止まった秒針と雨
[中央寄せ]雨楼side[/中央寄せ]
雨楼「はぁ…ここどこだっ……?」
宛先なしに走ってしまった故に、知らないとこに来てしまった。
…自業自得というのはこういうことだね。
雨楼「……どうしよ、これから…。」
晴れ渡る青空にぽつりと呟いて消えていく声。
もうここで、私の命は尽きるんじゃないか。
私はもう、今が何時なのか、何年なのか、ここはどこなのか。
そんな事もわからない。
雨楼「なんかお店……っ」
息が荒い中ずっと彷徨う私に見向く人なんていない。
…それどころか、人気もしないけどさ。
[小文字]カラン カラン[/小文字]
[小文字]「いらっしゃいませー!」[/小文字]
…誰、かな…?
いらっしゃいませ、ってことはお店…!?
雨楼「引き止めてくれるかも…」
ほぼない確率にすべてを乗せて、走った。
声の方へ。
雨楼「ぜぇっ、…はぁ………っ、その!!」
「ひぇ!?ど、どちらさん…??」
困ったな、と言わんばかりに首を傾げる。
雨楼「そ、その……入れてください…っ」
「お客さん…ではないか…?うん、分かったから入りな。」
白い髪をしたウルフカットの男性は赤く光った優しい瞳で私を見つめた。
ぬくもりのある人だなぁ、と思いながらゆっくり中へ入る。
この日は北風がビュービュー吹く荒れた日だった。
それにもかかわらずここは暖かい。
…今までの疲れが風のように抜けていく。
「…で、どうしたんだ…?」
体つきを見ると、年はさほど変わらなそうな気がした。
ここに住んでいる人だろうか。
雨楼「その…家から抜け出しちゃって…」
「…そっか。この世ではよくあることだしなぁ……」
「…てことは、家、ないんだな?」
雨楼「はい…っ」
「…んー、だったら2階使いな。空いてる部屋好きに入って」
雨楼「え、そんな…ここってお店ですよね……?」
「ああ、そうだよ。別に2階なら構わない。それに他に行く宛もないんだろう?」
雨楼「……はい…、」
「心配するな。君の名前は?」
雨楼「…雨楼、です」
旭「雨楼…いい名前。あ、俺[漢字]旭[/漢字][ふりがな]あさひ[/ふりがな]。よろしくな!」
雨楼「よろしく…お願いします…!」
旭「おう!」
旭「あっ、やべ…すみませんお客様ー!!!」
慌ただしい人…
そういう人っていいなぁ、そう思う自分がいる。
旭「あざっしたー!また来てくださいねー」
元気に手を振る。
旭「…そうだ、雨楼。行く前に少し待ってくれないか?」
階段を上ろうとした時、低めの特徴的な声で止められる。
旭「これ」
小さい箱のようなものを手渡される。
黄色のぴかぴかした…宝石…?
雨楼「…え…?」
旭「トパーズ。ささやかな応援とでも受け取って」
トパー…ズ?
雨楼「あ、ありがとう…ございます…?」
旭「…おう。じゃあな。」
笑顔を私に向けた後、店のカウンターに向かっていった。
雨楼「……」
この[漢字]宝石[/漢字][ふりがな]トパーズ[/ふりがな]と旭さん。
どちらも同じくらい、光り輝いていた。