二次創作
静かにできない国々たち
菊「アーサーさん、充電器を貸していただけますか?」
ホテルの薄暗い部屋の中。
目の前でベッドに座り、「おう」とぶっきらぼうに返事をする
彼の名前はアーサー・カークランド。
菊「ありがとうございます」
貴方のせいで私は今日もくたびれてすり減っている。
事の始まりは私でしたが。
[水平線]
雨上がりの夜中、二人でお酒を飲み交わしていた時のこと。
アーサー「…おい、菊。…そろそろ終電に間に合わなくならないか?」
彼は紳士だから、酒が入っていても私を気遣ってくれる。
…これから、私はあなたにすべてを委ね甘えるつもりであるのに。
菊「…貴方は終電までに、私に帰ってほしいと?」
アーサー「!…い、いや、そういうわけじゃあ…」
切り込んだ言葉に、わかりやすく動揺する目の前の彼。
菊「昨日は素直に帰ったのですから、今日は終電を見逃してはくれませんか?」
ほんの少し悪戯な笑みを加えてそう言うと、視線を逸らしてエールを一口流しながら、
アーサー「…仕方ねぇな」
とだけ返してくれました。
[水平線]
そうして今日も、少し前のデートだってこうして私のせいでアーサーさんは帰れなくなりました。
申し訳ないとは思っています。
…けれど。
消耗戦に持ち込んで繋がっていられるこの淡い夜の時間がどうしようもなく好きなのです。
だって、あの日。…[漢字][太字]いつだったか二人が違えたとき[/太字][/漢字][ふりがな]8月17日[/ふりがな]。
お互いの足を引っ張りあうようになったその日のことを思い出したくなくて。
すべて消してほしくて、沈めてほしくて。
菊「…[小文字]恨むなら、今こうして恋仲であることを、恨んでください[/小文字]」
アーサー「…?」
結ばれてしまった以上、私たちはずぅっといっしょです。
[水平線]
目の前で俺の充電コードをつないだスマホをいじる彼は本田菊。
その小さくつぶやいた声は残念ながら俺には聞こえなかった。
アーサー(一体何を…?)
ぼんやりと眠気に支配された頭でそんなことを考える。
それにしたって今日の菊はかなり甘えん坊だったな。
思い出して少し顔を熱くする。振り払えば少し楽になった。
アーサー「幸せだ…」
こうして菊に甘えてもらえること。
いけないことだが、独占欲と支配欲が同時に満たされて気持ちがいい。
誰にも兄だなんて思われなかったから。
もし人間みたいに学校に通っていたとしても、参観日には誰も来てくれないタイプだ。
散々皮肉と自虐を繰り返して、昼の街を嘲笑い飛ばす俺だが、
菊にはどうにも素直になってしまう。
それはきっとそうやって守ってきた大英帝国としての俺がめちゃくちゃになって、
いつだって死ねると思っていたあの日の俺がいなくなって、
誰かに寄り添うことができるようになった証拠だと…
そうだったらいいなと思う。
アーサー「…なぁ、菊。」
菊「はい、なんでしょう?」
アーサー「俺ってさ、かっこいいかな?」
菊「いきなりなんです?」
アーサー「や…ちょっと不安になったっつーか。髭によくからかわれるし。
…べ、別にお前にどう思われてるか気になったわけじゃねーから!俺のためだからなっ…」
口をついてやっと出た言葉にもそうして意地悪が混じってしまう。
菊「…かっこいいと思いますけど。」
アーサー「…っ」
菊「黙っていれば」
アーサー「一言余計だ!」
[水平線]
「こうして過ごした日々が」
[右寄せ]「ささやかな幸せが」[/右寄せ]
[中央寄せ]「かけがえのない[漢字]思い出[/漢字][ふりがな]トラウマ[/ふりがな]になっていればいいな」[/中央寄せ]
そんなことを思いながら二人眠りにつく。
[中央寄せ]「離れ離れなんて誰かが異常でも起こさなきゃなってやるものか。」[/中央寄せ]
[水平線]
貴方の一生の後悔として添い遂げます。
「大切なものってなんだろう?」
もし貴方が私を失うとき、こんなことを聞いてきたとしたら。
「今亡くしたそれではないですか?」
と精霊となって笑いたい。
怖いでしょうか?
でも仕方がないんですよ。
私が[漢字]間違いを犯した[/漢字][ふりがな]手を切った[/ふりがな]その時から
もう取り返しはつかなくなっていたんですから。
菊「アーサーさん。」
二人の微睡を起こしてまで、
私はもう一度こう言っておきたかった。
健やかなる時も、病める時も。
決して私の元を離れたことを忘れずに…
菊「[太字]ずぅっといっしょですよ。[/太字]」