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また、どこかで

#3

ラストです!

[太字]第三章 中学生[/太字]

・好きとは?
365日、休・祝日を除いた毎日、無欠席無遅刻無早退で行っているのに、
なんでみんな「グレた」って言うんだ?
俺が歩けば、ヒソヒソ。
俺が誰かを殴れば、キャー。
良い加減、俺も疲れたんだけど。

「おっ遊月、おはよう」
「おはようございます」
おまけに、小学校よりも圧倒的にウザくなった教師。
あー、だりぃ。

「優さん、おはようございます!」
「あーおはよう」
毎朝、懲りずに挨拶してくる清水。

バスケ部の後輩で、謎に俺を尊敬してくる変なやつ。
「おまえさぁ、良い加減辞めたら?」
「いいえっ。優さんから、『ナイスシュート』と『よくやった』がもらえるまでば続けます!」
「それと挨拶は違うじゃん」
「では、喧嘩ですか?」
話噛み合わねぇ〜。こいつアホなの?

「ちげえわ」
ドスッと清水の黒い頭をチョップして、思った。
お前は俺の真似なんかしなくて良い、と。

二年の二学期。
いわゆる中学の全盛期。
部活は試合に出まくって、勉強もこつこつ積み上げて、早いやつは受験を意識する。
一年でサボったやつと真面目にやったやつは、この辺で違いが出てくる。

担任の山田の長い話を適当に聞き流し、俺は窓の外を見た。
暑そう。
クーラーが効いてるから遮断された外の音。
それでも聞こえる蝉の声。
朝から元気だな。

清水によく似てる。
自分で思っておいて、思ったより自分のツボに入ってふっと笑った。
清水蝉。
そう思うと、夏も悪くないかもな。

委員会という最悪なものがある。
俺は後期、図書委員というさらに最悪なものに入れられた。
毎月二週間も回ってくる、昼休みのカウンターに、本の行方不明を探すパソコン地獄。加えて本棚の整理。

当番の日の昼休み、だるいだるいとマウスをカチカチしていたら、
「あのぅ」
という声がうっすら聞こえた。
空耳か。てか、図書室うるさすぎ。
全員ぶん殴ってやろか。

「あ、あの…」
また聞こえた。
だめだ、俺、頭おかしくなったのか?
まあ最近寝てないしな。

「すみま、せん…」
「えっうおおおおおああああ!」
トンッと肩を叩かれた。
超軽い、ソフトタッチ。

それでさすがに変だと後ろを振り向いたら、
女子(なんかクラスで見たことある気がする)がいた。

「あっごめんなさい。わ、私も、当番で…」
え、なに!?

…あ、そうか。
委員会ってクラスに二人いるな。
それを忘れて俺は、カウンターの椅子を独占していたのか。
「い、いや、俺が悪いし。てか、俺仕事やるからいいよ」

俺、何言ってんだろ。
こんな隠キャそうな女子に全部押し付けたら、昼休みが空くのに。
「そ、それは、仕事だし…」
「あ、そう。じゃあ、椅子どうぞ〜」

俺は、乗せていた足をどかして椅子を譲った。
だからと言っても、図書室はうるさいだけで本を借りる奴なんかいない。
暇だなぁとあくびしたら、一冊の本に目が入った。
カウンターの所に置かれた本。
暇だし、読むか。
あ、でも、一応仕事中?

「あのさ、この本読んでてもいい?」
「あ、はい。どうぞ…」
俺が一応女子に許可を聞くと、消えそうな声で許可をもらった。

内容は、意味不明だった。
難しいことばっか言ってるし、登場人物の名前覚えれないしもう散々で、10ページくらいで辞めた。
やっぱり俺は、本読む様なガラじゃねぇわ。

ちらっと隣を見ると、女子も本を読んでいた。
肩につくくらいの髪と、縁がやたらと太いメガネで表情はわからない。
興味ないし。
だが、女子が読んでいる本の表紙が真っ赤で、なんか気を引かれた。
普通題名に引かれるっていうよな。
表紙、ってなんかアホみたいだな。

だが、あの真っ赤な本が気になり、目が離れない。
そうこうしているとチャイムが鳴って、昼休みの地獄カウンターが終わった。

バスケは好きだ。
ボールが自分の思い通りに動いてくれる。
そのために、自分をひたすら磨く。
部活外でもやった筋トレが、俺の強さの元にもなったと思う。

「ちょっと優、なんでそんなに血まみれで帰ってくることになんのよ」
俺が家に帰ると、だいたいこのセリフがお決まりになる。
「殴ったら相手が鼻血出して、俺に付けてきた。マジであいつ殺す」
「あんたが殴ったからでしょ」
喧嘩なんかいつものこと。
喧嘩っていうか、だいたい向こうから仕掛けてくるんだけど。

風呂に入って寝るか、と思ったところで、昼の女子が頭に浮かんだ。
あいつ、名前なんて言うんだ?
考えても、そら出てこない。

図書委員会で初めて集まった時、メンバーの紙もらわなかったか?
急いでその紙を探す。
しかし、大事な手紙はじいやに渡しているとしても、メンバー用紙とか、捨ててそうな名前の紙だな。
頼む、俺!どこかにあってくれ!

「あった…!」
リュックの中を掘り、教科書の隙間をくまなく探し、
国語のノートに、くしゃくしゃになって挟まっていた。

『後期 図書委員会メンバー用紙
一年 墨田 田中 吉村 菰田
   陸奥 中村 仲田 住吉
二年 森 酒井 吉野 辰巳
   小枝 遊月 前堀 辻田
三年 虎城 小野 安高 芦田
   石田 鈴木 前田 芝』

俺の上、あの女子は、小枝というらしい。
あの小さい声にぴったりの名前だな。
名は体を表す、とか言ったけ?

なっとくすると急に眠気が襲ってきて、落ちる様に、俺は眠りについた。

カウンター仕事は一週間交代。
次の日も、俺はカウンターの椅子に座っていた。
隣には、小枝がいる。
今日も昨日と同じ、赤い表紙の本を読んでいる。
あれ、まじでなんの本なんだろ。
結構気になる。

「すみません、返却お願いします」
「あ、はいはい」
本を返しにきた、レアキャラの女子。
名札の色は緑。
二年か。

「あれ、みおじゃん!なんでそこに?」
「あ、なおちゃん。私、図書係で…」
どうやらなおというこのレア女子は、小枝の友達らしい。

そして俺は!小枝の名前も獲得してしまった。
小枝みお。
すごいしっくりくるな。
っていうか、なんで俺こんなに小枝のことしって喜んでんの?
こわ。

ねえやの結婚が決まった。
俺はまた相手を見てことがないけど、ねえやはずっと好きだったらしい。
それと同時に、世話係の仕事はやめるらしい。
俺もほとんどのことを自分でできる様になって、最近はねえやも暇だった。
だからねえやはすぐに辞めることができた。

そして、結婚式の招待状が俺に届いた。
まあ、行かなきゃいけないよなぁ。
世話になったし。

あーゆーとこに来ていく服って、絶対硬そう。
普段から、制服ちゃん時とけば慣れるのかな。
いや、慣れるのは無理だろ。

あと二ヶ月も先なのに、金髪の髪はじいやによって黒く染められた。
俺が黒髪で学校に行くと、みんなそろって驚いていた。
バスケ部のやつなんか、
「改心したのかぁ〜?」
と言いながら背中バシバシたたいていくるし。
全員ぶん殴ったけど。

清水はちょっとがっかりしてたな。
「僕は、金髪の方の先輩に褒められたかったです!」
清水の脳内の俺の存在って、どんなんなの?

昼休みの当番は、二週間もある。

次の週、小枝は変わらず赤い表紙の本を読んでいた。
「なあ、それ面白い?」
俺は知りたいと言う誘惑に負けて、小枝に話しかけた。
「えっえと…」
なんかめっちゃ怯えられてるし。
まあそうか。
黒髪にしたと言ってもピアスもガッツリ付けてるし、目つき悪いし。

「その、今読んでる本」
俺は小枝の手の中にある本を指差した。
「あ、うんっすごく、面白いよ!」
一瞬、小枝の目が輝いた。
初めてじっくり顔を見た。
いつも下向いてるし、バカでかいメガネかけてるから、見えなかった。

顔は、まあ普通だな。
特にどこかのパーツが秀でてるわけでもないし、とことんフツーな顔。

けど、一瞬光った目が、頭の中から離れない。
「あ、そうなんだ」
なんだ、このぐるぐるする気分は。風邪ひいたか?
「読んでみる?貸すよ!」
「え、いや、いいんか?ありがとう…」
俺は、小枝から真っ赤な表紙の本を受け取った。
小枝って、こんな風に話してたっけ。

その日の夜、俺は小枝から貸してもらった本を手にとって、じっと眺めた。
このドキドキはなんだろう。
表紙を捲って、確信した。
ああ、この本だ。
また会えた。

『今度君が行き詰まった時、僕はいうだろう。
「大丈夫?助けるよ」
 と』

一つだけ、変わっている場所がある。

題名だ。
赤い表紙には、真ん中に、ポツンと文字があった。
『君を助けたい  森宮 新之助 作』
俺が思いついた題名。
本当に使ってくれたんだ。

1ページめ来ると思い出す、9歳の誕生日の日。
その前日に新之助さんの部屋で見つけた赤い本。
ただ、真っ赤なだけの本。
あの時はまだ、題名はなかった。

新之助さん。
元気かな。
今度、帰りに寄ってみようかな。

「あ、これ」
昼休みに返すと、もう読んだの!?と驚かれた。
そら、貸してもらったんだから、すぐに読んで返すにが普通だろ。

「どうだった?面白かった?」
「ああ。俺、草原のシーンが好きだな」
「本当?私もその場面、好きなんだ」
好き…。
あ、いやいや、本の内容だろ?
なんか俺、疲れてるのかもしれない。
心臓あたりがすごく曇ってる。
今日は、早く寝よ。

「いや、それ好きだろ」
図書委員の当番が終わって、やっとのんびりできる昼休みの屋上。
松田に体調のことを話した。
あの日から一向に治らない。

「小枝ちゃんの事が頭から離れなくて?気持ちがドキドキして?
 そんなん、好きに決まってるじゃー」

ゴスッ!!

屋根のない屋上でもよく響く、松田の顔を殴った音。
「ちょっ優、おばえなにすんだ…!?」
好き…。
俺が、小枝のことを?
そんなことあるか?
あんな、パッとしない女子だぜ。
いやでも、小枝の光った顔は、正直可愛かった。
心臓がうるさい。
好き?そもそも、好きってなんだ?え?


・結婚式
あっという間に結婚式の日になった。
ねえやの旦那は、どんなやつなんだろうか。
イケメン?金持ち?それともパッとしない、おっさんとか?
別にどんなやつでも、ねえやを幸せにしてくれるやつなら良い。
けど、やっぱ顔面は気になるっよなぁ。

「優、久しぶり」
「ねえや」

開式まで時間があるからトイレに行って、廊下に出たらねえやに会った。
もうすっかり整えていて、服も、髪もバッチリだった。

「いいのか、こんな所にいて」
「まあ、バレないでしょ」
いや新婦なんだからバレるでしょ。
いなかったら、みんな大忙しで探しにくるぞ。
俺じゃないんだから。

ねえやのそういう、大雑把だけどあったかい、性格を久しぶりにあったからか、強く感じた。

「あ、えっと、おめでとう」
「今更〜!うん…まあ、ありがとう」
なんとなくぎごちなくて、それがおかしくて、
二人で笑っていたら、意外な人がやってくていることに気づかなかった。

「ルリ」
「優希!」
ねえやと並ぶとペアになる服装の、若い男。
どうみても、新郎だった。

俺がぺこっとすると、彼はにっこり笑って言った。
「久しぶりだね、優くん」
「え」

久しぶり…?
俺はこいつに会ったことがあるのか?
ひた…とドキドキした汗が顔をつたる。
「はははっそんなに怯えないで?でも、覚えていないと思うよ。
 だって、九年も経ったからなぁ。大きくなったね」
「九年前、ですか…?」
うん、と言われたから、フルスピードで記憶を掘り返す。
九年前ということは、14−9で、俺は5歳か?5歳はあまり思いだしたくない歳だな。
そのせいか、大事なこと以外覚えていない。

「な、なんかすみません」
「いいよいいよ。覚えてないよね。俺の姿も随分変わったし」
「前は、どんな感じだったん…ですか?」
そんなに変わったんだったら、前がどんなんだったか、聞いてやろうじゃないの。
このままわからない終わるのは、気持ち悪い。

「前?なんか、恥ずかしいなぁ。えっとね、金髪で。ピアスしてたな?」
「ガッツリ高校生だったもんね」
高校生、金髪、ピアス…。
今の俺じゃん。
そんなのに俺、関わったことあるか?
いや、もしかしたら…

「公園で俺、助けてもらったりしましたか?」
「お?正解!」
よかった〜。
これで間違えてたら、最悪だった。

「あの時は、ありがとうございました」
真夏、ねえやと公園に行って、夕方だったかな。
嫌な男に絡まれたところを助けてくれた、金髪の高校生。
確かに、ねえやと仲良く話していた気がする。

「ねえやの、中学の同級生とかだったんですか?」
「そうだね。俺は進学して高校行ったけど、ルリは落ちちゃったから」
「うわ〜。その話一生聞きたくないかも」
「え、ごめん」              

なんか、ホッとした。
知ってる人ってわけでもないけど、あの時助けてくれた人がねえやの旦那で。                      
ピーンポーンパーンポーン
『本日、結婚式を挙げられます新婦ルリ様、新婦様をお探しに行った新郎優希様。まもなく式が始まりますので、ホールにお集まり下さい』

放送が流れて、三人とも固まる。
「私探しにきてたの!?」
「そうだった!早く行かなきゃ!」
「は、早く行ってください!」

あ、でも一言言わなきゃいけないな。
「ねえや」
「ん、なに?」
「幸せになれよ」
俺は、しっかりねえやの、ルリさんの目を見て言った。
「うん、なるよ。ありがとう!」


・俺の気持ち
ある部活終わり、帰り道に偶然、小枝を見つけた。
え、マジ?
家の方向、同じなん?
神様、仏様、ありがとうございます!

俺は次の瞬間、前を歩く小枝に向かって叫んでいた。
「小枝!!」
小枝は一瞬ビクッと肩を振るわせ、その後ゆっくりと振り向いた。
俺は手を振りながらあいつの隣に行った。
さすがに、近すぎたか?
引かれてる気がする。

「ゆ、遊月さん」
「やっほ!」
引かれながらも、なんとか一緒に歩き始めることに成功。
「もう二年もおわっちまうなぁ」
「そ、そうだね…」
「来年は受験生かぁ。小枝はどこの高校に行くん?」
俺はグレながらも、部活も勉強も頑張ってきた。
この前、なんとなく希望している高校を提出したら、担任も行けると言ってくれた。
やっぱ、人生高校に行かなきゃやってけねえしな。

「わ、私は…まだ、決めてない、んだ」
「あ、そうなの?なんか、こういうのがいいなとか思うのはあんの?」
「まあ、一応」
「え!?じゃあ高校大体絞れんじゃん!教えてよ!」
「えっ…と」

小枝はなかなか言い出せそうになかった。
小枝、そんなに言いたくないほど低いところに行くのか?
そんなに頭悪くないだろ?

「俺、誰にも言わないからさ」
そら、誰にも言わない。
小枝のことは、俺だけの秘密にしておきたいし。

「えっと…私、高校行かないんだよね」
「えっ!?ってことは、就職ってこと?」
「う、うん」
「な、なんで高校行かないんだよ?」
高校、行かないとかある?
今時、みんな行くでしょ。

「ゆ、夢があって…」
夢?だったら高校行って、大学行った方が近道でしょ。
なんで行かないんだ?

そこまで話して、分かれ道になった。しぶしぶ俺は、小枝と逆方向に歩いた。

何が正解なんだろう。
俺はもう、わからない。

振り返ったら、俺に背を向けて歩く小枝の背中がある。
俺はその背中がとても、大きく見えた。


俺は、ゆっくりと目を開けた。
「じゃあなばあや。また来るよ」
さっき添えた、真っ赤なカーネーションが風に揺れている。     

日が沈み始めて、ばあやの墓が赤く光る。それはまるでばあやが、
「あいよ」
と返事をしているみたいに。

 完

2025/05/09 21:30

あちゃぱ ID:≫ 1.5LHN/5O97I6
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