何があろうと立ちすくめない君らへ【OC過去短編集】
#1
白くなれなくともひなたの方へ歩く君の話。
『――槭は、勉強してればいいんだから。』
[中央寄せ]―――[漢字]造夢[/漢字][ふりがな]ぞうむ[/ふりがな] [漢字]槭[/漢字][ふりがな]かえで[/ふりがな][/中央寄せ]
[中央寄せ]↺ ¦ 11年前[/中央寄せ]
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槭「……おはよう」
『おはよう槭、今日はテスト?』
槭「…きょ、今日は違うし遊んでも…」
『駄目よ、まだあるんでしょ?テストは』
槭「………」
『家事はお兄ちゃんがやってくれるから大丈夫よ。』
槭「…あ、あはは…そうだね〜…」
三兄弟の長女。
甘えられる立場でも、頼ってもらう立場でもない。
ただの「勉強マシーン」かもしれない。
目は[漢字]なんにも[/漢字][ふりがな]何も見えない弱視[/ふりがな]で、耳だって[漢字]立ててはくれない[/漢字][ふりがな]聞こえるわけもない難聴[/ふりがな]。
そして私は今日も机とにらめっこ。
円周率、割り算、比____
私、まだ7歳なんだよなぁ…。
「かーえでちゃん!あ〜そぼ!」
『ごめんね██ちゃん、槭は今無理なんだ。』
「え〜…また〜?遊ぶって言ったよ〜!」
『…無理なものは無理なんだ。ごめんね、さようなら』
「……はぁい」
行かないで、とも言えなくて。
もう嫌だ、と言えなくて。
槭「あ、あ……██ちゃん…、!」
「それでさ〜!」
「え〜、おもしろ〜!」
槭「[小文字][小文字]………まぁ、そうだよね[/小文字][/小文字]」
人ってなんなのか。
私ってなんなのか?
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「槭さん、今回も[漢字]オールA[/漢字][ふりがな]優等生[/ふりがな]ですね。」
槭「あ、あはは……そうですね〜…」
「うわ来たよ〜、優等生がーw」
「俺らを嘲笑いに来たんですか〜!!w」
槭「なに、それ………」
「俺らみたいな馬鹿を裏で笑ってるんだろ〜w」
槭「………」
「んなやつ来る意味ねーんだよ!」
槭「………、」
嘲笑いに来たんじゃないよ。
羨ましいなぁって、想いに来たんだよ。
私には、造花しか作れないから。
『―――。』
ある日突然、姿を消した両親。
消えてしまった。
誰がやったのかなんて探ろうとも思わないけど、
タンザナイトのような髪色で、あの日見えた月よりも輝く目の人だった。
その後の記憶なんてないけれど。
―――きっとあの日から、私の造花人生は終わったんだと。
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「死んだのに、できる…?」
それは16歳の頃だった。
私は死んだはずなのに。
あの時あの瞬間――
『貴方が人生をやり直したいと願ったので。』
『これが、神が貴方に授けた[漢字]能力[/漢字][ふりがな]術[/ふりがな]です。』
「え…?」
『貴方にはまだ、やり直せる余地があります。』
「………、」
『今死んで宛もなく両親と再開するのと、十分生きて立派になってから両親と再開する。どちらがいいですか?』
「…そ、それは……」
「[太字]もっと私は生きたい…です[/太字]」
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「霊がびゅんびゅん飛んでる…」
亡霊として生きる代償として、成仏を待っている[小文字][小文字]らしい[/小文字][/小文字]霊を預かることになった。
「…何か食べたりしないのかな」
勿論無知だが、これでもあの時よりは楽しくて賑やかな生活だった。
あの時は勉強に必要なもの以外買えなかったけれど、今は好きに服を買える。
買えなかったバッグも手に入れた。
でも、金では買えないものがあるって私は分かってる。
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「槭って好きな人とかいるー?」
友達と過ごすという私の今まで取れなかった時間。
最初は少し話がぎこちなくて不審がられたけど、今はもうすっかり、[漢字]クラスのムードメーカー[/漢字][ふりがな]普通の一般人[/ふりがな]。
それが何より、嬉しくて。
「好きな人…かぁ。私そういうのあんまなくてさぁ…」
「え〜そうなの!?めっちゃ恋してそうな感じだけど!?」
「え、ほんと?そう見える?」
「うんうん!めっちゃ見える!」
何気ない会話って、こんなにも大切なんだって。
「じゃあさ〜、好きなタイプは?」
「好きなタイプ…!?…ん〜そうだなぁ…」
「優しくてかっこよくて…面白くてそばにいて飽きない人…かな」
「わっ、槭らしいね!」
「え、そうかな…?」
それでも、私にぴったりの運命の人なんて現れるはずがないと思ってた。
素直に愛なんて伝えられる勇気だって、曖昧だったから。
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「運命の人ってこういうことかなぁ…」
「どうしたの槭((」
「…ん〜なんだろう、過去の私が今の私を見たらびっくりすると思う。」
「過去の槭…」
「[太字]……私は、今すっごく幸せだから![/太字]」
「確かにさ、遊が健康でいて、ゆっくり育っていくのを見てるのも十分幸せだった。」
「でもね、ラヴとかスフェとか、いっぱい『世界』っていう個性の集合体と触れ合った。」
「…それで最後忘れちゃいけないこと。」
「[太字]私、黒兎に会ってから世界の誰よりずーっと幸せなんだよ![/太字]」
「…槭…」
「幸せの一言じゃ収まらないくらい―――」
私の笑顔は、造花みたいに消え失せない。
本当は死んでいた私の不正行為であって、白なんかじゃない、真っ黒だった。
でも私は、あの時伝えられなかった気持ちと想いを、
[太字]今、誰よりも大好きな人へ届けたい。[/太字]
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