とりぷるふーるず!!
条兎は、体育祭の準備中、男子バレー部の助っ人を頼まれる。
怪我人が出て、急遽メンバーが足りないらしい。
「いや、私女子なんだけど」
「え? 条兎先輩が“女子”って誰が信じてるんですか?」
「ころすぞ」
けど、しぶしぶユニフォームを着て練習に参加。 そのプレーは圧倒的で、男子たちの空気が変わる。
――その中に、静かに条兎を見つめる一人の男子がいた。
成宮 颯(なるみや はやて)。 1年、バレー部。明るくて、人懐っこい。
練習後、彼はタオルを差し出してきた。
「すごかったです……! “誰よりかっこよくて、誰より綺麗でした”」
条兎「……へー…」
[水平線]
別の日。条兎はひとり、静かな図書室で本を読んでいた。 そこに声をかけてきたのは――
鷹野 楓(たかの かえで)。 2年、文芸部。無口でクール系。 けど、どこか条兎と同じ匂いを持っていた。
「……君、読書するんだな」
「別に。たまには、頭も使うんで」
「……でも似合ってる。 静けさが、君の輪郭を柔らかくしてる」
「なにその言い回し、ポエマーか?」
「ポエマーだよ。君が、僕の詩のインクを落ち着かせる」
「……は?」
楓は、テーブルに一冊の詩集を置いて去る。 そこには、こう書かれていた。
『月の影に咲く、名もなき花』 それが君の名前なら、 僕はずっと夜に咲きたい
(――なんか、どっちも本気っぽくない!?)
[水平線]
生徒会室。 汐花と弥生に、条兎はぽつりと漏らす。
「……最近、やたら男子から好かれてるっぽい」
「それってつまり、“愛されイベント発生中”ってこと!?うわああ!!!」
「うるさい。あとこれは恋愛じゃなくてバグ」
弥生がコーヒーを飲みながら言う。
「でも条兎、いつも“女子として見られたかった”って言ってたよね? 今それ、叶ってきてるんじゃないの?」
「……うん。たしかに、うれしい。 でも、なんか……怖いんだよ。 “女の子として好き”って言われても、 それが本当か、自分でわかんない」
[水平線]
夜、生徒会の仕事で準備中。 校舎裏、静かな場所で――
まず現れたのは、成宮 颯。
「宝条先輩、俺……先輩に一目惚れしました。 男とか女とか関係なくて、 俺、“宝条さん”そのものが好きです」
「……そういうの、簡単に言うなよ」
「簡単じゃないです。先輩が、自分を嫌わないでほしいだけです」
涙ぐむ彼に、条兎は何も言えなかった。
そして――そのすぐあと。
現れたのは、鷹野 楓。
「僕はね、誰よりも静かに君を見てきた。 君が“女の子”になりたかったのも、 君がずっと戦ってきたのも、全部、知ってる」
「……なんでそんなに、知ってるんだよ」
「好きな人のことだからだよ」
「…………そう」
[水平線]
夜、屋上。 3人並んでラムネを飲む。
汐花「で、どうすんの?どっち選ぶの?」
条兎「……わかんない。まだ、誰かを好きになるってことが、どういうことなのかも、よくわからない」
弥生「なら、ちゃんと迷いなよ。 その不器用さが、君の優しさなんだから」
条兎は空を見上げる。
「でも、一つだけ決めてる。 “誰かの理想の女の子”には、もうならない」
「うちら、“ふーるず”だからね」
「そう、バカだから、自分の“好き”にだけは誠実でいたい」
[水平線]
どこか遠いお祭りの打ち上げ花火。 それぞれがそれぞれの距離で、きっと誰かを見つめている。
条兎の胸には、まだ答えはない。 でも――彼女は初めて、愛されることに戸惑っていた。
(こんな自分でも、誰かに好きって言ってもらえるんだな)
その想いが、少しだけ彼女の輪郭をやわらかくした。
「いや、私女子なんだけど」
「え? 条兎先輩が“女子”って誰が信じてるんですか?」
「ころすぞ」
けど、しぶしぶユニフォームを着て練習に参加。 そのプレーは圧倒的で、男子たちの空気が変わる。
――その中に、静かに条兎を見つめる一人の男子がいた。
成宮 颯(なるみや はやて)。 1年、バレー部。明るくて、人懐っこい。
練習後、彼はタオルを差し出してきた。
「すごかったです……! “誰よりかっこよくて、誰より綺麗でした”」
条兎「……へー…」
[水平線]
別の日。条兎はひとり、静かな図書室で本を読んでいた。 そこに声をかけてきたのは――
鷹野 楓(たかの かえで)。 2年、文芸部。無口でクール系。 けど、どこか条兎と同じ匂いを持っていた。
「……君、読書するんだな」
「別に。たまには、頭も使うんで」
「……でも似合ってる。 静けさが、君の輪郭を柔らかくしてる」
「なにその言い回し、ポエマーか?」
「ポエマーだよ。君が、僕の詩のインクを落ち着かせる」
「……は?」
楓は、テーブルに一冊の詩集を置いて去る。 そこには、こう書かれていた。
『月の影に咲く、名もなき花』 それが君の名前なら、 僕はずっと夜に咲きたい
(――なんか、どっちも本気っぽくない!?)
[水平線]
生徒会室。 汐花と弥生に、条兎はぽつりと漏らす。
「……最近、やたら男子から好かれてるっぽい」
「それってつまり、“愛されイベント発生中”ってこと!?うわああ!!!」
「うるさい。あとこれは恋愛じゃなくてバグ」
弥生がコーヒーを飲みながら言う。
「でも条兎、いつも“女子として見られたかった”って言ってたよね? 今それ、叶ってきてるんじゃないの?」
「……うん。たしかに、うれしい。 でも、なんか……怖いんだよ。 “女の子として好き”って言われても、 それが本当か、自分でわかんない」
[水平線]
夜、生徒会の仕事で準備中。 校舎裏、静かな場所で――
まず現れたのは、成宮 颯。
「宝条先輩、俺……先輩に一目惚れしました。 男とか女とか関係なくて、 俺、“宝条さん”そのものが好きです」
「……そういうの、簡単に言うなよ」
「簡単じゃないです。先輩が、自分を嫌わないでほしいだけです」
涙ぐむ彼に、条兎は何も言えなかった。
そして――そのすぐあと。
現れたのは、鷹野 楓。
「僕はね、誰よりも静かに君を見てきた。 君が“女の子”になりたかったのも、 君がずっと戦ってきたのも、全部、知ってる」
「……なんでそんなに、知ってるんだよ」
「好きな人のことだからだよ」
「…………そう」
[水平線]
夜、屋上。 3人並んでラムネを飲む。
汐花「で、どうすんの?どっち選ぶの?」
条兎「……わかんない。まだ、誰かを好きになるってことが、どういうことなのかも、よくわからない」
弥生「なら、ちゃんと迷いなよ。 その不器用さが、君の優しさなんだから」
条兎は空を見上げる。
「でも、一つだけ決めてる。 “誰かの理想の女の子”には、もうならない」
「うちら、“ふーるず”だからね」
「そう、バカだから、自分の“好き”にだけは誠実でいたい」
[水平線]
どこか遠いお祭りの打ち上げ花火。 それぞれがそれぞれの距離で、きっと誰かを見つめている。
条兎の胸には、まだ答えはない。 でも――彼女は初めて、愛されることに戸惑っていた。
(こんな自分でも、誰かに好きって言ってもらえるんだな)
その想いが、少しだけ彼女の輪郭をやわらかくした。