朝起きて、部屋のドアを開くとアランがいた。

............ん？
アランがいた？

....................................アランがいる！？！？

私は一度扉を閉めて、また開いた。
うん、いるね。
アランを見上げる。

「何？どうしたの？」
「俺とデートしてくれ」
「えっ？」

いきなり？？
別にいいけど。

「...いいよ」
「本当か！？」

ぱあっと顔を輝かせるアラン。
こういうところは可愛いなあ。単純で。
...本当に小学生じゃん。




約束してから一時間後、私がリビングに降りると、アランが立っていた。
急いで階段を駆け降りる。

「ご、ごめん」
「いや。好きでやってるから」
「そうなの？...ありがとう」

何となく納得しないままうなずくと、にっこりして手を差し出された。

「え？」
「デートだろ？」
「そっか」

そういえばデートなんてしたことがない。
デートは手を繋ぐものか。そっか。
ちょっと嬉しくなって、アランの手をしっかり握る。

街はざわざわしていて、にぎやかだった。
女の人もちらほらいる。

「女の人、まあまあいるんだね」
「ああ、やることがなくて暇なんだろ」

ふむ。この世界の女性たちは何をしているのだろうと思っていたけど、皆やることがないのか。

「へえ。やっぱり皆暇なんだね」
「...........ごめん」

きょとんとしてしまった。
どうしてアランが謝るのだろう。
どんどんアランの顔が暗くなっていく。

「ルカも、退屈だろう？もうこんな俺のところにいるのは嫌か？」
「ちょっと待ってよ、そういう意味じゃ」
「止めてくれ！！俺を見放さないで、離婚だけは」
「アラン...」
「嫌だ、ひとりは嫌だ」

たぶんアランは過去に何かがあったのだろう。
私は何も言わず、ただ彼の背中をさすり続けた。


「ごめん、落ち着いた」
「ううん。私も何も考えずに言っちゃってごめん」
「ルカ...」

しばらくして、アランは顔を上げた。
うーん、髪の毛がボサボサになってもイケメンはイケメンなんだね。
私は手を差し出した。

「はい、手を繋ごう」
「...うん」

雑貨屋さんを何軒か見て回って、お腹が空いてきたころだった。
道の真ん中から金切り声が聞こえてきた。

「信じられない！！」

女の人だ。
ずいぶんと濃い化粧をしたその人からは、少し離れたここでも香水の匂いがする。
そして女の人の前には土下座をした男の人が、後ろには数人の男の人がいた。
何が起こっているのかと困惑しているのは私だけで、他の人はそれに見向きもせず道の端っこをすたすたと歩いていく。

私が立ち止まったことに気付いたアランが、悲しそうに眉を下げた。

「...信じられないかもしれないけど、あれが普通なんだ」
「そんな...」

そんなの、ひどい。
思わず握っていた手に力をこめる。
アランは私をなだめるように、軽く手を握り返してきた。


私たちはまた歩きだした。


「まさか...アランか？」

ふと声がして、それが私たちに向けられたものだと気づくのに少しかかった。
ちらりと横を盗み見ると、アランの眉間にはシワがよっていた。

「ルカ、行こう」
「おい、待て！誰だ、その女性は」

男性を思い切り無視して、アランはぐいぐいと私の手を引く。
仕方なくそれに着いていこうとしたが、それはできなかった。
私の空いている方の手を男性に掴まれたからだ。

アランの顔がより一層険しくなる。


「触れるな」