文字サイズ変更

とりぷるふーるず!!

#12


「はいこれっ!今度は!全員ぶんの浴衣、持ってきました~☆」

放課後の生徒会室。
汐花がどさっと紙袋を置いた。
絵の具の飛んだTシャツの上から、浴衣柄の帯を当てて得意げな顔。

「……なにそれ」

条兎が目を細める。

「いや、せっかく今日の夜、学校の裏山で肝試しあるじゃん?
生徒会が非公式参加するなら、浴衣で登場しないとバズらないでしょ?」

「バズらせるために行くの?」

「違うよ~。“とりぷるふーるず”が見せてあげるの。
論理も才能も効かない、“本物の夜”ってやつを!」

弥生が、白衣を静かに脱ぎながら言った。

「……理屈で説明できないものを、ちょっとだけ信じてみるのも、悪くないかもね」

[水平線]

校舎裏の山道。提灯の明かりがぼんやり灯る。
肝試し主催は演劇部&風紀委員会。
2人1組で、山頂の“お堂”まで歩くのがルール。

3人は当然、3人で乱入。

「2人組?知らん!革命だから3人で行く!」

弥生は懐中電灯を片手に言い切る。
汐花と条兎は、うっすら柄の違う浴衣姿。髪はアップに、足音はぱたぱた。

風がざわり、と吹いた。

「……あっち、空気が変わった」

条兎が、先頭でピタリと止まる。

「"変わった"って、なにが?」

「気圧でも気温でもなく、"空気"の質が違う」

その言葉の直後――

カシャ…ッ

「今、カメラのシャッター音しなかった?」

「してない。誰も持ってない」

「でも今……」

カシャカシャカシャ…ッ

連続する音。辺りに誰もいない。

「っ……うそ、これ演出じゃないの?」

「演劇部にこんな高精度の音響装置あるわけない。これ、[太字]本物だよ[/太字]」

弥生が、足元の雑草をかきわけ、落ちていた古びたカメラを拾い上げる。

レンズに映ったのは――

誰もいない、でも“誰かがいる”感じだけが焼きついた1枚の写真。

[水平線]

突然。

「……!? 条兎……?」

振り返ると、そこにいたはずの条兎の姿がない。

「条兎!?おーい!!どこ!?」

「待って、GPS確認する……って、電波……消えてる?」

風がざわ、と吹いた。

視界の奥に、一瞬だけ浴衣の裾がひらめく。

「……あっちだ!」

2人は駆けだした。

[水平線]

廃れたお堂の裏。
条兎は、ひとり座っていた。
その隣に、[太字]“何か”が、いた。[/太字]

小さな、黒い影。人の形だけれど、顔がない。

でも、怖くなかった。
それは、自分と同じように“居場所をなくした誰か”のように見えた。

「……一緒に、泣く?」

条兎が、ぽつりとつぶやいたその時。

「バカぁ!!なにしてんのあんた!!!」

汐花と弥生が飛び込んできた。

「びっくりさせんな!バグったGPSで心臓止まるかと思った!」

「君の体力はGPSを超えるのかもしれないけど、こっちは論理崩壊してたからね!!」

条兎は、はにかんで言った。

「……ごめん。でも、怖くなかった。なんか、“寂しがってる”感じがして」

汐花は息を整えて、言った。

「そういうのってさ、信じてもいいと思うんだ。
目に見えなくても、誰かが誰かを思ってるのって、
この世で一番、ちゃんと存在する“気配”だから。」

弥生も、ゆっくり頷いた。

「見えないものを否定するのは、科学じゃなくて、ただの怯えだよ」

[水平線]

山を降りる途中、遠くで花火が上がった。
校舎から打ち上げられた、生徒有志のサプライズらしい。

「……浴衣で肝試し、正解だったね」

「“見えないもの”と出会えた気がする。論理でも言葉でもない、もっと根源的な何か」

「きっと、“怖い”と“祈り”って似てるんだよ。
どっちも、自分以外の何かを信じることだから」

汐花が、夜空を見上げて言った。

「……ねぇ。さっきの“影”、まだどこかにいるのかな?」

「……いるよ、たぶん。私たちと同じくらい、ちゃんと」

花火の音が遠ざかる。
だけど、静けさの中に残ったのは、怖さじゃなかった。

“誰かが、ここにいた”という、確かな温もり。

[水平線]

夜更け、生徒会室。

3人はいつものように、ポテチとジュースで乾杯していた。

「今日の幽霊、なんかさ……“ただ、話したかっただけ”みたいだったね」

「うちらと同じじゃん」

「見てほしいって、気づいてほしいって、誰かに言いたいことがあるって、そういうの全部含めて」

弥生がそっと言った。

「“見えないもの”って、見えるものよりずっとリアルだったりするんだね」

その言葉に、誰も返さなかった。
ただ、夜風がカーテンを揺らし、遠くの誰かの気配が――やさしく、見えないまま、そこにあった。

作者メッセージ

伏線とかはあんまりないです!!!!!!!!

2025/06/18 15:27

明け他人(枯花) ID:≫ 6yTgHEMno8sog
続きを執筆
小説を編集

パスワードをおぼえている場合はご自分で小説を削除してください。(削除方法
自分で削除するのは面倒くさい、忍びない、自分の責任にしたくない、などの理由で削除を依頼するのは絶対におやめください。

→本当に小説のパスワードを忘れてしまった
▼小説の削除を依頼する

小説削除依頼フォーム

お名前 ※必須
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
削除の理由 ※必須

なぜこの小説の削除を依頼したいですか

ご自分で投稿した小説ですか? ※必須

この小説は、あなたが投稿した小説で間違いありませんか?

削除後に復旧はできません※必須

削除したあとに復旧はできません。クレームも受け付けません。

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL
/ 14

コメント
[5]

小説通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

※できるだけ具体的に記入してください。
特に盗作投稿については、どういった部分が元作品と類似しているかを具体的にお伝え下さい。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL