仁愛に今、決別の歌を。
花の高校生活!
俺はいじめっこと運命を別れさせ、人生を謳歌!!
…そんなことはなかった。
入学早々、俺は不登校になった。
いや、高校でいじめられたとかじゃなく。
単純に、すごく疲れたから。
ここまで悲しみも苦労もすべて隠して一滴も出さず、
ひたすらに努力してきたが。
そのストレスが今になって心にのしかかってきた。
神威「あー・・・外、出たくない・・・お母さん、お父さん・・・まじでごめん」
良い高校いったのに、全然行かなくて、こんな親不孝な子を許してください。
ピーンポーン
ん?
神威「インターホン…?宅配?」
家には誰もいない。俺オンリー。
…なので、重い足腰を引きずりながらそのインターホンに応え、ドアを開ける。
ガチャ
「!」
神威「…はい?」
目の前には、一度入学式で見たきりの担任…[太字]夕凪璃透[/太字]先生がいた。
[水平線]
神威「えーと…なんの用ですか?」
「.....あ、君が神威くんで合ってるかな」
神威「は、はい…」
正直、入ってきたのが先生だと知って、真っ先に沸いた感情は「クソが」だった。
だって、小学校の先生も中学校の先生も…
誰一人俺のことなんか見なかったじゃん。
今更遅いよね。
それに、ちょっと疲れてるだけだし。いじめはもうないし。
「急にごめんな、びっくりした?」
目の前の先生は、そう言って緊張の氷を溶かすように笑う。
神威「まぁ…はい」
「......まぁ、まずは......挨拶と言ってはなんだが、入学おめでとう。」
うん、マジで挨拶といってはなんだよ。入学式の記憶ほぼないよ。
神威「…あ、ありがとう、ございます?」
「んで俺は、君のクラスの担任になった......夕凪 璃透。」
「まぁ......好きに呼んで。」
神威「…夕凪先生…。…それで?…連れ出すんですか?」
中学や小学の先生みたいに、生徒のこと何にも考えず連れて行くんですよね?
先生ってみんなそうでしょ?
「連れ出す......いや、そんなわけないだろ......連れ出したところで俺に意味ないし」
社に構えた俺の心とは反対に、そう苦笑いを混ぜながら先生は言う。
「普通に、お話しに来たんだよ」
神威「…」
お話…か。
「......ちなみに今、親はいたりする?」
神威「…いないと思います。この時間帯は二人とも仕事なので」
「......そう、か。......じゃあなおさら話しやすいか」
咳払いを一つしてから、話し始める。
「......単刀直入に言うと、君が......神威が、不登校になってる事について、
俺の方でサポートしていこうと思ってる」
神威「…」
「......ただ、詳しいことについては、俺もよく知ってない。」
神威「…」
「でも、流石に最初から学校に行けとか無理なことは言わないよ」
先生は、意味もなく少し周りをきょろきょろしてから、話し始める。
「......まぁこれは俺の後悔とか持論含めての話になるけど.........
やっぱ、学校に行って友達作って、高校生活を楽しんでほしいんだよな」
…結局それか。
神威「…」
「......だって、せっかくの高校生なんだぞ?
楽しまないのはもったいないって少しは思わないか?」
楽しまなければもったいない。
それに対しての、一番の回答をぶつけてみた。
神威「……よく、わからない」
神威「学校って楽しいもの…なのかな?
…おそらく、多分そうなんだろうけど…俺にはよくわかんない。 」
だって、俺が知る学校っていうのは…
[太字]少しの過ちで、すべての人が敵になる狭い世界。3年で出られる檻の中。[/太字]
…そんなものだから。
「......俺にとっては、少なくとも楽しかったよ。3年だけだけど、本当に記憶に残る思い出ばっかりだった。」
「もちろん高校生活送ってて、俺にもつらいこととかたくさんあった。
けど......それ以上に楽しかったよ。俺にとってはな。」
神威「………そう」
どうしようかな。
…俺の学校生活がわからない理由に対して、先生はどういってくれるんだろ。
そういう感情がふと沸いてきた。
神威「俺…小学校と中学校の合わせて9年間以上、ずっとクラスメイトにいじめられてて」
きっとそれは、「この人なら大丈夫なんじゃないか」
という軽薄な信用だと思う。
「......!」
神威「だから、普通の学校生活がわからない。」
「.........」
話してしまった言葉は止まらない。
ひねった蛇口から水が止まらないように、俺は次々と話してしまう。
神威「中3のとき、俺はいじめをやめてほしくて、
本やマンガで読んだ学校生活によくいる「元気な人気者」を演じてみた。」
神威「それでいじめは止められなかったよ。
…でも勉強だけははかどってたから…中3はひたすら勉強してた。」
神威「…だから、演じてた1年間の学校生活もほとんど記憶にない」
だから、学校生活がわからない。
さぁ先生は、これになんて反応をする?
…俺の本音を、貶してみろよ____
「.........そっか、それはつらかったな」
神威「わっ!?」
しかし先生は、貶すもせず、…俺を抱きしめた。
親でもない男性に抱きしめられてさすがに困惑したが、
それはすぐに安堵に変わる。
神威「……俺、学校、行きたいんだよ。本当は。 」
そうして、相手を試すような本音の出し方じゃない、
相手を信頼するからこその本音が出た。
神威「でも、疲れてるんだ」
神威「[太字]…「甘え」だよ。大人が一番嫌いなやつ。[/太字]」
小学校の時、学校に行きたくないと先生に相談したとき、持ち出された言葉。
それを目の前の教師は…
「.........大人が「甘え」ってのを嫌ってるのはな、それに依存してばっかりだからだよ」
否定してくれた。
「別に逃げてもいい、甘えてもいい。」
「......ただ、いつかは絶対に自分と向き合わないといけないから」
「.........大人の言ってる「甘え」ってのは、ずっと逃げてばっかりの臆病者ってことだよ」
まるで自分が大人じゃないように言う。
「......いつでもいいよ、向き合えるようになるってのは。その辺は自分のペースでいい。」
神威「……ありがとう、ございます」
「......両親でもいいし、別に俺とか頼ってもいいんだよ、どんな事でもいいから」
「だからそれまで、ゆっくりでいいから向き合えるようになってこう、な?」
変だ、視界がおかしいよ。
涙があふれて止まらないんだ。
神威「……ッく、う”…っ…」
どうして、どうして先生はそんなにいい人なの。
…初めてだよ。こんなに、大人に頼ってよかったって思ったの。
神威「っうあ”あ”あ”あ”あ”ん…!」
嗚咽の声は、しばらく止まなかった。
たしかに俺の心は、そこで救われたんだと思う。
[水平線]
神威「おはようございまーす!夕凪せんせー!」
まともに高校へ行けるようになって、はや数か月がたった。
人生初の、普通の学校生活は。
俺の思った何倍も楽しかった。
「お前は今日も元気だな…」
夕凪先生は、そんな俺の挨拶に反応してくれる。
__俺はそうやって、救われたんだっけ。
でも…