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夏のかげぼうし

#1


あれは7つぐらいの夏
肌を刺すような日差しで蝉がうるさく鳴いていた
僕は姉と両親の4人暮らしで、元いた町では珍しい電車に揺られながら、自分の新たな生活のことを考えていた。
引越しが決まったのはその日から2週間前 両親の仕事の都合で田舎に引っ越すことになった。もともと都会暮らしなわけじゃなかったが、田舎には抵抗があった

夏には似合わない低く暗い声で目的地の名前がアナウンスされると親は荷物をまとめて僕と姉に次で降りると伝えた。電車から降りると、日差しは余計に強くなり、肌を刺激する。割れるような蝉の声が空っぽの駅に響き渡っていた。「今は慣れなくても、友達ができればいずれ慣れるさ」と言って父は僕の頭を軽く撫でた

新居はお世辞にも綺麗と言える物では無かった。姉は畳の方が好きだから文句は無さそうだったが、ところどころ天井に穴が空いていたり、障子は破れていたり、散々な状態だった また、便所に行くと姉は鼻を摘んでいた。それもそのはずで、ここの便所は汲み取り式らしい。汚れ切っていて、最近汲み取られた形跡は無かった。ここで新しい暮らしが始まると思うといい気持ちにはなれなかった。一応は夏休みの間なので学校はまだ無かった。それに前の学校の宿題もやる必要は無かったので遊び放題なのだが、姉以外に知っている子供は居ないし、公園や遊具もないので時間を持て余していた。「せっかくだから近所の様子を覗きに行こう」と姉は言って走り出して行くので僕はしぶしぶついて行くことにした。
と言っても知ってる子は一人もいない上道もわからないので仕方なく帰ろうとした。しかし来た道を忘れてしまっていたのだ僕は帰れなくなったと思い涙ぐみ、姉は焦って何故かその場でくるくる回っていた。「どうかしたの?」そこで声をかけてくれたのはどうも近所に住んでいるらしい褐色肌の少年だった。歳が近かったこともあって簡単に話しかけることができ、迷ったことを伝えた。すると土地勘があるのか僕たちの家の近くまで案内してくれた。僕と姉は安堵して、その子にお礼を言って帰った

夏休みが終わり、学校に行くことになった
僕が入ったクラスは3年2組だ クラスといっても少人数で、14.5人いるかいないかだった「東京から来ました、7歳 日向健磨です、好きなものは蜜柑です」自己紹介を終えると思ったよりウケて、「都会の子じゃん!」「そごいなー」などとちやほやされていい気分だった。
自分の席を示され、そこに座ると前の席の方に前助けてくれた少年がいるのに気がついた。あの子なら友達になれると休み時間に話しかけた。「や、やっほー」その子はすぐ気づいて「あの時の!健磨くんって言うんだ!」
と笑顔で返してくれた。蓮也と言うらしいその子とは、好きなものの話や同じく姉がいると言うことで姉の愚痴で気が合って、すぐに友達になれた。
家に帰ると、カレーが机に並べられていた。その後すぐ来た姉も友達ができたようで、その話を食卓でずっとしていた。聞く限り、都会の化粧品店で働きたいらしい、それを聞いて金髪でピアスを開けた子を想像しながらカレーを食べていた。

学校にも慣れた頃、蓮也から「この時期、蛍はいないと思われがちだけど蛍がいっぱい出る穴場があるんだよ夜、行こう、そしたら瓶に入れて持って帰ろ」と誘いを受けた「でもうちは5時までに帰ってこなきゃ怒られるんだ」そう伝えると「じゃあ俺は夜の0時にこっそり家を出て日向んちの前行くから日向もできたら好きな時にこっそり出てきて」名前を知ってて日向と呼ぶのは蓮也ぐらいだろう 危ない気もするが蛍を見たい気持ちの方が強い。行くことを約束して校門を出た。 蓮也と走って帰る途中、変なものが見えた 何か、階段みたいな でもこの近くに階段はない「こっちに変なものがある」そういって蓮也を呼んでそれがある場所に行った 辿り着くと、そこにあったのは積まれた石畳だった「こんなものあった?」蓮也は首を振る 土地勘のある蓮也が言うのだからそうだったのだろう 一応触らないで帰った。

夜、時計を見ると僕は緊張しながら布団を出た、姉を起こせば騒ぎ立てるかチクるから一番見つかってはいけない。畳が軋まないよう慎重に歩いて自室を後にし、障子を閉められた縁側の左を見ると謎の穴があった ここなら障子が音を鳴らすリスクもないと、そこを通って外に出た。近くにいるといっていたので蓮也を待つ事にした。   しかしあまりにも遅い、待ち始めてから軽く30分は経ってるだろう。それに肌寒いから来るなら早く来て欲しい。段々と蓮也にイラついて来た僕は自分から蓮也の家の近くに行く事にした しかし、全然辿り着けない。蓮也と違って方向音痴だから間違った道をなん度も進んでいたのだろう。でも流石におかしい。目印などで覚えておいた道や簡単な道が[太字]全くない[/太字]のだ
流石におかしいと思って帰ろうと踵を返すと自宅への道がどれか分からなくなっていた 先ほどから来た道を戻っているはずなのに、一向に知ってる道に辿り着かない。流石に怖くなり寒気を感じていると、ある違和感に気づいた。恐怖による悪寒ではなく、家を出た時から真夏にも関わらず[太字]寒い[/太字] 今は熱帯夜のはずだ、それだから余計眠れなかったと言うのに。
そこで、こんなに道がおかしくなったから蓮也も来れないのではないか、「蓮也ーーー!」名前を叫べば位置か方角がわかると思い叫んだ。すると思惑通り「健磨ーーー!いるのーー!?」と返事が来た「声がする方に来て‼︎」この調子でお互い探り合っているとやっと再会できた「やっと会えたよぉ、、いつも知ってる道が無くて焦ってたんだ」「僕と同じだ!」蓮也も同じ体験をしていたと思うと少しほっとした。 「それになんか寒いよな」これは聞いても安心してられなかった むしろ焦りを感じる 何せこれは悪寒ではなく実際に寒いと証明されてしまったも当然だ。その証明はこの道が異常で、元の世界かも分からないことを意味する。「帰りたい」僕がべそをかくと蓮也は背中を叩いて慰めてくれた「縁側の抜け穴から出るまで寒く無かったんだろ?もしかしたら部屋に熱がこもってただけかもしれない。俺たちが単に迷ってるだけかもよ」気休めでしかないが、蓮也の思いやりが嬉しい、それと同時に同級生にこんなふうに慰められるのが恥ずかしかった。「ところで30分も待たせてごめんな」急な謝罪に困惑しながらも僕はあせあせと彼をフォローした「い、いやそんな待ってないよ!それにあんな道になってたら仕方ないしね、とりあえず他の人も探してみようよ」蓮也は頷いて、僕と歩き始めた。
最初は無言で歩いていたが気が狂いそうになったので雑談しながら歩く事にした すると田んぼの方に白い服を着ているような人が立っていた。 もしかしたら都会みたいに農薬を使ってるからそれから身を守るための防護服を着てるのかも、と思い 話しかけようかなと思った。しかし蓮也は急にに焦って僕の口を塞ぎ、岩の裏に隠れた。 (静かにして)騒ごうとするのを察したのか蓮也は注意した。(どうしたの?)蓮也は真剣な表情で答えた(多分あれは「くねくね」だ、ばあちゃんが話してた)(くねくね?)
蓮也は「くねくね」とやらの様子を伺いながら答えた
(くねくねは遠くから見る分には問題ないんだけど近づいたらよく見たりすると頭がおかしくなって最後にはくねくねにされちゃうんだ)蓮也のばあちゃんやけに詳しいなと思っていると蓮也は切り出した(きっと昨日の祭壇だよ、あの石畳のやつ、あれのせいでこうなってるんだ。あれの下にあるものを掘り返して壊そう)僕は一瞬躊躇ったが置いていかれたくないので蓮也について行った 蓮也に「どこに行ったか分からないのにどうやって探すの?」と質問したが「気合い」と返されて終わった
まさかの気合いで蓮也は祭壇らしき物を見つけた 「さあ、この下の物を壊そう、おれ疲れちゃったから、休むわ、掘り返しててくれ」頷いて、祭壇に触ろうとすると
僕の中にあったものが全て繋がり、「なんでこんなことになったか分かったよ」と蓮也に言った「まじ?」と蓮也は疲れてるのかそれともべつの理由か、冷たかった
僕は蓮也を見つめ言い放った


[大文字]「お前誰だよ」[/大文字]

蓮也はきょとんとして「なんだ急に、まさかくねくねを見たんじゃないだろうな」と顔をしかめた
でも僕は無視して冷たい声色で聞いた「僕が縁側の抜け穴から出たのをなんで知ってるの?」一瞬間があったが蓮也は心底呆れたような顔で答えた「俺の家にも抜け穴があってそこから出たんだ、同じ体験したならそこも同じかと思ったんだ」僕はその発言で心が渦を巻くのが分かった「なんで僕が待ってたおおよその時間を知ってる?」「そりゃ0時に出るって言ったのに俺が30分も遅れちゃって、、、」「蓮也は僕に好きな時間に出ろって言った、0時に出るのは蓮也の話だ」ため息をついて呆れるフリをしてるであろうコイツに僕は続けた「なんでこの石畳が祭壇だってわかってんの?僕らはこれが何か知らない」コイツの目が一瞬曇った気がした「あと、祭壇の場所が気合いで分かるわけない。だって一昨日まで無かったんだから」いくら土地勘があっても最近現れた謎の石の場所を、知らない道が続く場所で見つけるのは無理だ「あと最後に」コイツが身構えてるように見える
「[太字]蓮也は僕を日向って呼ぶんだよ[/太字]」
ソイツははっきりこう言った「あーあ、[太字]そのまま死ねば良かったのに[/太字]」 そいつの首が曲がり顔が無くなる、体は真っ白でゆらゆら揺れてる。正真正銘、くねくねだ

ああ、そうか



あのくねくねは






蓮也だったのか





僕はその化け物をはっきりと見てしまった。近くで。
ソイツから走って逃げる僕の頭の中に耳鳴りが響いて、気づけば鼻血がでている
「日、、、向、、、」僕は気づかないままさっきの田んぼに入っていた 目の前にいたのはあのくねくねだ
耳鳴りは激しくなり血は止まらない
四肢の骨がバキバキと鳴り、激痛が走る「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛‼︎」僕は、目を覚ますと祭壇の前に立っていた
目の前には見たことのない大人、大人は呟いた「[太字]代わって[/太字]くれてありがとう」











それが7歳の僕の思い出
僕たちは行方不明として田んぼ付近は誰も寄り付かなくなった 何日?何ヶ月?何年?












[大文字]僕は今も、自分と代わってくれる人を探している[/大文字]


2025/02/07 18:16

イルカ ID:≫ 0p8.Hl188JJtM
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