二次創作
静かにできない国々たち
俺は、もう少し普通に悲しいことを「悲しい」と言えればよかったんだ。
誰かの助けに素直になっていれば、こんなに苦労することなかったんだ。
菊が俺の元を離れていったとき、こう言われた。
「せいぜい一生懸命に生きてくださいね」
お前を殺す、そんな目のくせに、どうして薔薇のように可憐に笑うんだよ。
その時から俺は、いろんな国々と戦って死にたがった。
あんな声の言いなりにならない、という子供のような意地だった。
思えばあの日から、俺はすでに菊の虜だったのかもしれない。
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アーサー「これは降られたな…」
イギリスだったらこんなこと大した問題じゃないが、目の前の雨嵐にひどく狼狽した。
アーサー「しまった、傘持って来てねぇよ…仕方ねえ、どっかで買うか…」
俺は日本に来ていた。
…菊に会うため。
「菊だけ俺の元を離れて、知らないうちに幸せになるなんて許さない」
重すぎる、惨すぎる感情だった。
ただ、その気持ちはすぐに消えてしまう。
菊「アーサーさん!?こんなところでどうしたんですか、傘もささずに!」
背後から待ってたはずの声がする。
アーサー「菊…?」
菊「びしゃびしゃじゃないですか!貴方は顔はいいんだから、大事にしないと…」
ちょっと待て、顔はってなんだ。顔以外もいいとこあるだろ…
菊「近くに私の家がありますので、上がってください。」
アーサー「お、おい!?」
濡れた俺の腕を引っ張っていく菊の姿を見て、どうしようもなく胸が高鳴る。
さっきの気持ちは、この時点でごみ箱行きだった。
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菊「どうして傘を持ち歩かなかったんですか?」
アーサー「いや…」
菊「風邪をひいたらどうするんです、国民にも風邪が大流行するんですよ!?」
ひたすらに俺を心配しながら、頭をタオルで乾かしてくれる。
そんな姿に俺はもうどうしようもなく、壊れてしまった。
アーサー「…悪い、菊」
…本当にごめん、菊。
菊「謝ってほしいんじゃないんですよ…ただ、あなたは…」
アーサー「お前が好きだ」
菊「…はっ…?」
アーサー「俺たちが二人、相棒だと笑いあった日から、俺はずっとお前が好きだ」
菊「…」
アーサー「こんなこと間違いだってわかってる。…言わせてくれ」
アーサー「[太字]俺とずっと一緒にいてくれ![/太字]」
言葉を言い終わると、うるさい心臓の音の中に、こんな声が返ってきた。
菊「…まったく、とんでもない間違いですよ」
菊「[太字]私も貴方が好きです。アーサーさん。[/太字]」
アーサー「……!」
菊「けれど…私たち、一緒になっていいんでしょうか?」
菊「あの日から私、何も変わってない。…また貴方と離れるかもしれない。
…そのぐらいなら私は、はじめから___」
語尾を発する前に、菊の唇を奪う。
アーサー「…大丈夫だ。…今度は絶対、離れさせてやらねえから」
菊「…っ…」
アーサー「安心して間違えようぜ?」
その言葉のあと、見せた菊の笑顔は、俺が知る中で一番キレイな笑顔だった。
[水平線]
アーサー「…クソ」
早朝3時。俺はそんな夢に起こされて寝付けなくなっていた。
菊「すぅ…すぅ…」
隣で眠る菊は本当にかわいらしくて、今こうして傍にいられることが幸せだ。
アーサー「…[小文字]菊は、俺のことかっこいいって言ったからな?[/小文字]
」
言質を取ったといわんばかりに、そうつぶやく。
アーサー「俺は、[漢字]お前の一生の後悔として添い遂げるよ[/漢字][ふりがな]お前を離さない[/ふりがな]」
こうして繋がれて外れなくなってしまったからにはな。
___[明朝体]せいぜい一生懸命に生きてくださいね[/明朝体]
何度でもあの暗い笑顔がフラッシュバックしてる、最低だ。
あの日を迎えるまでのほうが俺、…
アーサー「[太字]かわいかったなあ![/太字]」
そう吐き出したその時だった。
[水平線]
菊「…今更何を言っているのですか?」
アーサー「わぁっ!?き、菊、起きてたのか…」
菊「私だって、あなたの一生の後悔として添い遂げるつもりですが?」
アーサー「…へ?」
そう返してくれる菊の言葉が、俺の心にユリノキを生やす。
心の中にいる、弱い子供はこう言った。
「おれの大切なもの…それは…」
それに俺はこう返す。
「[漢字]今無くしたそれ[/漢字][ふりがな]孤独[/ふりがな]だ」
って。
菊「雨の中、[漢字]私と間違いを犯した日[/漢字][ふりがな]あなたが告白してきた日[/ふりがな]から、もう取返しはつきません」
アーサー「…それは…」
菊「健やかなるときも病めるときも。」
菊「たとえほかの誰かと眠っていても。」
菊「お揃いの悪夢の中でずぅっといっしょです。」
アーサー「…」
アーサー「あぁ、そうだな。…ずぅっといっしょに居ような、菊」
暗い部屋。お互いの顔だけ視界に入れながら、軽いリップ音と共に、もう一度眠りについた。