恋する君は桜模様
#1
僕には、青春というものが足りないと思った時があった。
友達は居る。休みの日にたまに一緒に遊んだりもする。だが、彼女が居ない。まず女友達が居ないのだ。
学校では、女子と話す機会があまりない。委員会や係活動くらいでしか女子と話したことは無かった。
勿論男子たるもの、好きな人は居る。同じクラスの小野さん、小野美来さんだ。特別男子に人気があるわけでもない、と言ったら悪いが、あまり彼女を好きな人は聞いたことがなかった。それでも、好きだった。
中学に入学した時からずっと小野さんのことは好きだったが、特に付き合おうとかそういったことは考えなかった。道に生きる桜が綺麗なように、彼女を自分のものにしようとは思えなかったのだ。
小野さんとは委員会が同じ図書委員で、毎週木曜の当番だ。それでも、本の整理を任された僕と違って小野さんはカウンターの仕事。話すことは少なかった。
でもその日、たしか霜が降りていたと思う。軽音部が体育館でイベントをしていたため、図書館に来る人は少なかった。
本の整理も特にする必要もないため机で本を読んでいると、カウンターの小野さんが近づいてきた。
「......柳くん、何読んでるの?」
気まずい時間を埋めるために気まずい会話をする、悪循環のようなものだと思った。
「...ああ、銀河鉄道の夜です」
「そうなんだ......本はよく読むの?」
小野さんは僕の座る机の対角線上の席を引いて座る。特に本は持っていなかった。
「まあ、人並みには読みますね」
そんな話を、気付けば毎週していた。好きな本の話や、趣味の話、最近のニュースなどの他愛のない会話。でも、たったそれだけでも、小野さんと話せるだけでうれしかった。
そんなある日、いつも通り本棚の整理を終えて、前から読もうと思っていた本を本棚から取った。
本を手に取ってカウンター近くの席に座る。そして本を開くと、謎の便箋が挟んであった。二つに折りたたまれており、きれいな文字で[柳 菊人様]と書いている。それは紛れもなく僕の名前だった。
少し驚きつつも、便箋を広げた。
シャーペンで書いた、薄くてきれいな文字。上から読み始める。
[手紙という形ですが、伝えたいことがあります。
雪が降るのを見ているうちに、花は無くなってしまいましたね。季節と比例するように、私たちの距離もだんだんと短くなってきたように感じます。でも、自分で想いを伝えるなんてこと、私にはできそうにありません。なので、このような形にさせていただきました。
あなたを思う気持ちは、きっとこの学校の誰よりも強いと思います。あなたが手に取る本にこの手紙を挟めることが、その証拠だと言えるはずです。
そこで、もしよければ、私と付き合っていただけないでしょうか。
小野 美来]
手紙を読み終えて顔を上げると、仕事を終えた小野さんが向かいの席に座っていた。
綺麗な桜を自分の家で育てようとは思わないが、桜を毎日見ることのできる場所に住みたいとは、何度も思う。
友達は居る。休みの日にたまに一緒に遊んだりもする。だが、彼女が居ない。まず女友達が居ないのだ。
学校では、女子と話す機会があまりない。委員会や係活動くらいでしか女子と話したことは無かった。
勿論男子たるもの、好きな人は居る。同じクラスの小野さん、小野美来さんだ。特別男子に人気があるわけでもない、と言ったら悪いが、あまり彼女を好きな人は聞いたことがなかった。それでも、好きだった。
中学に入学した時からずっと小野さんのことは好きだったが、特に付き合おうとかそういったことは考えなかった。道に生きる桜が綺麗なように、彼女を自分のものにしようとは思えなかったのだ。
小野さんとは委員会が同じ図書委員で、毎週木曜の当番だ。それでも、本の整理を任された僕と違って小野さんはカウンターの仕事。話すことは少なかった。
でもその日、たしか霜が降りていたと思う。軽音部が体育館でイベントをしていたため、図書館に来る人は少なかった。
本の整理も特にする必要もないため机で本を読んでいると、カウンターの小野さんが近づいてきた。
「......柳くん、何読んでるの?」
気まずい時間を埋めるために気まずい会話をする、悪循環のようなものだと思った。
「...ああ、銀河鉄道の夜です」
「そうなんだ......本はよく読むの?」
小野さんは僕の座る机の対角線上の席を引いて座る。特に本は持っていなかった。
「まあ、人並みには読みますね」
そんな話を、気付けば毎週していた。好きな本の話や、趣味の話、最近のニュースなどの他愛のない会話。でも、たったそれだけでも、小野さんと話せるだけでうれしかった。
そんなある日、いつも通り本棚の整理を終えて、前から読もうと思っていた本を本棚から取った。
本を手に取ってカウンター近くの席に座る。そして本を開くと、謎の便箋が挟んであった。二つに折りたたまれており、きれいな文字で[柳 菊人様]と書いている。それは紛れもなく僕の名前だった。
少し驚きつつも、便箋を広げた。
シャーペンで書いた、薄くてきれいな文字。上から読み始める。
[手紙という形ですが、伝えたいことがあります。
雪が降るのを見ているうちに、花は無くなってしまいましたね。季節と比例するように、私たちの距離もだんだんと短くなってきたように感じます。でも、自分で想いを伝えるなんてこと、私にはできそうにありません。なので、このような形にさせていただきました。
あなたを思う気持ちは、きっとこの学校の誰よりも強いと思います。あなたが手に取る本にこの手紙を挟めることが、その証拠だと言えるはずです。
そこで、もしよければ、私と付き合っていただけないでしょうか。
小野 美来]
手紙を読み終えて顔を上げると、仕事を終えた小野さんが向かいの席に座っていた。
綺麗な桜を自分の家で育てようとは思わないが、桜を毎日見ることのできる場所に住みたいとは、何度も思う。
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