新しい花が咲く頃に
『....んと、本題だけど、なんで私を呼んだの?』
首を傾げて、優しい声色で晴誠くんに問う。
晴誠くんは少し言いにくそうに、あー......、と口を開く。
お前の話したら、と気まずいように話す
「お前に会いたいって奴が、居て.......な」
『うぇ、』
驚愕して、情けない声が出る。
私の話してたって、会いたいって......。私の話をしてくれていた嬉しさと、不安。放課後に誘った理由の期待も、儚く散ってしまった
ザッ.....と、木が音を立てる
春風仰ぐ、涼しげな空気。ひまわりのような暖かさが感じられる
熱く冷たい視線が、ふわりと優しく包み込まれる
「遅くなっちゃった......!はーくんっ」
香水のツンとした匂いが、乙女のピンクでかき消されていく
耳に入ってくるのは可愛らしい高い声と、波乱の音色
「おー、大丈夫。隣が、お前が会いたいって言ってた、"恵林寺白藍"な」
「わっ、こんにちは.....!ごめんね?急に」
『......あ、いえ.....いいですよ....?』
眉を下げながら少し苦笑するその子に、チワワを重ねたくなる
ペールピンクの、ゆる巻きハーフツイン。ふわふわしたその髪を思わず、撫でたくなってしまう
「私は、
[漢字]朱音陽莉[/漢字][ふりがな]あかねひまり[/ふりがな]っ!よろしくね?」
『あ、はい。恵林寺白藍です......よろしくね....?』
綺麗なピンク色をした瞳を細め、可愛らしく笑う朱音陽莉ちゃん。
首を傾けた拍子に、ふわりと揺れる髪の毛は、周りに柔らかい花弁が舞ってしまいそうだ
「そっかぁ.......君が白藍ちゃん....」
なんだか、素敵だな.......。と呟いた朱音ちゃんに、世の中にはこんなに可愛い子がいるんだと、実感する
私は眉を下げて「朱音ちゃんのが素敵だよ?.....私が見てきた中で一番」と、微苦笑しながら言う
「.........っそうだ!白藍ちゃんにね、渡したいものがあるの!」
『え?』
私に?と、驚きながらも聞く。
朱音ちゃんが、「はーくんから聞いた時、仲良くしたいなって、思って......」と、白とパステルピンクが基調の鞄から、小さな白を取り出す
「はい!白藍ちゃんが迷惑じゃなければ、受け取ってほしいな.....?」
『.....あ、ありがとう....!朱音ちゃん』
カチン、と鞄についた金属から鳴って出てきた白は、小さなイルカのキーホルダーだった。
ううん、白藍ちゃんが喜ぶなら良かったんだ!と、喜びはにかむ姿を見せる
それに続けて、少し不貞腐れた朱音ちゃんが「......でもっ!」と言う
「"朱音ちゃん"じゃなくて、"陽莉ちゃん"って呼んで!」
『.......っえ、』
頬を膨らませてこちらを見る姿に、リスを重ねる。小動物のようでとても愛らしい
私が少々戸惑いながらも、「ひ、まりちゃん......?」と弱々しく告げる
それに陽莉ちゃんは、ぱっと表情が明るくなり「えへへ、はーいっ!」と、元気よく返事をした
その瞬間、陽莉ちゃんの周りには、セキチクの花がぱっと咲いたような気がした
「あのねっ、そのキーホルダー、"私達"とお揃いなんだよ!」
『えっ、そうなの?』
うんっ、と微笑む陽莉ちゃん。
はるが、おいっ、と少し会話に入ってくる。はるも、持ってるんだよ、ね.....?
"お揃い"という懐かしい青春を感じて、胸が暖かくなる
陽莉ちゃんはそんな私を見てか、一瞬笑みを深くして、「実はそれ」と続ける
「はーくんと私の、"水族館デート"のお土産なんだっ!」
浮かれた私に天罰が降るように、セキチクの花弁が突き刺さった
(本当はあり得なかった青春に期待を)
セキチク…「あなたが嫌いです」「才色兼備」「いつも愛して」「女性の美」