【ほのぼの】『ひとならざるものたちの日常』
#1
1話
この地域に昔あった、随分前に地図から名前の消えた村。
そこで一人の女が自殺した。
その女は 幼い頃の姿をし、今でもこの地域に現れるらしい。
「っていう都市伝説があってさあ。」
若い女2人が話している。
「ああ、それ聞いたことある。今でも目撃情報あるんでしょ。」
「着物に髪の毛は二つ結びで、手首から血を流した少女…らしいよ。前見つかったって言われてたの、この通りだっけ。」
「嫌なこと言わないでよ。私ここから一人で歩かなきゃいけないのに。」
どうせ迷信だよ、1人がなだめた。
じゃあまたね。手を振り二人は別れる。
街灯もない田舎の道。日が沈みきってしまえば、一人暗闇を歩くことになる。
この時間帯、人は殆ど誰も通らない。車も通らない。ただ虫の音が響いているだけ。
後ろから、自分のものではない足音が聞こえた。
腕を強い力で掴まれた。
振り返る。後ろに立っているのは、
[大文字]ほほえみを浮かべた少女[/大文字] だった。
可愛らしく二つに結んだ髪の毛。着物の袖口の赤い汚れ。
『さっき、わたしの話、してたね。』
玉を転がすような声だった。
走り逃げようとした。
『そだよ、私、妖怪なんだ』
少女のそれとは思えない力で腕を引っ張られる。
そこで女は気を失った。
「そんで私、財布盗って帰った。」
手首の包帯を巻き直しながら言った。
「ほんとに酷いオチだね」
私の友人は苦笑いして言った。
人、といっていいのかわからないが─
というのも、私たちは人間じゃない。
妖怪だか幽霊だか知らないが、人ならざるものの類に入っているのは確か。
以後は妖怪と書いておこうか。
まあその中にも付喪神や山とか土地の神様とかもいるわけだけれど。
「大体、私が自害してから何十年も経ってるってのに、なんでまだ私の噂があるのさ。」
呆れた声を出す。
「ちょくちょく町に出ては人間から財布盗んでるからじゃないの?」
そんでこの、私と同じ妖怪の友人。
こいつは大体300年くらい生きてるそうだ。妖怪の中では若いほうだろうか、1000年超えてる輩はざらにいるし。
友人の名前は [漢字]千夏[/漢字][ふりがな]せんか[/ふりがな]。
どうでもいいが、チナツとでも読みたくなる漢字だなあ、と書いていて思う。
そんで容姿については、此奴の着物の派手なことといったらない。遠くから見ても一発で此奴だとわかる。
私には胡散臭い優男だとしか思えないのだが、女はみんな此奴に惚れる。
そこそこ美形なのだろう、私にはよくわからない。
どっかの山の神様の息子だったそうだが勘当されたらしい。女好きのパリピには妥当な処分だと思う。
「ところで[漢字]巳弥[/漢字][ふりがな]みや[/ふりがな]、その若い女子って、器量良しだった?名前は?財布の中に身分証入ってたんでしょ?そこから特定するから見せてよ。」
千夏が目をきらきらさせて私に訊ねる。巳弥というのは私の名前だ。
それにしても、そんなことで声をはずませないでほしい。
「特定してどうするんだ、手ごめにでもするつもりか。」
「それ以外になんの理由があると思うんだい。で、どうなのさ。」
私は眉をひそめた。そうあっけらかんと言われてはこっちが困る。
「教えるもんか、私は女の子の味方だ。」
「それじゃ、僕は女の子の敵だという訳?」
千夏は、酷いなあ、と言った。酷いのはあんただよ。
そう思いつつ口を開く。
「前言ってた日本酒買ってきてくれるなら見せてやってもいい。どうする?あの高いやつだぞ。」
少しの間沈黙が流れる。
「…じゃあもういいや。」
千夏は不満そうに大きいため息を吐いてその場に寝転んだ。
そこで一人の女が自殺した。
その女は 幼い頃の姿をし、今でもこの地域に現れるらしい。
「っていう都市伝説があってさあ。」
若い女2人が話している。
「ああ、それ聞いたことある。今でも目撃情報あるんでしょ。」
「着物に髪の毛は二つ結びで、手首から血を流した少女…らしいよ。前見つかったって言われてたの、この通りだっけ。」
「嫌なこと言わないでよ。私ここから一人で歩かなきゃいけないのに。」
どうせ迷信だよ、1人がなだめた。
じゃあまたね。手を振り二人は別れる。
街灯もない田舎の道。日が沈みきってしまえば、一人暗闇を歩くことになる。
この時間帯、人は殆ど誰も通らない。車も通らない。ただ虫の音が響いているだけ。
後ろから、自分のものではない足音が聞こえた。
腕を強い力で掴まれた。
振り返る。後ろに立っているのは、
[大文字]ほほえみを浮かべた少女[/大文字] だった。
可愛らしく二つに結んだ髪の毛。着物の袖口の赤い汚れ。
『さっき、わたしの話、してたね。』
玉を転がすような声だった。
走り逃げようとした。
『そだよ、私、妖怪なんだ』
少女のそれとは思えない力で腕を引っ張られる。
そこで女は気を失った。
「そんで私、財布盗って帰った。」
手首の包帯を巻き直しながら言った。
「ほんとに酷いオチだね」
私の友人は苦笑いして言った。
人、といっていいのかわからないが─
というのも、私たちは人間じゃない。
妖怪だか幽霊だか知らないが、人ならざるものの類に入っているのは確か。
以後は妖怪と書いておこうか。
まあその中にも付喪神や山とか土地の神様とかもいるわけだけれど。
「大体、私が自害してから何十年も経ってるってのに、なんでまだ私の噂があるのさ。」
呆れた声を出す。
「ちょくちょく町に出ては人間から財布盗んでるからじゃないの?」
そんでこの、私と同じ妖怪の友人。
こいつは大体300年くらい生きてるそうだ。妖怪の中では若いほうだろうか、1000年超えてる輩はざらにいるし。
友人の名前は [漢字]千夏[/漢字][ふりがな]せんか[/ふりがな]。
どうでもいいが、チナツとでも読みたくなる漢字だなあ、と書いていて思う。
そんで容姿については、此奴の着物の派手なことといったらない。遠くから見ても一発で此奴だとわかる。
私には胡散臭い優男だとしか思えないのだが、女はみんな此奴に惚れる。
そこそこ美形なのだろう、私にはよくわからない。
どっかの山の神様の息子だったそうだが勘当されたらしい。女好きのパリピには妥当な処分だと思う。
「ところで[漢字]巳弥[/漢字][ふりがな]みや[/ふりがな]、その若い女子って、器量良しだった?名前は?財布の中に身分証入ってたんでしょ?そこから特定するから見せてよ。」
千夏が目をきらきらさせて私に訊ねる。巳弥というのは私の名前だ。
それにしても、そんなことで声をはずませないでほしい。
「特定してどうするんだ、手ごめにでもするつもりか。」
「それ以外になんの理由があると思うんだい。で、どうなのさ。」
私は眉をひそめた。そうあっけらかんと言われてはこっちが困る。
「教えるもんか、私は女の子の味方だ。」
「それじゃ、僕は女の子の敵だという訳?」
千夏は、酷いなあ、と言った。酷いのはあんただよ。
そう思いつつ口を開く。
「前言ってた日本酒買ってきてくれるなら見せてやってもいい。どうする?あの高いやつだぞ。」
少しの間沈黙が流れる。
「…じゃあもういいや。」
千夏は不満そうに大きいため息を吐いてその場に寝転んだ。
/ 1