とりぷるふーるず!!
文化祭準備中の講堂。
舞台では演劇部が練習していた。
「――おい、ここ!台詞もっと間を取って!
言葉じゃなくて、“沈黙”で伝えるんだよ!」
汐花はその声に引き寄せられるように、舞台袖からのぞいた。
そこにいたのは、演劇部の中心人物。
――神嶋 航(かしま こう)。
二年、演劇部長。脚本・演出・主演を一手に担う秀才。
黒髪が額に落ちて、声は澄んでいて、目だけが真っ直ぐすぎた。
(わ……なんか、絵になるなあ)
汐花は気づかなかった。
その瞬間、すでに“彼の目”が、汐花だけを見ていたことに。
[水平線]
後日。講堂に飾る背景画を描く係に、汐花が選ばれた。もちろん本人の希望。
そこで、航と再会する。
「蓮賽さん、だよね。背景……君が描くの?」
「うん。ボク以外に適任いないでしょ。
美術部=私、で成り立ってるから」
「……強気だな。でも、正しいよ。
君の絵は、他の誰にも描けない」
「……え?」
「演劇も同じ。セリフは誰でも言えるけど、
“その人にしか言えない台詞”があるんだよ。
君の絵は、それに近い気がする」
汐花の手が、少しだけ止まった。
(今のって……褒められた……?てか、何この人、言い方が演劇っぽい……)
でも――何も察していない。
航は静かに笑って、こう付け加えた。
「君、ぜんっぜん人の好意に気づかなそうだね」
「え?何のこと?」
「ううん、なんでも」
[水平線]
数日後、講堂のベンチにて。
汐花は偶然、落とし物のスケッチブックを拾う。
ページを開くと――中に描かれていたのは、
何枚もの“自分”の横顔だった。
驚いて、名前を見ると
「神嶋 航」と、サインがある。
「え、え、え、ボク!?てか何この構図!?照明計算完璧すぎん!?」
その瞬間、条兎が背後から現れ、ニヤッと笑う。
「やっと気づいた?」
「……え?何が?」
「……ほんとに何にも気づいてなかったのか。
あんた、演劇部の神嶋くん、完全に汐花に落ちてるよ」
「は???いやいやいやそんなことないでしょ!?
絵を描く=尊敬であって恋愛感情じゃ――」
「それ、本人に言ってみな」
[水平線]
放課後の講堂、背景画の仕上げ中。
汐花がこっそり航に話しかける。
「あのさ……このスケッチブック、落とした?」
「あー……見られたか、あれ」
「……あれ、なんでボクばっか描いてたの?」
航は、迷わず答える。
「だって君は、舞台に立ってなくても――
いつだって、絵になる存在だから。」
汐花「…………」
航「それに、できれば――
この先もずっと、君の“役”を見つけていたい。」
汐花「…………」
(……この人、なに言ってんだ?)
沈黙。
5秒、10秒――
「……いや、セリフっぽっ!!!!」
「は?????」
「いや演劇部っぽすぎるでしょ今の!?セリフ練習!?恋のやつじゃないよね!?あれ!?!?ボクに言ってたの!?!?」
航(頭を抱える)
「……だから君は、気づかないって言ったのに……」
[水平線]
後日。生徒会室にて。
条兎「で、どうなったの?」
「いやなんか、スケッチブックくれて、“役を見つけたい”って言ってたけど……意味わからん」
「それ、完全に恋愛表現だよ」
「え、でも、演劇部ってそういう言い回しする職業でしょ?」
「演劇部は職業ではない」
「というか、“好きです”って言われてもたぶん気づかないでしょ、汐花」
「ボクはね、恋とかよりまず“本物の絵”を描くことが人生の目的で――」
「「あーーーはいはいはいはい」」
[水平線]
その夜。汐花はベッドの上で、スケッチブックを抱きしめていた。
ページをめくると、最後にこう書かれていた。
[斜体]「君を描く時、世界が静かになる。[/斜体]
[斜体]もしかしたら、これが“好き”ってことなのかもしれない」[/斜体]
汐花は赤くなりながら、顔を隠す。
「……え、まじで好きって意味だったの……?」
でも、照れくさくて、なんとなくニヤけて、
窓の外を見ながらつぶやいた。
「……ほんとに、気づかなくてごめん」
舞台では演劇部が練習していた。
「――おい、ここ!台詞もっと間を取って!
言葉じゃなくて、“沈黙”で伝えるんだよ!」
汐花はその声に引き寄せられるように、舞台袖からのぞいた。
そこにいたのは、演劇部の中心人物。
――神嶋 航(かしま こう)。
二年、演劇部長。脚本・演出・主演を一手に担う秀才。
黒髪が額に落ちて、声は澄んでいて、目だけが真っ直ぐすぎた。
(わ……なんか、絵になるなあ)
汐花は気づかなかった。
その瞬間、すでに“彼の目”が、汐花だけを見ていたことに。
[水平線]
後日。講堂に飾る背景画を描く係に、汐花が選ばれた。もちろん本人の希望。
そこで、航と再会する。
「蓮賽さん、だよね。背景……君が描くの?」
「うん。ボク以外に適任いないでしょ。
美術部=私、で成り立ってるから」
「……強気だな。でも、正しいよ。
君の絵は、他の誰にも描けない」
「……え?」
「演劇も同じ。セリフは誰でも言えるけど、
“その人にしか言えない台詞”があるんだよ。
君の絵は、それに近い気がする」
汐花の手が、少しだけ止まった。
(今のって……褒められた……?てか、何この人、言い方が演劇っぽい……)
でも――何も察していない。
航は静かに笑って、こう付け加えた。
「君、ぜんっぜん人の好意に気づかなそうだね」
「え?何のこと?」
「ううん、なんでも」
[水平線]
数日後、講堂のベンチにて。
汐花は偶然、落とし物のスケッチブックを拾う。
ページを開くと――中に描かれていたのは、
何枚もの“自分”の横顔だった。
驚いて、名前を見ると
「神嶋 航」と、サインがある。
「え、え、え、ボク!?てか何この構図!?照明計算完璧すぎん!?」
その瞬間、条兎が背後から現れ、ニヤッと笑う。
「やっと気づいた?」
「……え?何が?」
「……ほんとに何にも気づいてなかったのか。
あんた、演劇部の神嶋くん、完全に汐花に落ちてるよ」
「は???いやいやいやそんなことないでしょ!?
絵を描く=尊敬であって恋愛感情じゃ――」
「それ、本人に言ってみな」
[水平線]
放課後の講堂、背景画の仕上げ中。
汐花がこっそり航に話しかける。
「あのさ……このスケッチブック、落とした?」
「あー……見られたか、あれ」
「……あれ、なんでボクばっか描いてたの?」
航は、迷わず答える。
「だって君は、舞台に立ってなくても――
いつだって、絵になる存在だから。」
汐花「…………」
航「それに、できれば――
この先もずっと、君の“役”を見つけていたい。」
汐花「…………」
(……この人、なに言ってんだ?)
沈黙。
5秒、10秒――
「……いや、セリフっぽっ!!!!」
「は?????」
「いや演劇部っぽすぎるでしょ今の!?セリフ練習!?恋のやつじゃないよね!?あれ!?!?ボクに言ってたの!?!?」
航(頭を抱える)
「……だから君は、気づかないって言ったのに……」
[水平線]
後日。生徒会室にて。
条兎「で、どうなったの?」
「いやなんか、スケッチブックくれて、“役を見つけたい”って言ってたけど……意味わからん」
「それ、完全に恋愛表現だよ」
「え、でも、演劇部ってそういう言い回しする職業でしょ?」
「演劇部は職業ではない」
「というか、“好きです”って言われてもたぶん気づかないでしょ、汐花」
「ボクはね、恋とかよりまず“本物の絵”を描くことが人生の目的で――」
「「あーーーはいはいはいはい」」
[水平線]
その夜。汐花はベッドの上で、スケッチブックを抱きしめていた。
ページをめくると、最後にこう書かれていた。
[斜体]「君を描く時、世界が静かになる。[/斜体]
[斜体]もしかしたら、これが“好き”ってことなのかもしれない」[/斜体]
汐花は赤くなりながら、顔を隠す。
「……え、まじで好きって意味だったの……?」
でも、照れくさくて、なんとなくニヤけて、
窓の外を見ながらつぶやいた。
「……ほんとに、気づかなくてごめん」