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主は小説を書くのが苦手です...許して...

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異世界に吹き荒れる黒い嵐

#1

第一話 始まり

 石造りの建物の間を心地よい風が吹き抜けて行く。
 都の中心部に位置する宮城の一角に建てられた空中回廊にポツリと一人の人影があった。
 彼の名前は「ガーンガル・グーゼル」宮廷魔術師筆頭にして王立魔道院議長をつとめる魔導師である。
 彼が空中回廊から見下ろす宮城前の広場では彼の配下の魔術師達が忙しなく動き回っていた。

「そろそろだな...」

そう口に出して呟くと。胸の奥からある種の感慨がこみ上げてくる。
 宮廷魔術師として、大バラキル王国に仕えて30年余り。
 長年の研究成果が漸く実を結ぼうとしているのだ。

「御師匠様!ここに居られたのですか!」

 ふと後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
 ガーンガルはその声に反応し、後ろを振り返ると息を荒げた男が目の前には立っていた。

「ゼップ君か...どうしたのかね?」

「儀式の準備が整いました。国王陛下もおられるのでそちらに...」

「そうか」

いよいよか、と今度は心の中で呟きヴェンツェル広場の方に歩き出そうとする。

「御師匠...」

「なにかね?」

「本当に...大丈夫なんでしょうかね?」

魔道士は何度も言っているだろう、と呆れた様子で答える

「また、その話か...もう閣議でも決定した事だ、リスクについてもちゃんと国王陛下も認識しておられる」

「ですが...国家を傾けるほどの召喚魔法なんて前代未聞ですよ」


つまりはこういう事だ


 グーゼルやゼップの母国たるバラキル王国は、俗に遺跡王国とか魔法王国などと呼ばれている。
 その名が示す通り、国民の中にしめる魔術師の割合が他国より多く、その国土には太古の魔道文明の遺跡が多数眠っているわけなのだが……問題は彼らバラキルの魔術師が使う魔術にあった。

『秘蹟魔術』

 太古に滅び去った魔法文明において利用されていたという、世界の根源たるコアを直接汲み出すことで奇跡を成すという強力な魔術である。
 351年前、建国王アルブレヒトによって遺跡より発見されたこの古代魔術は、他国で一般に使われている精霊魔術に比べて汎用性、威力ともに非常に優れており、この強大な力を独占したアルブレヒトは(それまでは地方の一豪族に過ぎなかったにも拘らず)大陸北部を覆う大国を一代でうち立てたのだ。
 
 しかし、この魔術の乱用によって大地よりコアを延々と汲み出し続けた報いか、バラキルの大地はここ数十年のうちに急速に衰えつつあった。

 それは、大人口の集中する首都や魔術研究都市の近辺より始まった農地の砂漠化と、森林の枯死という形で現れ、時の王国首脳に大きなショックを与えた。
 彼らの覇権の原動力たる古代魔術を今更放棄することなどできない。
 かといって、このまま事態を座視していれば、そう遠くない将来。自分達の国は草木も生えぬ不毛の大地と化すだろう。

 その後いくつもの対応策が講じられたものの、目立った成果はあがらず。最終的に考え出されたのが異界からコアの豊富な大地を召喚し、そこから国土維持に必要なコアを吸い出してしまうというものだった。
 『救世』と名付けられたそのプロジェクトを率いることになったのがガーゼルだった。

「召喚陣には我が国で最も強力な従属魔術が付与されておる。仮にその大地に異界人が紛れ込んでいたとしても、問題にはならんよ」

 ガーゼルはそう言って笑った。
 ここでいう従属魔術とは、人の体内で生成される魔力に干渉して、その精神を乗っ取るというものだ。
 逆に言えば、コアから魔力を生成できない者には効果が無いということなのだが、その点に関してガーゼルはなんら心配していない。
 人間なら誰しもごく少量の魔力は生成できるはずだし、万一、異界人が魔力を生成する術を持たぬというなら、それこそ我が国の魔術兵団なりを送って制圧してしまえば良い。
 現代において、魔法を運用しない軍など物の数ではないのだから。

「案ずるには及ばんよ」

 そう言ってヴェンツェルは笑った。
 




1939年8月26日。
ドイツ 首都ベルリン。


「困ったものだ」

 ドイツ参謀総フランツ・ハルダーは疲れきった風体で椅子に腰を下ろした。
 国防軍最高司令部の一区画。
 帝政時代の職人が丹精込めて造り上げたアンティーク調の椅子は、彼の背中をやんわりと受け止めた。
 その柔らかな感触に軽く息を吐く。と、後ろから声がかかった。

「おう。何だね、ハルダー。ここに来てから30分で10年は老け込んだように見えるぞ」

「……どうかお手柔らかに願いますよ。陸軍上級大将」

 そう言いつつ僅かに椅子から腰を浮かせて振り返る。ハルダーの背後には軍服姿の禿頭の大男が口元に人の悪い笑みを張りつかせて立っていた。
 現在、ドイツに一人存在するドイツ上級大将のひとり、ヴェルナー・フォン・フリッチュ陸軍上級大将である。
 
「その様子だと、色好い返事はもらえなかったようだな」

「ええ、総統閣下はポーランドへの軍の配置は開戦直前に行った方が良いと総統はお考えのようです」

 ハルダーはため息まじりに応えた。
 この時期、ポーランドとの開戦に備えてドイツ軍はかなりの兵力をポーランドに集結させつつあった。
 祖国に戦雲が近づいている。それは、ドイツ軍の多くの軍人・政治家たちの共通認識であり、ドイツ軍は目下、対連合開戦に向けた組織改編・装備更新の真っ直中にあった。 
 しかし、順次動員されて数を増しつつある兵力の大半は、現状では国境の遙か後方にあり、ヒトラーの厳命によって即応体制には無かった。
 融和外交に代表されるような英仏との協調外交が今後も永く続くなどという幻想をヒトラーは抱いてなどいなかったが、同時に、現在のドイツにとって連合軍が些か以上に手に余る相手であるという認識もあった。自国の戦争準備が整っていない現状で、すでに総力戦体制にある英仏と戦端を開くなど論外である。
 ゆえに、戦争への呼び水となりかねない対ポーランド国境の戦力強化をヒトラーはギリギリまで許可しなかった。第一次世界大戦において、当時のオーストリアを支援してドイツが動員を強化したことがロシア、フランスといった協商諸国を刺激し、なし崩し的に各国の宣戦布告を誘発したという歴史的事実を引き合いに出し、ヒトラーは軍の動員強化を求める将軍たちを抑えていたのだ。
 だが、ゲシュタポ、SD、ドイツ国内の各駐在官事務所といった様々な方面から寄せられる情報の多くは、このとき英仏の対独開戦を予測させる報告を挙げてきており、連合国軍と対峙する独軍の将軍たちの焦りは強まるばかりだった。
 
 
「第一撃でポーランドの反撃を許した場合、このままではベルリン辺りまで一気に踏み込まれかねません。唯でさえ第一次世界大戦の...」

「ハルダー。その先は言いっこなしだぞ」

「……申し訳ない」

「ともかく、だ。俺もその件に関しては憂慮している。後で総統閣下に進言しておこう。せめて前線への警告だけでも、とな」

「……ありがとうございます」

 ハルダーは安心したように頷き、ヴェルナーはニッと男臭い笑みを浮かべた。


作者メッセージ

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2025/02/28 17:41

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