Kの話
#1
Kの名を聞いた。小2から通う塾でのことだった。
ここでは便宜上Kと呼んでいるが、彼は私の同級生で、いわゆる不登校。実のところ、一度も面と向かって話したことがなく、素性のよくわからない男という印象だった。
もう一昨日のことになる。冬休み明け最初の登校日の日課は、予定より早く進み、ちゃっかり昼を食べてから18時まで眠り通してしまった。寝過ぎたのか頭が痛んでいて、ぼーっとしていたと思う。
今日は学習塾がある日だから、と身体に鞭を打ち、おぼつかない両足で塾へと向かう。
講師のデスクの隣で私は課題を始めたが、とうとう頭のぐらつきが限界に達し、すぐ早退の準備を始めた。消しカスをまとめ、乱雑に課題のプリントが入れられたファイルを講師に渡そうとした、その時だった。
その頃講師はちょうどオンライン学習の指導をしており、全員の進捗を見ていたのだが、そこでKの名字が読まれたのだ。彼は田中や鈴木のように、学年に何人もいるような名字ではないから、おそらく間違いない。
名を呼ぶ声に、Kは答えた。想像していたより低い声で、はっきりと喋っていたのが以外だったから、しばらく声のするモニターの方を眺めていた。できれば、もっと彼の生態を探りたかったが、講師がファイルを持つ私に気づいたようで会話は途切れてしまった。それ以上の詮索はしていないし、それ以降彼の声は聞いていない。
こうして思い返してみても、つくづく不思議だと思う。私が他人のことを知りたがる癖があるから気づいたのか、はたまた運命的・あるいは必然的な両者の巡り合わせだったのか。私はおぼろげな声の記憶を、懸命に思い起こしながらこれを書いている。
ここでは便宜上Kと呼んでいるが、彼は私の同級生で、いわゆる不登校。実のところ、一度も面と向かって話したことがなく、素性のよくわからない男という印象だった。
もう一昨日のことになる。冬休み明け最初の登校日の日課は、予定より早く進み、ちゃっかり昼を食べてから18時まで眠り通してしまった。寝過ぎたのか頭が痛んでいて、ぼーっとしていたと思う。
今日は学習塾がある日だから、と身体に鞭を打ち、おぼつかない両足で塾へと向かう。
講師のデスクの隣で私は課題を始めたが、とうとう頭のぐらつきが限界に達し、すぐ早退の準備を始めた。消しカスをまとめ、乱雑に課題のプリントが入れられたファイルを講師に渡そうとした、その時だった。
その頃講師はちょうどオンライン学習の指導をしており、全員の進捗を見ていたのだが、そこでKの名字が読まれたのだ。彼は田中や鈴木のように、学年に何人もいるような名字ではないから、おそらく間違いない。
名を呼ぶ声に、Kは答えた。想像していたより低い声で、はっきりと喋っていたのが以外だったから、しばらく声のするモニターの方を眺めていた。できれば、もっと彼の生態を探りたかったが、講師がファイルを持つ私に気づいたようで会話は途切れてしまった。それ以上の詮索はしていないし、それ以降彼の声は聞いていない。
こうして思い返してみても、つくづく不思議だと思う。私が他人のことを知りたがる癖があるから気づいたのか、はたまた運命的・あるいは必然的な両者の巡り合わせだったのか。私はおぼろげな声の記憶を、懸命に思い起こしながらこれを書いている。
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