水槽の底で恋をした
一年後の、同じ日。
遥が消えた日と同じ時間、同じ海岸に立っていた。
灰色の空。潮の香り。風が髪を揺らす。
すべてが一年前と同じだった。違うのは、俺の中にぽっかりと空いた空洞だけ。
「元気そうだね、蒼太」
振り返ると、保健の先生がいた。
今はもう学校を辞めたらしい。偶然ここで会ったわけじゃない。たぶん、毎年来てるんだと思う。
「遥くんのこと、まだ引きずってる?」
「……引きずってるんじゃないです。背負ってるんです」
先生は、少しだけ目を細めた。
「それが君の選んだ罰か」
俺は答えなかった。
ただ、鞄から小さな瓶を取り出した。
ガラスの中には、色褪せた手紙。
遥が最後にくれたメッセージの写しと、自分の言葉を添えたもの。
「君がもう、苦しまない世界にいますように」
「それでも、俺は君を忘れない。忘れられない。」
瓶を波打ち際に置き、そっと離れる。
波がそれをさらっていく。音もなく、静かに。
帰り道、イヤホンから流れる音楽は、遥が好きだったバンドの曲。
歌詞の意味が、あの頃とは違って聴こえる。
「“誰も知らない深海で、僕らは手を伸ばした”――か」
ねぇ遥。
君はいま、どこにいるんだろう。
もし、ほんの一瞬だけでも、あのとき俺が君の“底”に手を伸ばせていたら――。
夜、自室の天井を見上げながら、俺はまだ考えている。
たぶん、これからもずっと。
君がいたという証拠を、俺の中で生き続けさせることが、
唯一できる“愛”の形なのかもしれない。
永遠なんて、信じてなかった。
でも今は、こう思うんだ。
遥。
君の声は、今も、俺の中に降り続いているよ。
遥が消えた日と同じ時間、同じ海岸に立っていた。
灰色の空。潮の香り。風が髪を揺らす。
すべてが一年前と同じだった。違うのは、俺の中にぽっかりと空いた空洞だけ。
「元気そうだね、蒼太」
振り返ると、保健の先生がいた。
今はもう学校を辞めたらしい。偶然ここで会ったわけじゃない。たぶん、毎年来てるんだと思う。
「遥くんのこと、まだ引きずってる?」
「……引きずってるんじゃないです。背負ってるんです」
先生は、少しだけ目を細めた。
「それが君の選んだ罰か」
俺は答えなかった。
ただ、鞄から小さな瓶を取り出した。
ガラスの中には、色褪せた手紙。
遥が最後にくれたメッセージの写しと、自分の言葉を添えたもの。
「君がもう、苦しまない世界にいますように」
「それでも、俺は君を忘れない。忘れられない。」
瓶を波打ち際に置き、そっと離れる。
波がそれをさらっていく。音もなく、静かに。
帰り道、イヤホンから流れる音楽は、遥が好きだったバンドの曲。
歌詞の意味が、あの頃とは違って聴こえる。
「“誰も知らない深海で、僕らは手を伸ばした”――か」
ねぇ遥。
君はいま、どこにいるんだろう。
もし、ほんの一瞬だけでも、あのとき俺が君の“底”に手を伸ばせていたら――。
夜、自室の天井を見上げながら、俺はまだ考えている。
たぶん、これからもずっと。
君がいたという証拠を、俺の中で生き続けさせることが、
唯一できる“愛”の形なのかもしれない。
永遠なんて、信じてなかった。
でも今は、こう思うんだ。
遥。
君の声は、今も、俺の中に降り続いているよ。