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とりぷるふーるず!!

#9


文化祭準備中の講堂。
舞台では演劇部が練習していた。

「――おい、ここ!台詞もっと間を取って!
言葉じゃなくて、“沈黙”で伝えるんだよ!」

汐花はその声に引き寄せられるように、舞台袖からのぞいた。

そこにいたのは、演劇部の中心人物。
――神嶋 航(かしま こう)。
二年、演劇部長。脚本・演出・主演を一手に担う秀才。

黒髪が額に落ちて、声は澄んでいて、目だけが真っ直ぐすぎた。

(わ……なんか、絵になるなあ)

汐花は気づかなかった。

その瞬間、すでに“彼の目”が、汐花だけを見ていたことに。

[水平線]

後日。講堂に飾る背景画を描く係に、汐花が選ばれた。もちろん本人の希望。

そこで、航と再会する。

「蓮賽さん、だよね。背景……君が描くの?」

「うん。ボク以外に適任いないでしょ。
美術部=私、で成り立ってるから」

「……強気だな。でも、正しいよ。
君の絵は、他の誰にも描けない」

「……え?」

「演劇も同じ。セリフは誰でも言えるけど、
“その人にしか言えない台詞”があるんだよ。
君の絵は、それに近い気がする」

汐花の手が、少しだけ止まった。

(今のって……褒められた……?てか、何この人、言い方が演劇っぽい……)

でも――何も察していない。

航は静かに笑って、こう付け加えた。

「君、ぜんっぜん人の好意に気づかなそうだね」

「え?何のこと?」

「ううん、なんでも」
[水平線]

数日後、講堂のベンチにて。

汐花は偶然、落とし物のスケッチブックを拾う。

ページを開くと――中に描かれていたのは、
何枚もの“自分”の横顔だった。

驚いて、名前を見ると
「神嶋 航」と、サインがある。

「え、え、え、ボク!?てか何この構図!?照明計算完璧すぎん!?」

その瞬間、条兎が背後から現れ、ニヤッと笑う。

「やっと気づいた?」

「……え?何が?」

「……ほんとに何にも気づいてなかったのか。
あんた、演劇部の神嶋くん、完全に汐花に落ちてるよ」

「は???いやいやいやそんなことないでしょ!?
絵を描く=尊敬であって恋愛感情じゃ――」

「それ、本人に言ってみな」

[水平線]

放課後の講堂、背景画の仕上げ中。

汐花がこっそり航に話しかける。

「あのさ……このスケッチブック、落とした?」

「あー……見られたか、あれ」

「……あれ、なんでボクばっか描いてたの?」

航は、迷わず答える。

「だって君は、舞台に立ってなくても――
いつだって、絵になる存在だから。」

汐花「…………」

航「それに、できれば――
この先もずっと、君の“役”を見つけていたい。」

汐花「…………」

(……この人、なに言ってんだ?)

沈黙。

5秒、10秒――

「……いや、セリフっぽっ!!!!」

「は?????」

「いや演劇部っぽすぎるでしょ今の!?セリフ練習!?恋のやつじゃないよね!?あれ!?!?ボクに言ってたの!?!?」

航(頭を抱える)

「……だから君は、気づかないって言ったのに……」
[水平線]

後日。生徒会室にて。

条兎「で、どうなったの?」

「いやなんか、スケッチブックくれて、“役を見つけたい”って言ってたけど……意味わからん」

「それ、完全に恋愛表現だよ」

「え、でも、演劇部ってそういう言い回しする職業でしょ?」

「演劇部は職業ではない」

「というか、“好きです”って言われてもたぶん気づかないでしょ、汐花」

「ボクはね、恋とかよりまず“本物の絵”を描くことが人生の目的で――」

「「あーーーはいはいはいはい」」
[水平線]

その夜。汐花はベッドの上で、スケッチブックを抱きしめていた。

ページをめくると、最後にこう書かれていた。

[斜体]「君を描く時、世界が静かになる。[/斜体]
[斜体]もしかしたら、これが“好き”ってことなのかもしれない」[/斜体]

汐花は赤くなりながら、顔を隠す。

「……え、まじで好きって意味だったの……?」

でも、照れくさくて、なんとなくニヤけて、
窓の外を見ながらつぶやいた。

「……ほんとに、気づかなくてごめん」

2025/06/17 08:03

明け他人(枯花) ID:≫ 6ybA8nH1Vyj8g
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