二次創作
〇〇しようね、芥川くん
朝。鳥の鳴く声に起こされた。
起きぬけの視界に映るのは、決して広くはない、けれど暖かく清潔な室内。物は比較的少なく、キッチンで女が朝食を作っている。
家主であるこの女は、ポートマフィアの瓦解により路頭に迷った僕を拾い、飼うと言い出したのだった。
そもそも、僕にはこの先暮らしていける資産があった。けれども、自分の生きる場所であったポートマフィアをなくし、銀の行方も分からなくなった日、僕は生きる力をなくした。無意識のうちに寄りかかっていた支えを、突然取り外されたような心地だった。
それにしても、ずっと血と暴力の中に身を浸してきた自分が、このように穏やかな朝を迎える日が来ようとは。
最初こそ女に対して抵抗は試みた。離せ、出してくれ、殺してくれ。声が枯れる程そう叫んだというのに、女はそのたび、慈愛に満ちた表情で僕をなだめようとするのだった。もちろん、自分より身長も力も下の女であるから、異能を使わずとも簡単に殺せた。そのはずだ。それでも僕はそうしなかった。
理由は、僕にも分からない。
奇異なることだ。
「あ、芥川くん、おはよう」
僕の視線に気がついた女が、くるりと振り返って笑顔を見せた。殺人も暴力の味も知らないような、多くの人間がする表情だった。こうしている今も、僕が元ポートマフィアだと知りながら、包丁も放ってあるし、全く無防備だ。
僕が自分を攻撃しないと信じているのだろうか。それとも、殺されても良いと思っている。いや、まさか。
女とはそういうものなのだろうか。
「ほら、朝ご飯だから、おいで」
朝の光に照らされ、笑顔でこちらを見つめる女に、一瞬「母親」という言葉が思い浮かんだ。僕はそれを持たぬというのに。
「今日、玉子焼きが綺麗に焼けたの」
平凡で平穏な言葉。当たり前のようで、僕には与えられなかった時間。
今とて欲しいとは思わない。ただ。
「ねぇ、見て、綺麗でしょ?あーんしてあげようか」
「…要らぬ」
彼女は僕に何を期待しているのだろうか。僕の言動に何を見て、何を思っているのか。
知ろうとしている自分に気がついて、ぞわりとした。
裏社会に生きていた人間が言うのもおかしいが、この生活は異常だろう、明らかに。成人男性を成人女性が飼うと言い、手を取り頭を撫で、風呂にまで入れる。かといって性的な目を向けられたことはない。
どうしたいのだ、彼女は僕を。
彼女のことが嫌いかと問われれば、嫌いである。媚びるような甘い声と、宝物に触れるような優しい手つき。それが状況の異常さとつり合わず、気持ちが悪い。昨日も包丁を持ち出して、これで刺して終いにしようと思ったのだが、女は怖がる様子も見せず、頭を撫でてきた。彼女の心底いとおしそうな瞳を見ていたら、刺す気力もなくなった。
これは諦めと呼ぶのだろうか。そうである気がする。しかし一方で、諦めと言うには優しすぎる感情であるような気もした。
起きぬけの視界に映るのは、決して広くはない、けれど暖かく清潔な室内。物は比較的少なく、キッチンで女が朝食を作っている。
家主であるこの女は、ポートマフィアの瓦解により路頭に迷った僕を拾い、飼うと言い出したのだった。
そもそも、僕にはこの先暮らしていける資産があった。けれども、自分の生きる場所であったポートマフィアをなくし、銀の行方も分からなくなった日、僕は生きる力をなくした。無意識のうちに寄りかかっていた支えを、突然取り外されたような心地だった。
それにしても、ずっと血と暴力の中に身を浸してきた自分が、このように穏やかな朝を迎える日が来ようとは。
最初こそ女に対して抵抗は試みた。離せ、出してくれ、殺してくれ。声が枯れる程そう叫んだというのに、女はそのたび、慈愛に満ちた表情で僕をなだめようとするのだった。もちろん、自分より身長も力も下の女であるから、異能を使わずとも簡単に殺せた。そのはずだ。それでも僕はそうしなかった。
理由は、僕にも分からない。
奇異なることだ。
「あ、芥川くん、おはよう」
僕の視線に気がついた女が、くるりと振り返って笑顔を見せた。殺人も暴力の味も知らないような、多くの人間がする表情だった。こうしている今も、僕が元ポートマフィアだと知りながら、包丁も放ってあるし、全く無防備だ。
僕が自分を攻撃しないと信じているのだろうか。それとも、殺されても良いと思っている。いや、まさか。
女とはそういうものなのだろうか。
「ほら、朝ご飯だから、おいで」
朝の光に照らされ、笑顔でこちらを見つめる女に、一瞬「母親」という言葉が思い浮かんだ。僕はそれを持たぬというのに。
「今日、玉子焼きが綺麗に焼けたの」
平凡で平穏な言葉。当たり前のようで、僕には与えられなかった時間。
今とて欲しいとは思わない。ただ。
「ねぇ、見て、綺麗でしょ?あーんしてあげようか」
「…要らぬ」
彼女は僕に何を期待しているのだろうか。僕の言動に何を見て、何を思っているのか。
知ろうとしている自分に気がついて、ぞわりとした。
裏社会に生きていた人間が言うのもおかしいが、この生活は異常だろう、明らかに。成人男性を成人女性が飼うと言い、手を取り頭を撫で、風呂にまで入れる。かといって性的な目を向けられたことはない。
どうしたいのだ、彼女は僕を。
彼女のことが嫌いかと問われれば、嫌いである。媚びるような甘い声と、宝物に触れるような優しい手つき。それが状況の異常さとつり合わず、気持ちが悪い。昨日も包丁を持ち出して、これで刺して終いにしようと思ったのだが、女は怖がる様子も見せず、頭を撫でてきた。彼女の心底いとおしそうな瞳を見ていたら、刺す気力もなくなった。
これは諦めと呼ぶのだろうか。そうである気がする。しかし一方で、諦めと言うには優しすぎる感情であるような気もした。