二次創作
転生林檎
「みんな、ありがとう!!」
カメラのフラッシュが一斉に光った。
受賞式の壇上で、ボクはトロフィーを握りしめながら、震える声でそう言った。
客席には業界関係者や、かつて共に作品を作った仲間たちの姿が見えた。
――ボクの名前が呼ばれた瞬間、世界が変わったように感じた。
駆け出しのシナリオライターとしてこの業界に飛び込んだとき、
ボクは何者でもなかった。
安アパートで缶コーヒーを片手に、
夜明けまでキーボードを叩き続けていた。
同じ夢を追う仲間たちがいた。
才能の方向は違えど、みんな情熱だけは本物だった。
先輩の修正の速さに驚き、同期の脚本に嫉妬しながらも、
いつも笑い合って過ごしていた。
――あの頃のボクは、ただ一緒に作品を作れるだけで幸せだった。
けれど、その日が来た。
自分の書いた物語『☓☓☓』が、
想像を超える速度で世界中に広がっていった。
ニュースサイトには「新時代の天才」の文字。
SNSでは知らない誰かが、ボクの台詞を引用して語っている。
ベストセラー、受賞、賞賛――全てがボクに降り注いだ。
嬉しかった。
でも同時に、どこかで冷めた自分がいた。
「よくやったじゃん!」
「次も一緒に作ろうな!」
仲間たちの声が、遠く聞こえた。
彼らの笑顔を見ても、ボクの胸は高鳴らなかった。
(この中に、本当にボクを理解できる人がいるのだろうか)
(ボクはもう、彼らとは違う場所に立っている――)
いつの間にか、そんな思いが心を支配していた。
「ボクは……だから気安く話しかけないでもらえないか?」
その一言を口にした瞬間、空気が凍った。
誰も怒らなかった。ただ、静かに視線をそらしただけだった。
「そうか……すまないな……」
先輩のその言葉が、やけに静かに響いた。
その後の飲み会も、ボクは呼ばれなくなった。
誰もボクの机の前に来なくなった。
気づけば、オフィスで話す相手はいなくなっていた。
数年後。
ボクは新しい作品をいくつも出した。
だが、あのときのように人の心に届くものは作れなかった。
完璧な構成、緻密な設定、鮮やかな台詞。
けれど、そこには「温度」がなかった。
夜、ふとスマホを開く。
SNSのトレンドには、かつて一緒に夢を追った仲間たちの名前が並んでいた。
みんな笑っていた。
楽しそうだった。
――ボクがいなくても。
「ボクには……人を愛する才能がなかったのかな……」
トロフィーに映る自分の顔は、疲れ切っていた。
そこにはもう、夢を語っていたあの頃のボクはいなかった。
「こんな物語の終わりは……こんな世界は、ダメだ……」
すると
コトッ。
と赤い果実が落ちてきた。
それは、自分が売人から買った“転生林檎”。
シャクッ。
歯が果肉を貫く音が、やけに心地よかった。
冷たい果汁が舌に広がり、意識が遠のいていく。
――ボクは、またやり直せる。
今度こそ、完璧な物語を生きてみせる。
カメラのフラッシュが一斉に光った。
受賞式の壇上で、ボクはトロフィーを握りしめながら、震える声でそう言った。
客席には業界関係者や、かつて共に作品を作った仲間たちの姿が見えた。
――ボクの名前が呼ばれた瞬間、世界が変わったように感じた。
駆け出しのシナリオライターとしてこの業界に飛び込んだとき、
ボクは何者でもなかった。
安アパートで缶コーヒーを片手に、
夜明けまでキーボードを叩き続けていた。
同じ夢を追う仲間たちがいた。
才能の方向は違えど、みんな情熱だけは本物だった。
先輩の修正の速さに驚き、同期の脚本に嫉妬しながらも、
いつも笑い合って過ごしていた。
――あの頃のボクは、ただ一緒に作品を作れるだけで幸せだった。
けれど、その日が来た。
自分の書いた物語『☓☓☓』が、
想像を超える速度で世界中に広がっていった。
ニュースサイトには「新時代の天才」の文字。
SNSでは知らない誰かが、ボクの台詞を引用して語っている。
ベストセラー、受賞、賞賛――全てがボクに降り注いだ。
嬉しかった。
でも同時に、どこかで冷めた自分がいた。
「よくやったじゃん!」
「次も一緒に作ろうな!」
仲間たちの声が、遠く聞こえた。
彼らの笑顔を見ても、ボクの胸は高鳴らなかった。
(この中に、本当にボクを理解できる人がいるのだろうか)
(ボクはもう、彼らとは違う場所に立っている――)
いつの間にか、そんな思いが心を支配していた。
「ボクは……だから気安く話しかけないでもらえないか?」
その一言を口にした瞬間、空気が凍った。
誰も怒らなかった。ただ、静かに視線をそらしただけだった。
「そうか……すまないな……」
先輩のその言葉が、やけに静かに響いた。
その後の飲み会も、ボクは呼ばれなくなった。
誰もボクの机の前に来なくなった。
気づけば、オフィスで話す相手はいなくなっていた。
数年後。
ボクは新しい作品をいくつも出した。
だが、あのときのように人の心に届くものは作れなかった。
完璧な構成、緻密な設定、鮮やかな台詞。
けれど、そこには「温度」がなかった。
夜、ふとスマホを開く。
SNSのトレンドには、かつて一緒に夢を追った仲間たちの名前が並んでいた。
みんな笑っていた。
楽しそうだった。
――ボクがいなくても。
「ボクには……人を愛する才能がなかったのかな……」
トロフィーに映る自分の顔は、疲れ切っていた。
そこにはもう、夢を語っていたあの頃のボクはいなかった。
「こんな物語の終わりは……こんな世界は、ダメだ……」
すると
コトッ。
と赤い果実が落ちてきた。
それは、自分が売人から買った“転生林檎”。
シャクッ。
歯が果肉を貫く音が、やけに心地よかった。
冷たい果汁が舌に広がり、意識が遠のいていく。
――ボクは、またやり直せる。
今度こそ、完璧な物語を生きてみせる。