二次創作
カイザーフューラー
ドイツの参戦――オーストリアからセルビアへの宣戦布告から1日後、オーストリアハンガリー帝国との盟約に基づいて総動員を発令した。しかしその後ロシアが参戦、それに伴いフランスが参戦しフランスに先制攻撃を仕掛けるためにベルギーに侵攻、そしてイギリスが参戦……、とドミノ倒しに各国が参戦に泥沼の大戦に……
それがヒトラーの経験した「史実」だった。
(だが、この私はこの歴史を繰り返すつもりはない!)
愛すべきドイツを破滅へと導いた史実の第一次世界大戦……それを覆すことこそが、自分の使命なのではないか。
転生した翌日の昼、目覚めたヒトラーはそう考えるようになっていた。
**
――皇帝陛下は人が変わられたようだ。
スターリンが憑依して一日も経たないうちに、宮廷ではそんな噂が密やかに広まりつつあった。
かつてのただ堂々とした態度はなりを潜め、「強く、賢い指導者」として果断に決断をするようになった。その一方で人と話す時は常に口元に微笑を湛えて、他人を持ち上げるなど謙虚に接しているという。
理想家であったゲーリングやヒムラーと違い、ヒトラーは比較的現実主義的な政治家である。当初こそ混乱したものの、目の前の現実を受け入れるまでそう長い時間はかからなかった。
(まずは情報収集だ。誰が敵で、誰が潜在的な敵であるか分かるまでは仮面を被らんとな……)
事実を直視したヒトラーは、実にナチスらしくない唯物論的アプローチを試みる。ありったけの情報を集め、科学的に分析し、もっとも適切な行動をとるのだ。
幸いと言うべきか、新しい世界に順応するのはそう難しいことではなかった。なにせ、元々が一国の指導者だ。周辺国との関係、景気、財務状況、安全保障、宮廷内の力関係から国内の社会問題までたちどころに把握し、書類の山を捌いていった。
しかし情報を得れば得るほど、それと反比例するようにヒトラーの眉間に寄る皺は増えていった。それほど、帝政ドイツの現状は酷いものだった。
イギリス、フランス、ロシアとの関係は最悪、さらにオーストリアハンガリーという名の超お荷物を抱えている
(若いころから知ってはいたが、改めて偉くなってデータを眺めると投げ出したくなるな……)
そもそも、この外交情報すらどこまで信用できるのか怪しいものだ。上層部の評価を気にして偽データを送ってくる不届き者はナチスドイツ時代にもごまんといたし、その気がなくともドイツ帝国の役人の手腕にはあまり期待できない。
だが、内政は外交状態ほどに苦しいものではなく、むしろ周辺国を圧倒していた。
「わが軍の現有兵力は110万人、うち将校は4万となっております。動員を掛けた場合には、将校7万5千、兵450万人までに増員することが可能です」
地図を広げたヒトラーの前では、立派なカイゼル髭を生やした軍人がドイツ軍の現状を説明していた。
「問題は、食糧の不足です。我が国の食糧備蓄にはほぼ在庫がなく、他国に後れを取っています。特に、ロシアからの輸入に頼っているのがまずいです。このままロシアと戦争になると楽観的に見て15年程度で飢饉が起こるでしょう」
また、彼... エーリッヒ・ファルケンハインの説明は明瞭かつ簡潔で、余計な誇張や装飾といった無駄が一切ない。実直で裏表がない性格も、スターリンの好みだった。
(だが、帝政ドイツの実態がここまで酷いとはな……知識としてある程度は知っていたが、ここまでとは)
(まず、将兵の士気が低い。愛国心に燃えた国防軍とは段違いだ)
帝政ドイツの軍隊における将校はすべて貴族で占められ、農民出身の兵士たちとの仲間意識は無いに等しい。将校は兵士を見下し、同じ人間として見ていなかった。
無論、これでは信頼関係など育つはずもない。日頃から理不尽な体罰を加える上官に「命がけで戦え」などと命令されて、その通りにする兵士が一体どれほどいるだろうか。
「やはり、国の改革には食糧生産が不可欠だ。とにかくドイツの農業政策を素早く図り、将校の改革を進めねばならん」
戦争を抜きにしても、国家の繁栄のために迅速な食料確保は必要であった。帝国主義の全盛期において、食糧危機の波に飲み込まれた国に待ち受けているのは列強の植民地でしか無いからだ。
翌日、参謀本部に現れたヴィルヘルムは到着早々、これまでの方針を一変させる爆弾発言をぶん投げた。
「セルビアへの宣戦布告は中止するぞ」
それがヒトラーの経験した「史実」だった。
(だが、この私はこの歴史を繰り返すつもりはない!)
愛すべきドイツを破滅へと導いた史実の第一次世界大戦……それを覆すことこそが、自分の使命なのではないか。
転生した翌日の昼、目覚めたヒトラーはそう考えるようになっていた。
**
――皇帝陛下は人が変わられたようだ。
スターリンが憑依して一日も経たないうちに、宮廷ではそんな噂が密やかに広まりつつあった。
かつてのただ堂々とした態度はなりを潜め、「強く、賢い指導者」として果断に決断をするようになった。その一方で人と話す時は常に口元に微笑を湛えて、他人を持ち上げるなど謙虚に接しているという。
理想家であったゲーリングやヒムラーと違い、ヒトラーは比較的現実主義的な政治家である。当初こそ混乱したものの、目の前の現実を受け入れるまでそう長い時間はかからなかった。
(まずは情報収集だ。誰が敵で、誰が潜在的な敵であるか分かるまでは仮面を被らんとな……)
事実を直視したヒトラーは、実にナチスらしくない唯物論的アプローチを試みる。ありったけの情報を集め、科学的に分析し、もっとも適切な行動をとるのだ。
幸いと言うべきか、新しい世界に順応するのはそう難しいことではなかった。なにせ、元々が一国の指導者だ。周辺国との関係、景気、財務状況、安全保障、宮廷内の力関係から国内の社会問題までたちどころに把握し、書類の山を捌いていった。
しかし情報を得れば得るほど、それと反比例するようにヒトラーの眉間に寄る皺は増えていった。それほど、帝政ドイツの現状は酷いものだった。
イギリス、フランス、ロシアとの関係は最悪、さらにオーストリアハンガリーという名の超お荷物を抱えている
(若いころから知ってはいたが、改めて偉くなってデータを眺めると投げ出したくなるな……)
そもそも、この外交情報すらどこまで信用できるのか怪しいものだ。上層部の評価を気にして偽データを送ってくる不届き者はナチスドイツ時代にもごまんといたし、その気がなくともドイツ帝国の役人の手腕にはあまり期待できない。
だが、内政は外交状態ほどに苦しいものではなく、むしろ周辺国を圧倒していた。
「わが軍の現有兵力は110万人、うち将校は4万となっております。動員を掛けた場合には、将校7万5千、兵450万人までに増員することが可能です」
地図を広げたヒトラーの前では、立派なカイゼル髭を生やした軍人がドイツ軍の現状を説明していた。
「問題は、食糧の不足です。我が国の食糧備蓄にはほぼ在庫がなく、他国に後れを取っています。特に、ロシアからの輸入に頼っているのがまずいです。このままロシアと戦争になると楽観的に見て15年程度で飢饉が起こるでしょう」
また、彼... エーリッヒ・ファルケンハインの説明は明瞭かつ簡潔で、余計な誇張や装飾といった無駄が一切ない。実直で裏表がない性格も、スターリンの好みだった。
(だが、帝政ドイツの実態がここまで酷いとはな……知識としてある程度は知っていたが、ここまでとは)
(まず、将兵の士気が低い。愛国心に燃えた国防軍とは段違いだ)
帝政ドイツの軍隊における将校はすべて貴族で占められ、農民出身の兵士たちとの仲間意識は無いに等しい。将校は兵士を見下し、同じ人間として見ていなかった。
無論、これでは信頼関係など育つはずもない。日頃から理不尽な体罰を加える上官に「命がけで戦え」などと命令されて、その通りにする兵士が一体どれほどいるだろうか。
「やはり、国の改革には食糧生産が不可欠だ。とにかくドイツの農業政策を素早く図り、将校の改革を進めねばならん」
戦争を抜きにしても、国家の繁栄のために迅速な食料確保は必要であった。帝国主義の全盛期において、食糧危機の波に飲み込まれた国に待ち受けているのは列強の植民地でしか無いからだ。
翌日、参謀本部に現れたヴィルヘルムは到着早々、これまでの方針を一変させる爆弾発言をぶん投げた。
「セルビアへの宣戦布告は中止するぞ」