仁愛に今、決別の歌を。
「吸血アクマが来たぞ!」
狭い教室にその声が響くと、一斉に笑いや雑談を止める。
静かにそこに足を踏み入れていく。
「あいつ、毎日頭から血をかぶってるんだぜ」
「色が両目で違うの、絶対悪魔の子供だからよ」
「あいつの家にはな、たくさんの人の生き血があるらしいぞ!」
「「「「「「「やだーっ、こわーいっ!」」」」」」」
俺はただの少年だった。
ヒーローごっこにあこがれて、猫が好きなただの少年だった。
でも、悲しいかな。
ヒーローみたいな能力をみんなが持ってる世界で。
俺はその能力に、異常にされた。
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「なに、これ」
小学生のころ、友達が家に遊びに来たことがあった。
その時、必死に隠していたダンボールを見つけられてしまった。
…[太字]「等身弾幕」の媒体である、自身の血液の詰まったボトルの、
ぎっしりと詰められたダンボールを。[/太字]
その日から俺は、一転して悪者、汚れ、塵芥同然の扱いにまで堕落した。
「神威くん、こっちこないで」「血まみれ神威だ、いい加減髪洗えよ」「目まで血色なの?吸血鬼じゃん」「あ、吸血アクマ先輩だ!」「そのオレンジもいつか赤になるんだよね」「キバとか生えてるんじゃねえの?」「鏡見せろ鏡!眼の中の十字見て死ぬかもしれないぜ!」「マジ?持ってくるわ」「あたしの使ってよー。こいつ死ぬなら本望だし」「てゆーかさ、なんで学校来てるの?」「空気読めないの?」「誰からも好かれてないのわからないの?」「仕方ないよ、人間じゃないんだもん」「じゃあ仕方ないね、吸血アクマだもんね」「なんで皆と同じ土俵に立てると思ってるんだろう」「先生もかばわなくていいのにね。人殺しなんか」
もちろん俺は人なんか殺してない。
血も吸ってない。
あの血は、ただの俺の能力の弊害だ。
能力の都合上、定期的に血を抜かないといけないんだ。
誰かのものなんかじゃない。
それでも、子供というのは残酷だった。
俺というものはあっという間に、「最低な吸血アクマ」として定着し、
そのまま中学の3年間の幕開けを見ることになる。
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中学になると、いじめはよりエスカレートした。
ある日は[漢字]宝探し[/漢字][ふりがな]物を隠され[/ふりがな]。
ある日は[漢字]間違い探し[/漢字][ふりがな]机を動かされ[/ふりがな]。
ある日は[漢字]イメージチェンジ[/漢字][ふりがな]服や靴を破り壊され[/ふりがな]。
そして、繁殖するテストに、俺はとにかく打ちのめされていた。
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「柳太、小学生のころと比べてあきらかに成績が落ちてるけど・・・何かあったの?」
母の心配そうな声が、俺の心を撫でて傷つける。
神威「なんともないよお母さん。勉強が難しくてついていけないだけだと思う。…もっと頑張るよ」
「本当?最近、靴や制服もボロボロだし…何かされてるんじゃない?」
神威「…だから大丈夫だって!俺、ちゃんと友達いるよ!」
この間だって宝探ししたし…と心の中で皮肉を言って、その場を去った。
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「神威さん、あなたこのままだとやばいですよ」
腹が立っていた。
神威「はーい…((」
成績は上がらない。仕方ないじゃないか、
ノートは買っても買っても、
書いても書いても、
水没させられるし破られるんだもの。
それなのに目の前の先生はそんな状況の生徒にも気づけない。
そんな先生にだったら迷惑かけていいでしょ。こっちもかけられてるんだ。
居残り、上等。
…と、まあこんな風に、俺はかなり心がすさんで、この悲惨な状況に慣れきっていた。
心の底では「おかしい」「助けてほしい」ともがいているも、
いつのまにやらこの世界にペタペタ適応してる俺だった。
苦しいときは「[漢字]見えてる世界が俺は他人と違う[/漢字][ふりがな]これにいちいち悲しむ方がおかしいんだ[/ふりがな]」と思って、それを正そうとしておいた。
心は確かに傷ついていた。
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時はたった。中学3年、受験を控えた大事な時期。
もちろんいじめはなくなっていないどころかもはや犯罪レベルだ。
クラスメイトと顔を合わせるたびに足を蹴られて転ばさせられる。
お前はもう学校に来るな。
知らないところで勝手に終わっとけ。
そんな声が聞こえるように今日も蹴られる。
対して俺は…
神威「おはよう!鈴木君!おはよう!さよりさん!あ、ヘアピン変えた?似合ってるよ!」
一軍陽キャのようにすがすがしい姿で登校するようになった。
なんでか?
俺の思考回路は単純だった。
「明るく振舞えば、イメージを払拭できるかもしれない!」
と、いうわけで。
神威「うわー終わった、教科書忘れたー!ねえねえ、田中君見せてくれない?…だめ?だめかぁ…」
神威「あー!見つかったー!昨日なくしたペン!ゴミだと思って誰か捨てちゃったんだね!」
神威「机どこだっけ!?俺馬鹿だからわかんなくなっちゃった!…あ、そこだ!!」
悲しいことにいじめが消えることはなかったが、この作戦は別の方向に功を奏した。
勉強にやる気が出たんだ。
なにもされてない、平和な中学生になりきることで、勉強をする余裕も生まれた。
ノートがないなら買えばいい。筆箱が汚されたならキレイにすればいい。
なんだ簡単なことだったんだ!
苦労を隠した笑顔は俺には薄く汚れて見えるけど、それでも気はまぎれた。
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そうして、勉強がなんとかなった俺は、一つの道を見出した。
「いい高校に入ってこいつらとオサラバしよう!」
そうなっては早かった。
過ぎ去っていく地獄の学校生活はほとんど記憶がない。
がむしゃらに勉強して、苦労をごまかして、勉強して、屈しない少年を演じて。
そして俺に、
高校生活が訪れた。