《始まり》
カランコロンと鳴る下駄の音。
暗闇から現れる大きな影。
人だろうか?それとも噂の夢屋さんだろうか。
期待を膨らませる私と不安げな私が戦っている。
私は影の中から現れたその者の外見に大変驚いた。甚兵衛に下駄。そして糸目が不思議な雰囲気を醸し出している。体は細くて弱々しいのに手や肩，脚は異様に力が強そうだ。何故かと言うとその者は大きな屋台のようなものを背負っているのだ。その人は笑顔でこういった。『私の名前は夢屋です。如何ですか？好きな夢が見られますよ。』
優しげな声で安心したのも束の間，えっ夢屋さん？と声が漏れる。私は離れようと体を宙に浮かすように逃げ出した。雰囲気と声が言っている危険な奴だと。
『そんなに怖がらなくても…』と言っている声が聞こえたが無視して走りだした。その時運が悪く石に躓いて転んでしまった。後ろからはカランコロンと下駄の音がする。　何故か転んだのに体は痛くない。痛さよりも怖さが勝っている。私はその時上から抑えつけられた。「ングッ!?」
とうめき声を出すがその力は離れない。『怖がらないでください。落ち着いてください。私は悪い者ではありません。』上から抑えてるやつが何を言う。私はジタバタと暴れる。『嗚呼…もう…めんどくさいですね。』　
そう言う声は優しさなど感じない冷たい声だった。
その時，何かの声がした。「ガルぁ゙ぁ゙!!」叫び声。
苦しげで何かを訴えているよう。私は抑えつけられている力が弱くなったのを感じた。その瞬間力は消えた。
後ろを見れば其処には狐の面を付けた不思議な者が居た。
「安心するが良い!」
何を言っているのだ?困惑が頭の中で渦巻く。
その時さっきの夢屋の声がした。『すいません!!あれは俺の偽物です!!すいません!!すいません!!』
何度も平謝りするが困惑した私には何も理解できない。
私は頭がクラリとして倒れてしまった。