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この物語は、少し暗いテーマや感情的に重い部分がありますので、そういった内容が苦手な方はご注意ください。ご自身の気分を大切にし、無理せず読んでいただければと思います。




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水槽の底で恋をした

#3

遥の日記

5月3日
今日も何も変わらない日だった。
教室はうるさくて、廊下の蛍光灯はちらついていて、
みんな誰かの話をしながら、誰の話も聞いていない。

俺は、そこにいない人間のふりが上手くなった。
誰かに期待しなくなって、痛みも麻痺していった。

それでも、時々――君が俺を見ている。

気のせいかと思ったけど、違った。

君は、ちゃんと目を合わせてきた。
俺の存在を、無視しなかった。

だから、少しだけ、怖くなった。

5月20日
君が「また明日な」って言った日、家に帰って泣いた。
理由は分からない。
ただ、誰かが“明日”をくれたことが、あまりに久しぶりで、痛かった。

俺には、明日なんて来ない気がしてたから。

でも、君は普通に笑ってそう言った。
なんでもないことのように。

それが一番、優しかった。

6月8日
母さんは今日も昼間から酔ってた。
「お前のせいで、あの人は出て行ったんだよ」って、また言ってた。

俺のせいで、俺が生まれて、
誰も幸せにならなかったらしい。

たしかに、その通りかもしれない。

6月21日
蒼太。
君と過ごす時間が、どんどん増えていって、
俺の中の“孤独”が少しずつ削れていく感覚があった。

でもね。
削れた分、今度は“怖さ”が増えていった。

人を好きになるって、失う覚悟を持つことだ。
俺には、その器がない。

7月2日
今日は、学校を抜け出した。
君が来なかった教室が、急に耐えられなくなったから。

帰り道の自販機で買ったアイスは、途中で溶けた。
溶けて、落ちて、ただのゴミになった。

俺の心も、そうだった。
溶けて、落ちて、捨てられて、誰にも拾われなかった。

君だけが、しゃがんで手を伸ばそうとした。

でも、俺はもう手を出せなかった。

7月30日
これが最後のページになる。

蒼太。
君に会えてよかった。
本当にそう思ってるよ。

君はまっすぐで、まぶしくて、
俺がこの世界で最後まで忘れられなかった“ぬくもり”だった。

でも、それでも。
それでも、君の優しさじゃ、俺の穴は塞がらなかった。

ごめんね。

君の目には、俺が“生きてる”ように見えたかもしれない。
でも、俺はとっくに死んでたんだ。
ただ、まだ歩けていただけ。

もし生まれ変わりがあるなら、次は、君と同じ世界で、
ちゃんと笑える自分でいたい。

――水の底で、待ってる。


作者メッセージ

この物語を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
遥が綴った言葉の一つひとつが、皆さまの心に何かを残してくれていたなら、それだけで救われる思いです。

“誰にも気づかれなかった声”が、たとえ物語の中であっても、確かに届いていたのだと信じたくて、
この作品を書きました。

誰かが、誰かの“見えない痛み”に気づける世界でありますように。
そして、あなたが今、少しでも優しい場所にいられますように。

月影

2025/04/13 16:43

月影 ID:≫ 5iUgeXQ3Vbsck
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