とりぷるふーるず!!
「はいこれっ!今度は!全員ぶんの浴衣、持ってきました~☆」
放課後の生徒会室。
汐花がどさっと紙袋を置いた。
絵の具の飛んだTシャツの上から、浴衣柄の帯を当てて得意げな顔。
「……なにそれ」
条兎が目を細める。
「いや、せっかく今日の夜、学校の裏山で肝試しあるじゃん?
生徒会が非公式参加するなら、浴衣で登場しないとバズらないでしょ?」
「バズらせるために行くの?」
「違うよ~。“とりぷるふーるず”が見せてあげるの。
論理も才能も効かない、“本物の夜”ってやつを!」
弥生が、白衣を静かに脱ぎながら言った。
「……理屈で説明できないものを、ちょっとだけ信じてみるのも、悪くないかもね」
[水平線]
校舎裏の山道。提灯の明かりがぼんやり灯る。
肝試し主催は演劇部&風紀委員会。
2人1組で、山頂の“お堂”まで歩くのがルール。
3人は当然、3人で乱入。
「2人組?知らん!革命だから3人で行く!」
弥生は懐中電灯を片手に言い切る。
汐花と条兎は、うっすら柄の違う浴衣姿。髪はアップに、足音はぱたぱた。
風がざわり、と吹いた。
「……あっち、空気が変わった」
条兎が、先頭でピタリと止まる。
「"変わった"って、なにが?」
「気圧でも気温でもなく、"空気"の質が違う」
その言葉の直後――
カシャ…ッ
「今、カメラのシャッター音しなかった?」
「してない。誰も持ってない」
「でも今……」
カシャカシャカシャ…ッ
連続する音。辺りに誰もいない。
「っ……うそ、これ演出じゃないの?」
「演劇部にこんな高精度の音響装置あるわけない。これ、[太字]本物だよ[/太字]」
弥生が、足元の雑草をかきわけ、落ちていた古びたカメラを拾い上げる。
レンズに映ったのは――
誰もいない、でも“誰かがいる”感じだけが焼きついた1枚の写真。
[水平線]
突然。
「……!? 条兎……?」
振り返ると、そこにいたはずの条兎の姿がない。
「条兎!?おーい!!どこ!?」
「待って、GPS確認する……って、電波……消えてる?」
風がざわ、と吹いた。
視界の奥に、一瞬だけ浴衣の裾がひらめく。
「……あっちだ!」
2人は駆けだした。
[水平線]
廃れたお堂の裏。
条兎は、ひとり座っていた。
その隣に、[太字]“何か”が、いた。[/太字]
小さな、黒い影。人の形だけれど、顔がない。
でも、怖くなかった。
それは、自分と同じように“居場所をなくした誰か”のように見えた。
「……一緒に、泣く?」
条兎が、ぽつりとつぶやいたその時。
「バカぁ!!なにしてんのあんた!!!」
汐花と弥生が飛び込んできた。
「びっくりさせんな!バグったGPSで心臓止まるかと思った!」
「君の体力はGPSを超えるのかもしれないけど、こっちは論理崩壊してたからね!!」
条兎は、はにかんで言った。
「……ごめん。でも、怖くなかった。なんか、“寂しがってる”感じがして」
汐花は息を整えて、言った。
「そういうのってさ、信じてもいいと思うんだ。
目に見えなくても、誰かが誰かを思ってるのって、
この世で一番、ちゃんと存在する“気配”だから。」
弥生も、ゆっくり頷いた。
「見えないものを否定するのは、科学じゃなくて、ただの怯えだよ」
[水平線]
山を降りる途中、遠くで花火が上がった。
校舎から打ち上げられた、生徒有志のサプライズらしい。
「……浴衣で肝試し、正解だったね」
「“見えないもの”と出会えた気がする。論理でも言葉でもない、もっと根源的な何か」
「きっと、“怖い”と“祈り”って似てるんだよ。
どっちも、自分以外の何かを信じることだから」
汐花が、夜空を見上げて言った。
「……ねぇ。さっきの“影”、まだどこかにいるのかな?」
「……いるよ、たぶん。私たちと同じくらい、ちゃんと」
花火の音が遠ざかる。
だけど、静けさの中に残ったのは、怖さじゃなかった。
“誰かが、ここにいた”という、確かな温もり。
[水平線]
夜更け、生徒会室。
3人はいつものように、ポテチとジュースで乾杯していた。
「今日の幽霊、なんかさ……“ただ、話したかっただけ”みたいだったね」
「うちらと同じじゃん」
「見てほしいって、気づいてほしいって、誰かに言いたいことがあるって、そういうの全部含めて」
弥生がそっと言った。
「“見えないもの”って、見えるものよりずっとリアルだったりするんだね」
その言葉に、誰も返さなかった。
ただ、夜風がカーテンを揺らし、遠くの誰かの気配が――やさしく、見えないまま、そこにあった。
放課後の生徒会室。
汐花がどさっと紙袋を置いた。
絵の具の飛んだTシャツの上から、浴衣柄の帯を当てて得意げな顔。
「……なにそれ」
条兎が目を細める。
「いや、せっかく今日の夜、学校の裏山で肝試しあるじゃん?
生徒会が非公式参加するなら、浴衣で登場しないとバズらないでしょ?」
「バズらせるために行くの?」
「違うよ~。“とりぷるふーるず”が見せてあげるの。
論理も才能も効かない、“本物の夜”ってやつを!」
弥生が、白衣を静かに脱ぎながら言った。
「……理屈で説明できないものを、ちょっとだけ信じてみるのも、悪くないかもね」
[水平線]
校舎裏の山道。提灯の明かりがぼんやり灯る。
肝試し主催は演劇部&風紀委員会。
2人1組で、山頂の“お堂”まで歩くのがルール。
3人は当然、3人で乱入。
「2人組?知らん!革命だから3人で行く!」
弥生は懐中電灯を片手に言い切る。
汐花と条兎は、うっすら柄の違う浴衣姿。髪はアップに、足音はぱたぱた。
風がざわり、と吹いた。
「……あっち、空気が変わった」
条兎が、先頭でピタリと止まる。
「"変わった"って、なにが?」
「気圧でも気温でもなく、"空気"の質が違う」
その言葉の直後――
カシャ…ッ
「今、カメラのシャッター音しなかった?」
「してない。誰も持ってない」
「でも今……」
カシャカシャカシャ…ッ
連続する音。辺りに誰もいない。
「っ……うそ、これ演出じゃないの?」
「演劇部にこんな高精度の音響装置あるわけない。これ、[太字]本物だよ[/太字]」
弥生が、足元の雑草をかきわけ、落ちていた古びたカメラを拾い上げる。
レンズに映ったのは――
誰もいない、でも“誰かがいる”感じだけが焼きついた1枚の写真。
[水平線]
突然。
「……!? 条兎……?」
振り返ると、そこにいたはずの条兎の姿がない。
「条兎!?おーい!!どこ!?」
「待って、GPS確認する……って、電波……消えてる?」
風がざわ、と吹いた。
視界の奥に、一瞬だけ浴衣の裾がひらめく。
「……あっちだ!」
2人は駆けだした。
[水平線]
廃れたお堂の裏。
条兎は、ひとり座っていた。
その隣に、[太字]“何か”が、いた。[/太字]
小さな、黒い影。人の形だけれど、顔がない。
でも、怖くなかった。
それは、自分と同じように“居場所をなくした誰か”のように見えた。
「……一緒に、泣く?」
条兎が、ぽつりとつぶやいたその時。
「バカぁ!!なにしてんのあんた!!!」
汐花と弥生が飛び込んできた。
「びっくりさせんな!バグったGPSで心臓止まるかと思った!」
「君の体力はGPSを超えるのかもしれないけど、こっちは論理崩壊してたからね!!」
条兎は、はにかんで言った。
「……ごめん。でも、怖くなかった。なんか、“寂しがってる”感じがして」
汐花は息を整えて、言った。
「そういうのってさ、信じてもいいと思うんだ。
目に見えなくても、誰かが誰かを思ってるのって、
この世で一番、ちゃんと存在する“気配”だから。」
弥生も、ゆっくり頷いた。
「見えないものを否定するのは、科学じゃなくて、ただの怯えだよ」
[水平線]
山を降りる途中、遠くで花火が上がった。
校舎から打ち上げられた、生徒有志のサプライズらしい。
「……浴衣で肝試し、正解だったね」
「“見えないもの”と出会えた気がする。論理でも言葉でもない、もっと根源的な何か」
「きっと、“怖い”と“祈り”って似てるんだよ。
どっちも、自分以外の何かを信じることだから」
汐花が、夜空を見上げて言った。
「……ねぇ。さっきの“影”、まだどこかにいるのかな?」
「……いるよ、たぶん。私たちと同じくらい、ちゃんと」
花火の音が遠ざかる。
だけど、静けさの中に残ったのは、怖さじゃなかった。
“誰かが、ここにいた”という、確かな温もり。
[水平線]
夜更け、生徒会室。
3人はいつものように、ポテチとジュースで乾杯していた。
「今日の幽霊、なんかさ……“ただ、話したかっただけ”みたいだったね」
「うちらと同じじゃん」
「見てほしいって、気づいてほしいって、誰かに言いたいことがあるって、そういうの全部含めて」
弥生がそっと言った。
「“見えないもの”って、見えるものよりずっとリアルだったりするんだね」
その言葉に、誰も返さなかった。
ただ、夜風がカーテンを揺らし、遠くの誰かの気配が――やさしく、見えないまま、そこにあった。