とあるおはなし
朝というものは、不思議なほど平等だ。
昨日、戦場で何千という命が潰えようと、母親が子を亡くそうと、王が玉座の上で笑おうと、
夜明けは誰の事情も知らない顔をして山の向こうから現れる。
どこか、諦めに似ていた。
だから私は、朝があまり好きではなかった。
朝は、昨日を終わったものとして扱う。
まだ終われていない者のことなど、少しも待ってはくれない。
窓を開けると、冷えた空気が部屋へ流れ込んだ。
庭では白い花が咲いている。
この花の名前は知らない。
昔は知っていた気もするが、花の名は忘れることにしている。
名前を知ると、別れが増える。
そんな気がしていた。
机の上には、昨夜読みかけた本が開いたまま置かれていた。
紙の端に折り目がついている。
悪い癖だ、と何度も思っているのに直らない。
私は本を閉じ、指先で皺をなぞった。
もう戻らない。
紙も、人も、似たようなものだ。
「先生。」
扉が三度叩かれる。
一定の間隔。
控えめだが、聞き逃すことはない。
「入っていいよ。」
扉を開けた少女は、両腕いっぱいにパンを抱えていた。
焼きたてなのだろう。
湯気が立ち、まだ小麦の甘い香りがする。
「市場のおばさんが、焼きすぎたからって。」
「そう。」
「……先生、また朝ご飯を忘れてました?」
「忘れていたわけじゃない。」
「食べなくても平気だと思ってました?」
私は少し考えた。
「その違いは、私にもよく分からない。」
少女――リシェは、呆れたように笑う。
「先生って、ときどき自分のことだけ他人みたいに話しますよね。」
その言葉に、私は返事をしなかった。
返事をすると、嘘になる気がした。
彼女はパンを皿へ移しながら鼻歌を歌っている。
この家には、誰かが歌う音がよく似合う。
私は歌わない。
歌える歌を、もうほとんど覚えていない。
「今日は診療の日ですよ。」
「ああ。」
「朝から列ができてました。」
「今日は多い?」
「いつもの倍くらいです。」
「そうか。」
窓の外へ目を向ける。
門の向こうに、小さな人影が並んでいた。
老人。
母親。
子ども。
兵士。
旅人。
誰もが何かを抱えている。
痛みというものは、姿かたちを変えるのが上手い。
だから、人は自分の痛みだけが特別だと思ってしまう。
それは間違いじゃない。
痛みは、持った者にしか重さが分からない。
私は外套を羽織った。
玄関へ向かう途中、小さな鏡の前を通る。
立ち止まりはしない。
鏡を見る習慣は、ずいぶん前になくした。
自分の顔は、朝より夜の方がよく知っている。
玄関を開けると、待っていた人々が一斉に頭を下げた。
「先生、おはようございます。」
「先生、息子を診てください。」
「昨日から熱が下がらなくて……。」
「妻が、目を覚まさないんです。」
誰もが切実だった。
だから私は、一人ずつ頷いた。
焦らない。
順番を変えない。
先に並んだ者から診る。
それだけは、昔から決めている。
列の最後尾に、小さな男の子がいた。
六歳か、七歳くらいだろうか。
母親の服を握ったまま、じっとこちらを見ている。
目が合う。
その瞬間だけ、私は息を止めた。
どこかで見たことがある。
そう思った。
だが、それがどこなのか思い出せない。
少年は笑った。
ただ、それだけだった。
私は微笑み返し、次の患者へ視線を移した。
その日の診療は、夕方まで続いた。
道を踏み外し骨折した猟師。
肺を患った老人。
魔獣に腕を裂かれた兵士。
耳の聞こえなくなってしまった少女。
私は淡々と魔法を使い、傷を閉じ、熱を下げ、血を止める。
人はよく言う。
「先生の魔法は美しい」と。
私はそう思ったことがない。
魔法は美しくない。
美しいのは、治ったあとに笑う人間の顔だ。
だから私は、魔法を見ることはあっても、自分の魔法を見たことは一度もなかった。
日が傾き始めた頃、最後の患者が深く頭を下げた。
「ありがとうございました。」
「どうか、お大事に。」
ありふれた言葉だった。
何百回、何千回と口にしてきた言葉。そのはずなのに。
老人が帰ったあとも、その「ありがとうございました」だけが妙に耳に残っていた。
まるで、誰か別の人間に向けられた言葉を、私が間違って受け取ってしまったような違和感だけが、静かに胸の奥へ沈んでいった。
夕暮れになると、診療所は急に広くなる。
昼間は人の声で埋まっていた廊下も、誰かが座っていた長椅子も、使われた湯呑みも、
すべてが急に「物」へ戻ってしまう。その変化が私は苦手だった。
リシェは洗い物をしながら、今日診た患者の話をしていた。
「あの兵士さん、帰るとき笑ってましたね。」
「そうだね。」
「先生が腕を治した瞬間、『娘を抱き上げられる』って。」
皿の触れ合う音が、小さく響く。
「……嬉しかったな。」
「そう。」
「先生は嬉しくなかったんですか?」
「嬉しかったよ。」
私は答えた。
嘘ではない。
ただ、それだけでは足りなかった。
兵士は娘を抱き上げられるようになった。
その事実は確かに喜ばしい。
けれど私の頭には、それより先のことばかり浮かんでしまう。
その腕で、また剣を握るかもしれない。
その腕で、誰かを抱き締めるかもしれない。
あるいは、その腕で、自分の子どもを埋葬する日が来るかもしれない。
人は一つの結果だけでは終わらない。
一つの幸福は、必ず次の出来事へ続いていく。
私は、その続きを知りすぎていた。
「先生。」
「何だい。」
「先生って、未来が見えるんですか。」
洗い物をする手を止めず、彼女は何気なく尋ねた。
「どうして?」
「だって、治したあとも、いつも患者さんを見てるから。」
私は少し考えてから首を振った。
「見えないよ。」
「じゃあ、何を見てるんです?」
「……癖かな。」
「癖?」
「その人の顔を覚えておこうとしている。」
リシェは笑った。
「先生なら全員覚えてそうです。」
私は、その言葉に返事をしなかった。
覚えていない。
覚えていないから、見ている。
人の記憶は、思っているよりも脆い。
昨日会った人の声を忘れる。
十年前に抱き締めた人の匂いを忘れる。
顔も、名前も、やがて輪郭から欠けていく。
だから私は、人を見る。
忘れないように。
忘れてしまうことを知っているから。
_____________________________________________________________________________________________________
夜更け、リシェが寝静まったあとで、私は診療所の裏庭へ出た。
昼間咲いていた白い花は、夜になると閉じてしまうらしい。
それを眺めていると、背後で足音がした。
「先生。」
振り返らなくても分かった。
リシェだった。
寝間着のまま、裸足で立っている。
「眠れないの?」
「先生こそ。」
「年を取ると眠りが浅くなる。」
「先生、そういう冗談、面白くないです。」
「そうか。」
「……また夢を見たんですか。」
その一言だけで、私は少しだけ驚いた。
「どうしてそう思った。」
「先生、夢を見た日の朝だけ、窓を開ける時間が長いから。」
思わず笑いそうになった。
観察されていたらしい。
「敵わないな。」
「先生は私のこと何でも見抜くのに、私は見ちゃ駄目ですか?」
「駄目じゃない。」
私は庭石へ腰を下ろした。
リシェも少し離れて座る。
虫の声だけが聞こえていた。
「先生。」
「うん。」
「先生は、人を助けるの好きですか。」
その問いに、私はすぐ答えられなかった。
好き。
嫌い。
そんな言葉では量れない。
しばらく考えた末に、私は言った。
「そうしないと眠れない。」
リシェは意味が分からなかったらしく、小さく首を傾げた。
私は説明しなかった。
説明できることではなかった。
「じゃあ、先生は優しいんですね。」
「違う。」
思ったより強い声が出た。
リシェが驚いてこちらを見る。
私はすぐに目を伏せた。
「……すまない。」
「いえ。」
「私は優しくない。」
「どうしてです?」
風が吹く。
閉じた花が揺れる。
私はその花を見たまま、小さく呟いた。
「優しい人間は、自分が誰を救えなかったかなんて、数えたりしない。」
リシェは何も言わなかった。
言葉の意味が分からなかったのだろう。
それでよかった。
分からないままでいてほしかった。
その夜、彼女は「おやすみなさい」と言って部屋へ戻った。
私は一人残り、夜が白み始めるまで庭に座っていた。
夜明け前の空は、青ではない。
黒でもない。
何色とも呼べない曖昧な色をしている。
私は昔から、その色だけは好きだった。
どちらにも決めていない色だったから。
診療所へ戻ると、机の上に古びた封筒が置かれていた。
差出人の名はない。
封蝋だけが押されている。
見覚えのある紋章だった。
何十回も見たことがあるはずなのに、どこで見たのかだけが思い出せない。
私はしばらく封筒を眺め、それから静かに封を切った。
中には紙が一枚だけ。
短い文章だった。
> **北方商業都市ノルンにて、十三年ぶりに《灰の子》が確認された。**
>
> **至急、お力添えを願いたい。**
読み終えた瞬間だった。
胸の奥で、何かが音を立てた。
痛みではない。
恐怖でもない。
もっと古い感覚だった。
忘れたはずの傷痕を、誰かが指先で静かになぞったような。
気づけば私は、手紙を握り潰していた。
紙が皺になる。
その皺を見つめながら、私は何気なく呟いた。
「……まだ、生きていたのか。」
その声は、喜びにも、安堵にも聞こえなかった。
どこか、諦めに似ていた。
昨日、戦場で何千という命が潰えようと、母親が子を亡くそうと、王が玉座の上で笑おうと、
夜明けは誰の事情も知らない顔をして山の向こうから現れる。
どこか、諦めに似ていた。
だから私は、朝があまり好きではなかった。
朝は、昨日を終わったものとして扱う。
まだ終われていない者のことなど、少しも待ってはくれない。
窓を開けると、冷えた空気が部屋へ流れ込んだ。
庭では白い花が咲いている。
この花の名前は知らない。
昔は知っていた気もするが、花の名は忘れることにしている。
名前を知ると、別れが増える。
そんな気がしていた。
机の上には、昨夜読みかけた本が開いたまま置かれていた。
紙の端に折り目がついている。
悪い癖だ、と何度も思っているのに直らない。
私は本を閉じ、指先で皺をなぞった。
もう戻らない。
紙も、人も、似たようなものだ。
「先生。」
扉が三度叩かれる。
一定の間隔。
控えめだが、聞き逃すことはない。
「入っていいよ。」
扉を開けた少女は、両腕いっぱいにパンを抱えていた。
焼きたてなのだろう。
湯気が立ち、まだ小麦の甘い香りがする。
「市場のおばさんが、焼きすぎたからって。」
「そう。」
「……先生、また朝ご飯を忘れてました?」
「忘れていたわけじゃない。」
「食べなくても平気だと思ってました?」
私は少し考えた。
「その違いは、私にもよく分からない。」
少女――リシェは、呆れたように笑う。
「先生って、ときどき自分のことだけ他人みたいに話しますよね。」
その言葉に、私は返事をしなかった。
返事をすると、嘘になる気がした。
彼女はパンを皿へ移しながら鼻歌を歌っている。
この家には、誰かが歌う音がよく似合う。
私は歌わない。
歌える歌を、もうほとんど覚えていない。
「今日は診療の日ですよ。」
「ああ。」
「朝から列ができてました。」
「今日は多い?」
「いつもの倍くらいです。」
「そうか。」
窓の外へ目を向ける。
門の向こうに、小さな人影が並んでいた。
老人。
母親。
子ども。
兵士。
旅人。
誰もが何かを抱えている。
痛みというものは、姿かたちを変えるのが上手い。
だから、人は自分の痛みだけが特別だと思ってしまう。
それは間違いじゃない。
痛みは、持った者にしか重さが分からない。
私は外套を羽織った。
玄関へ向かう途中、小さな鏡の前を通る。
立ち止まりはしない。
鏡を見る習慣は、ずいぶん前になくした。
自分の顔は、朝より夜の方がよく知っている。
玄関を開けると、待っていた人々が一斉に頭を下げた。
「先生、おはようございます。」
「先生、息子を診てください。」
「昨日から熱が下がらなくて……。」
「妻が、目を覚まさないんです。」
誰もが切実だった。
だから私は、一人ずつ頷いた。
焦らない。
順番を変えない。
先に並んだ者から診る。
それだけは、昔から決めている。
列の最後尾に、小さな男の子がいた。
六歳か、七歳くらいだろうか。
母親の服を握ったまま、じっとこちらを見ている。
目が合う。
その瞬間だけ、私は息を止めた。
どこかで見たことがある。
そう思った。
だが、それがどこなのか思い出せない。
少年は笑った。
ただ、それだけだった。
私は微笑み返し、次の患者へ視線を移した。
その日の診療は、夕方まで続いた。
道を踏み外し骨折した猟師。
肺を患った老人。
魔獣に腕を裂かれた兵士。
耳の聞こえなくなってしまった少女。
私は淡々と魔法を使い、傷を閉じ、熱を下げ、血を止める。
人はよく言う。
「先生の魔法は美しい」と。
私はそう思ったことがない。
魔法は美しくない。
美しいのは、治ったあとに笑う人間の顔だ。
だから私は、魔法を見ることはあっても、自分の魔法を見たことは一度もなかった。
日が傾き始めた頃、最後の患者が深く頭を下げた。
「ありがとうございました。」
「どうか、お大事に。」
ありふれた言葉だった。
何百回、何千回と口にしてきた言葉。そのはずなのに。
老人が帰ったあとも、その「ありがとうございました」だけが妙に耳に残っていた。
まるで、誰か別の人間に向けられた言葉を、私が間違って受け取ってしまったような違和感だけが、静かに胸の奥へ沈んでいった。
夕暮れになると、診療所は急に広くなる。
昼間は人の声で埋まっていた廊下も、誰かが座っていた長椅子も、使われた湯呑みも、
すべてが急に「物」へ戻ってしまう。その変化が私は苦手だった。
リシェは洗い物をしながら、今日診た患者の話をしていた。
「あの兵士さん、帰るとき笑ってましたね。」
「そうだね。」
「先生が腕を治した瞬間、『娘を抱き上げられる』って。」
皿の触れ合う音が、小さく響く。
「……嬉しかったな。」
「そう。」
「先生は嬉しくなかったんですか?」
「嬉しかったよ。」
私は答えた。
嘘ではない。
ただ、それだけでは足りなかった。
兵士は娘を抱き上げられるようになった。
その事実は確かに喜ばしい。
けれど私の頭には、それより先のことばかり浮かんでしまう。
その腕で、また剣を握るかもしれない。
その腕で、誰かを抱き締めるかもしれない。
あるいは、その腕で、自分の子どもを埋葬する日が来るかもしれない。
人は一つの結果だけでは終わらない。
一つの幸福は、必ず次の出来事へ続いていく。
私は、その続きを知りすぎていた。
「先生。」
「何だい。」
「先生って、未来が見えるんですか。」
洗い物をする手を止めず、彼女は何気なく尋ねた。
「どうして?」
「だって、治したあとも、いつも患者さんを見てるから。」
私は少し考えてから首を振った。
「見えないよ。」
「じゃあ、何を見てるんです?」
「……癖かな。」
「癖?」
「その人の顔を覚えておこうとしている。」
リシェは笑った。
「先生なら全員覚えてそうです。」
私は、その言葉に返事をしなかった。
覚えていない。
覚えていないから、見ている。
人の記憶は、思っているよりも脆い。
昨日会った人の声を忘れる。
十年前に抱き締めた人の匂いを忘れる。
顔も、名前も、やがて輪郭から欠けていく。
だから私は、人を見る。
忘れないように。
忘れてしまうことを知っているから。
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夜更け、リシェが寝静まったあとで、私は診療所の裏庭へ出た。
昼間咲いていた白い花は、夜になると閉じてしまうらしい。
それを眺めていると、背後で足音がした。
「先生。」
振り返らなくても分かった。
リシェだった。
寝間着のまま、裸足で立っている。
「眠れないの?」
「先生こそ。」
「年を取ると眠りが浅くなる。」
「先生、そういう冗談、面白くないです。」
「そうか。」
「……また夢を見たんですか。」
その一言だけで、私は少しだけ驚いた。
「どうしてそう思った。」
「先生、夢を見た日の朝だけ、窓を開ける時間が長いから。」
思わず笑いそうになった。
観察されていたらしい。
「敵わないな。」
「先生は私のこと何でも見抜くのに、私は見ちゃ駄目ですか?」
「駄目じゃない。」
私は庭石へ腰を下ろした。
リシェも少し離れて座る。
虫の声だけが聞こえていた。
「先生。」
「うん。」
「先生は、人を助けるの好きですか。」
その問いに、私はすぐ答えられなかった。
好き。
嫌い。
そんな言葉では量れない。
しばらく考えた末に、私は言った。
「そうしないと眠れない。」
リシェは意味が分からなかったらしく、小さく首を傾げた。
私は説明しなかった。
説明できることではなかった。
「じゃあ、先生は優しいんですね。」
「違う。」
思ったより強い声が出た。
リシェが驚いてこちらを見る。
私はすぐに目を伏せた。
「……すまない。」
「いえ。」
「私は優しくない。」
「どうしてです?」
風が吹く。
閉じた花が揺れる。
私はその花を見たまま、小さく呟いた。
「優しい人間は、自分が誰を救えなかったかなんて、数えたりしない。」
リシェは何も言わなかった。
言葉の意味が分からなかったのだろう。
それでよかった。
分からないままでいてほしかった。
その夜、彼女は「おやすみなさい」と言って部屋へ戻った。
私は一人残り、夜が白み始めるまで庭に座っていた。
夜明け前の空は、青ではない。
黒でもない。
何色とも呼べない曖昧な色をしている。
私は昔から、その色だけは好きだった。
どちらにも決めていない色だったから。
診療所へ戻ると、机の上に古びた封筒が置かれていた。
差出人の名はない。
封蝋だけが押されている。
見覚えのある紋章だった。
何十回も見たことがあるはずなのに、どこで見たのかだけが思い出せない。
私はしばらく封筒を眺め、それから静かに封を切った。
中には紙が一枚だけ。
短い文章だった。
> **北方商業都市ノルンにて、十三年ぶりに《灰の子》が確認された。**
>
> **至急、お力添えを願いたい。**
読み終えた瞬間だった。
胸の奥で、何かが音を立てた。
痛みではない。
恐怖でもない。
もっと古い感覚だった。
忘れたはずの傷痕を、誰かが指先で静かになぞったような。
気づけば私は、手紙を握り潰していた。
紙が皺になる。
その皺を見つめながら、私は何気なく呟いた。
「……まだ、生きていたのか。」
その声は、喜びにも、安堵にも聞こえなかった。
どこか、諦めに似ていた。