。
少なくとも元相棒という関係は守られることになる。
だから今日だけは、私が好きに振り回してもいい。
どうしようもなく酔っているんだ、中原中也という男に。
~…~…~…~… ・ …~…~…~…~
またいつもの様に鍵を開ける。
カチャ、と鳴ったその音は心なしかいつもより軽い音だった気がした。
「………………」
無言で部屋にあがった。
「………………」
あちらも無言。
もしかすると相手もまた同じことを考えているのかもしれない。
外衣のポケットから、白い錠剤を取り出して飲み込んだ。
「そういえば、さ。中也この前安っぽいラブソングは、っ、つまらなくて、何か足りない気がするって、言ってたよね」
「言ったが…てか、なんでお前そんなに息」
太宰が中也の上に馬乗りになる。
「もっと欲しくない…?」
言わせて欲しかった言葉を自分から吐き出した。惨めだなぁ。
「欲しくねぇよ」
中也side
金曜の夜だ。
今日で、太宰との関係を断つ。
ある決心をした。
ずっと前からすれば良かっただけだが、出来なかったことに挑戦するのだ。
太宰もきっと同じことを考えているのだろう。
雰囲気を壊さず、平和的にセフレを解消出来たらいいのだが。
そして元相棒という立場は残す。
一つ、自分の想いを告げぬまま終わってしまうことだけが心残りとも言えるだろうか。
今日は何もしない。そうしないと心残りが増えてしまいそうだからだ。
~…~…~…~… ・ …~…~…~…~
「何?これくらい言わせてよ。今日くらい不格好な愛でもいいじゃない」
「はは、偶然だな。もう不格好な愛は捨てるって決めたんだ、俺は」
「今日くらい付き合ってよ!!いつもいつもそうやって、君に流されていく私が悪いのかな」
「ハッ、そうなんじゃねぇの?」
「___________っ」
ぽたりと、頬に水滴が落ちたのを感じた。
「はは、そうだ、そうだったね。何を勘違いしたか分からないよ、今丁度思い出したところだ。私達がただの体だけの関係だということ」
起き上がって言う。
「まぁ取り敢えず水飲めよ」
太宰は、手に持っていた解毒薬と共に水を飲んだ。
「最後まで私は足りない…何も満たされないまま終わるみたいだ」
「別に足りないもクソも無いだろ。俺はもう勘定しねぇからお前ももうするな」
「ふふ。私はこの手の取引では嘘は吐かない、君の言うことも聞こう」
「全部忘れようぜ、今までの金曜の夜のこと」
そう言って、ロマネ・コンティの64年物を手に取って太宰に渡す。
「なぁ、注いでくれよ。今日はブランデーの気分だ」
「夢に浸って溺れよう。全部壊れるのだから、忘れてしまっても大差ないさ。言いたい事はそれくらい?」
息をついて続けた。
「損な話だったな」
「まぁね」
カチッとグラスを合わせる。
さよなら、俺のフライデー・ナイト。
終
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