前代未聞の最強総長、今日も一途に執心中。
「こ、ここが星ノ宮学園っ.....!」
家の窓からでも、星ノ宮学園の頂上の部分が見えていたから、一体どれくらい大きい学園なんだろうとは思ったけど...す、すっごく大きい....!
右も左も一面緑色の芝生で埋め尽くされたガーデンに、白く塗られた塀。そして何より、この校舎。
塀と同じく真っ白に染められたその校舎は、柱の一つひとつの細部までもを丁寧に制作したのがじんじんと伝わってくる程の大きさと美しさを放っていた。
「月、理事長とは待ち合わせとかはしてるのか?」
唖然としているわたしをおいていくように、お兄ちゃんはそう言った。
待ち合わせ場所...昨日お母さんから言われた待ち合わせ場所を忘れないように、心のなかでずっと連呼していたから覚えている。
「うん!正門前集合って言ってたよ....!」
そう言って、わたしは微笑んで見せた。
「ちっ.......」
すると、翔ちゃんが小さく舌打ちをしたのが聞こえた。
ど、どうしたんだろう.....?なにか気に障るような事言っちゃったかな....
何に対してかは全くわからないけど、怒らせてしまったと思い、わたしは「翔ちゃん、ご、ごめんね..!」と言った。
けれど翔ちゃんはぎょっとした目でわたしを見つめてくる。
「ゆ、ゆえねえ?どうして謝るの...!」
「わ、わたしなにか怒らせちゃったかなと思って..」
またまた翔ちゃんはびっくり仰天とでも言わんばかりに、目を大きく見開いた。
「ゆえねえどうしたの、俺別に怒ってなんかないよ。ただ.....」
「.......ただ?」
なんだろうっ.....
「......んーん、なんもない。」
「ええっ..」
そ、そこまで言われたらなにか気になるよ...!
色々聞きたいことはたくさんあったけれど、わたしは気にしないフリをして、理事長先生を翔ちゃんとお兄ちゃんと一緒に待っていた。
[水平線]
正門前にしばらく居ると、気がついたことがいくつかある。
ひとつは、お兄ちゃんは学園内と家での態度が全くと言っていいほどに違うという事。
周りを警戒しているのか、目がずうっとぎらぎら光っている。でも、わたしが「お兄ちゃん?」と話しかけると、さっきまでのものが嘘のようにいつもの笑みを浮かべてくれるという事がわかった。なんだか、わたしに気を許してくれているみたいで嬉しいな.....
そしてもうひとつは、体格や威勢の良さそうな一部の人たちがこぞってどこかへ向かっているという事。
普通なら、正門に入ってそのまま校舎内へ直行するはずなんだけど、その人たちは右に曲がっていった。
目的も場所もわからないけれど、一部の人たちは別の方向へと足を運んでいた。
教室が別校舎とか部活とか色々考えたけれど、別校舎があるような感じには見えないし、部活も朝練にしては遅すぎる。
疑問がもんもんと心の中に渦巻いている中、声がかかった。
「おい。」
驚いて戦闘態勢に入ってしまったけれど、振り向いた先に居たのは...
「編入生ってのは、お前の事か。」
すっごく整ったお顔の、男子生徒の方だった。
吸い込まれそうな薄い水色の瞳は、わたしたちを凝視していた。と、とってもかっこいい人だ.....!
.......あれ、そういえば理事長先生はこないのかな?お母さんの話では、理事長先生が案内してくれるって聞いたけど.....
「理事長が体調不良で今日来れなくなったそうだ。かわりに俺が代役を任された。」
そ、そっか...体調不良か...!それは安静にしていたほしいな。
元気になったら、一度わたしからも自己紹介をさせてほしい。
そんな事をひとり考えていると、その男の子が驚いたように声を上げた。
「....お前、もしかして[大文字][漢字]Ita[/漢字][ふりがな]イータ[/ふりがな][/大文字]のそうちょ...........」
「お前、それ以上事を口にすんじゃねえ」
その人がなにか言いかけた時、お兄ちゃんがその言葉を遮った。
「お前こそ、[大文字][漢字]sirius[/漢字][ふりがな]シリウス[/ふりがな][/大文字]の.......」
「初見殺しをするつもりなのかお前は。」
さっきはこの人の言葉をお兄ちゃんが遮って、今度はお兄ちゃんの言葉をこの人が遮った。
な、なにがどうなってるの......?
ふたりとも、何かを言おうとしていたみたいだけど....
この人がさっき言った、『初見殺し』。
その"なにか"をわたしに聞かれたり、見られたりするのがまずいって事なのかな......?どちらにせよ、お兄ちゃんもこの人もなにか隠している事だけは間違いない。
「......とにかく、俺は校舎内案内っていう使命を背負ってるからな。お前らたちは先に行け。」
「......翔、月が教室に着くまでそばにいろ。俺は......行ってくる。」
お兄ちゃんはそう言った。
けど、2人に気を使わせてしまっているみたいで少し申し訳ない気持ちが勝たないこともないかも...
「お兄ちゃん、わたしは大丈夫だから、2人とも先に行ってて..!」
わたしはそう言って、遠慮する素振りを見せた。
もう着席時間過ぎてるんじゃないかなっ.....
なんだか2人にもこの人にも、申し訳ないっ.....
「そ、そういうわけには......」
「.........お兄ちゃん、お願い....!」
お兄ちゃんは、わたしのお願いを断れない事を知っている。
昔から、よくお兄ちゃんにはたくさんのお願いを叶えてもらったなあ....
「......きょ、今日だけだぞ.....」
お兄ちゃんは降参するようにわたしたちから一歩後退りをした。
そして翔ちゃんも、お兄ちゃんについて行っている。
よかった.......
これ以上、2人に迷惑をかけるのはわたしが耐えられない。
___________2人が向かったのは校舎ではなく、広いガーデンの右側へと走り去っていった事を、月はまだ知らなかった。
[水平線]
「名を教えてくれないか。俺は、[漢字]赤美[/漢字][ふりがな]あかみ[/ふりがな][漢字]仁[/漢字][ふりがな]じん[/ふりがな]だ、中等部の3年。」
理事長室が閉まっている為、仕方なく学園長室へ向かっている途中。
赤美...せんぱいがそう言った。
と、年上の人だ....!ちゃんと、失礼がないようにしなきゃっ....
「え、えっと....はじめまして、[漢字]星野[/漢字][ふりがな]ほしの[/ふりがな][漢字]月[/漢字][ふりがな]ゆえ[/ふりがな]といいます....!中等部の1年に編入することになりました。」
赤美せんぱいも学年を名乗ってくれたから、わたしもちゃっかり学年まで名乗ってみる。
すると、赤美せんぱいは驚いたのか、ぶはっと吹き出した。
「そ、その容姿で一年なのか...!?」
「えっ.......?」
一体なんの事を言っているのか理解できず、謎は深まるばかり。
容姿....って..
わ、わたし、そんなに幼く見えるのかな....これでも一応中学生なのに....
「すまない、あまりにも同学年か中等部の2年くらいの相当だったから....前の学校は、どの学校だったんだ?」
赤美せんぱいはそう言った。お、大人っぽく見られたって事なのかな...?せんぱいに大人っぽく見られたと言われて、自分も大人に近づけているんだと少し緊張が走った。
そして、わたしはそれに笑顔で答えた。
「轟中学です....!」
「.........は?」
赤美せんぱいは、開いた口が塞がらないをそのまま再現したのかっていうくらい、驚いていた。
ど、どうしたんだろう...?
「.........とどろき...って、あの轟、か...?」
なぜかそう再確認するせんぱいが、不思議になった。
「轟中はひとつしかないですよ.....!」
一層せんぱいが目を見開くのを、わたしはただ見つめるしかできなかった。
side 翔
「ちっ.......」
理事長、空気も読めねえのか...?
こんなにかわいいゆえねえを、正門前に野放しにしておくだと..?そんな事、万が一にでもさせてやらない。
俺と兄さんが、必ず何があっても守ってみせるんだから。
すると、ゆえねえがこちらを不安そうに見つめているのがわかった。
「翔ちゃん、ご、ごめんね..!」
ゆえねえはそう言って、顔の前で手を合わせた。
........え?何が....?
どうした謝るのだと聞いたところ、「わ、わたしなにか怒らせちゃったかなと思って..」とゆえねえは言った。
.....あ、もしかして、舌打ちか..?
...そんな事で、俺を怒らせたのかと思ったのか....
相変わらず、ゆえねえは可愛いことしかできないようだ。
「ゆえねえどうしたの、俺別に怒ってなんかないよ。ただ.....」
俺はそこまで言いかけて、はっとした。
........俺、今何言おうとしてたんだよ.....
「.......ただ?」
くりっとした、淡いピンク色の瞳がこちらを見つめてくる。
........う...なんでゆえねえはこんなにかわいんだよ..
「......んーん、なんもない。」
俺は、目をそらしてそう言うしかできなかった。
ゆえねえは不満そうに「ええっ..」と言ってそっぽを向いてしまったが、それすらも可愛いと思ってしまう。
........はあ、俺のねーちゃん、超絶かわいい.....
________俺がさっき、言いかけた言葉。
"ただ、他のやつにかわいい俺のゆえねえを見せたくなかっただけ。"
その言葉が言える日も、いつかやってくるといいな......
家の窓からでも、星ノ宮学園の頂上の部分が見えていたから、一体どれくらい大きい学園なんだろうとは思ったけど...す、すっごく大きい....!
右も左も一面緑色の芝生で埋め尽くされたガーデンに、白く塗られた塀。そして何より、この校舎。
塀と同じく真っ白に染められたその校舎は、柱の一つひとつの細部までもを丁寧に制作したのがじんじんと伝わってくる程の大きさと美しさを放っていた。
「月、理事長とは待ち合わせとかはしてるのか?」
唖然としているわたしをおいていくように、お兄ちゃんはそう言った。
待ち合わせ場所...昨日お母さんから言われた待ち合わせ場所を忘れないように、心のなかでずっと連呼していたから覚えている。
「うん!正門前集合って言ってたよ....!」
そう言って、わたしは微笑んで見せた。
「ちっ.......」
すると、翔ちゃんが小さく舌打ちをしたのが聞こえた。
ど、どうしたんだろう.....?なにか気に障るような事言っちゃったかな....
何に対してかは全くわからないけど、怒らせてしまったと思い、わたしは「翔ちゃん、ご、ごめんね..!」と言った。
けれど翔ちゃんはぎょっとした目でわたしを見つめてくる。
「ゆ、ゆえねえ?どうして謝るの...!」
「わ、わたしなにか怒らせちゃったかなと思って..」
またまた翔ちゃんはびっくり仰天とでも言わんばかりに、目を大きく見開いた。
「ゆえねえどうしたの、俺別に怒ってなんかないよ。ただ.....」
「.......ただ?」
なんだろうっ.....
「......んーん、なんもない。」
「ええっ..」
そ、そこまで言われたらなにか気になるよ...!
色々聞きたいことはたくさんあったけれど、わたしは気にしないフリをして、理事長先生を翔ちゃんとお兄ちゃんと一緒に待っていた。
[水平線]
正門前にしばらく居ると、気がついたことがいくつかある。
ひとつは、お兄ちゃんは学園内と家での態度が全くと言っていいほどに違うという事。
周りを警戒しているのか、目がずうっとぎらぎら光っている。でも、わたしが「お兄ちゃん?」と話しかけると、さっきまでのものが嘘のようにいつもの笑みを浮かべてくれるという事がわかった。なんだか、わたしに気を許してくれているみたいで嬉しいな.....
そしてもうひとつは、体格や威勢の良さそうな一部の人たちがこぞってどこかへ向かっているという事。
普通なら、正門に入ってそのまま校舎内へ直行するはずなんだけど、その人たちは右に曲がっていった。
目的も場所もわからないけれど、一部の人たちは別の方向へと足を運んでいた。
教室が別校舎とか部活とか色々考えたけれど、別校舎があるような感じには見えないし、部活も朝練にしては遅すぎる。
疑問がもんもんと心の中に渦巻いている中、声がかかった。
「おい。」
驚いて戦闘態勢に入ってしまったけれど、振り向いた先に居たのは...
「編入生ってのは、お前の事か。」
すっごく整ったお顔の、男子生徒の方だった。
吸い込まれそうな薄い水色の瞳は、わたしたちを凝視していた。と、とってもかっこいい人だ.....!
.......あれ、そういえば理事長先生はこないのかな?お母さんの話では、理事長先生が案内してくれるって聞いたけど.....
「理事長が体調不良で今日来れなくなったそうだ。かわりに俺が代役を任された。」
そ、そっか...体調不良か...!それは安静にしていたほしいな。
元気になったら、一度わたしからも自己紹介をさせてほしい。
そんな事をひとり考えていると、その男の子が驚いたように声を上げた。
「....お前、もしかして[大文字][漢字]Ita[/漢字][ふりがな]イータ[/ふりがな][/大文字]のそうちょ...........」
「お前、それ以上事を口にすんじゃねえ」
その人がなにか言いかけた時、お兄ちゃんがその言葉を遮った。
「お前こそ、[大文字][漢字]sirius[/漢字][ふりがな]シリウス[/ふりがな][/大文字]の.......」
「初見殺しをするつもりなのかお前は。」
さっきはこの人の言葉をお兄ちゃんが遮って、今度はお兄ちゃんの言葉をこの人が遮った。
な、なにがどうなってるの......?
ふたりとも、何かを言おうとしていたみたいだけど....
この人がさっき言った、『初見殺し』。
その"なにか"をわたしに聞かれたり、見られたりするのがまずいって事なのかな......?どちらにせよ、お兄ちゃんもこの人もなにか隠している事だけは間違いない。
「......とにかく、俺は校舎内案内っていう使命を背負ってるからな。お前らたちは先に行け。」
「......翔、月が教室に着くまでそばにいろ。俺は......行ってくる。」
お兄ちゃんはそう言った。
けど、2人に気を使わせてしまっているみたいで少し申し訳ない気持ちが勝たないこともないかも...
「お兄ちゃん、わたしは大丈夫だから、2人とも先に行ってて..!」
わたしはそう言って、遠慮する素振りを見せた。
もう着席時間過ぎてるんじゃないかなっ.....
なんだか2人にもこの人にも、申し訳ないっ.....
「そ、そういうわけには......」
「.........お兄ちゃん、お願い....!」
お兄ちゃんは、わたしのお願いを断れない事を知っている。
昔から、よくお兄ちゃんにはたくさんのお願いを叶えてもらったなあ....
「......きょ、今日だけだぞ.....」
お兄ちゃんは降参するようにわたしたちから一歩後退りをした。
そして翔ちゃんも、お兄ちゃんについて行っている。
よかった.......
これ以上、2人に迷惑をかけるのはわたしが耐えられない。
___________2人が向かったのは校舎ではなく、広いガーデンの右側へと走り去っていった事を、月はまだ知らなかった。
[水平線]
「名を教えてくれないか。俺は、[漢字]赤美[/漢字][ふりがな]あかみ[/ふりがな][漢字]仁[/漢字][ふりがな]じん[/ふりがな]だ、中等部の3年。」
理事長室が閉まっている為、仕方なく学園長室へ向かっている途中。
赤美...せんぱいがそう言った。
と、年上の人だ....!ちゃんと、失礼がないようにしなきゃっ....
「え、えっと....はじめまして、[漢字]星野[/漢字][ふりがな]ほしの[/ふりがな][漢字]月[/漢字][ふりがな]ゆえ[/ふりがな]といいます....!中等部の1年に編入することになりました。」
赤美せんぱいも学年を名乗ってくれたから、わたしもちゃっかり学年まで名乗ってみる。
すると、赤美せんぱいは驚いたのか、ぶはっと吹き出した。
「そ、その容姿で一年なのか...!?」
「えっ.......?」
一体なんの事を言っているのか理解できず、謎は深まるばかり。
容姿....って..
わ、わたし、そんなに幼く見えるのかな....これでも一応中学生なのに....
「すまない、あまりにも同学年か中等部の2年くらいの相当だったから....前の学校は、どの学校だったんだ?」
赤美せんぱいはそう言った。お、大人っぽく見られたって事なのかな...?せんぱいに大人っぽく見られたと言われて、自分も大人に近づけているんだと少し緊張が走った。
そして、わたしはそれに笑顔で答えた。
「轟中学です....!」
「.........は?」
赤美せんぱいは、開いた口が塞がらないをそのまま再現したのかっていうくらい、驚いていた。
ど、どうしたんだろう...?
「.........とどろき...って、あの轟、か...?」
なぜかそう再確認するせんぱいが、不思議になった。
「轟中はひとつしかないですよ.....!」
一層せんぱいが目を見開くのを、わたしはただ見つめるしかできなかった。
side 翔
「ちっ.......」
理事長、空気も読めねえのか...?
こんなにかわいいゆえねえを、正門前に野放しにしておくだと..?そんな事、万が一にでもさせてやらない。
俺と兄さんが、必ず何があっても守ってみせるんだから。
すると、ゆえねえがこちらを不安そうに見つめているのがわかった。
「翔ちゃん、ご、ごめんね..!」
ゆえねえはそう言って、顔の前で手を合わせた。
........え?何が....?
どうした謝るのだと聞いたところ、「わ、わたしなにか怒らせちゃったかなと思って..」とゆえねえは言った。
.....あ、もしかして、舌打ちか..?
...そんな事で、俺を怒らせたのかと思ったのか....
相変わらず、ゆえねえは可愛いことしかできないようだ。
「ゆえねえどうしたの、俺別に怒ってなんかないよ。ただ.....」
俺はそこまで言いかけて、はっとした。
........俺、今何言おうとしてたんだよ.....
「.......ただ?」
くりっとした、淡いピンク色の瞳がこちらを見つめてくる。
........う...なんでゆえねえはこんなにかわいんだよ..
「......んーん、なんもない。」
俺は、目をそらしてそう言うしかできなかった。
ゆえねえは不満そうに「ええっ..」と言ってそっぽを向いてしまったが、それすらも可愛いと思ってしまう。
........はあ、俺のねーちゃん、超絶かわいい.....
________俺がさっき、言いかけた言葉。
"ただ、他のやつにかわいい俺のゆえねえを見せたくなかっただけ。"
その言葉が言える日も、いつかやってくるといいな......