お隣の花屋さんと僕
榎本さん家に入って最初に感じたのは、ふわりと鼻腔を擽る花の香りだった。
それと同時に、僕自身から臭う雨の匂いにも気がついた。
「ッ、榎本さん、すみません、一度着替えてきてもよろしいでしょうか?」
「え?そのままで大丈夫だよ?全然気にしないから。ニコッ」
まさかの其の儘でOKだった。
流石に濡れたままだと風邪を引くのかと思ったのか、榎本さんがバスタオルを持ってきてくれた。
「有難う御座います...。」
僕ははたと我に返る。
一度家に戻ったあとに来たほうが迷惑ではなかったのではないだろうか。
『家に帰らなくて大丈夫だよ』って言わせているのではないか。
そう思うと不躾すぎて、羞恥心が湧いてくる。
バスタオルに顔を填めていると、心配そうに榎本さんが覗いてきた。
「大丈夫?」
さらりと流れるつるつるの黒髪。
ぱっちりと開いた二重。黒い瞳。
それでもってきょとんとした顔。
その綺麗な横顔に、男でありながら惚れてしまいそうだ。
こんなんだったら、女の子なんてイチコロだろうなぁ
そんな場違いなことを考えつつ、
「大丈夫です。」
と答えた。
「そうか。良かった。」
榎本さんはそういって微笑んだ。
僕は軽く髪などを拭い、榎本さんへバスタオルを返す。
「有難う御座いました。」
「いいえ〜」
それにしても、すごく凝っている。
周りを見渡せば、黒を基調とした壁や床、家具で覆われている。
玄関ドアは硝子のドアで、その正面には、カウンターと、その後ろに沢山の花々がポットに入れられ、縦に、横にへと伸びている。
「すごい...」
「でしょ?僕の自慢の花屋になりそうだよ。」
来週からオープンだから、君が初めてのお客さんだよ。と榎本さんは言った。
「そうそう、呼んだのには理由があるんだ。」
「何ですか?」
「じゃーん!」
いつの間にか取ってきていたのか、その手には大きな花束が握られていた。
僕は目を剥き、首を横にぶんぶんと振った。
「何でですか!? 受け取れませんよ!?」
「まあまあそう早まらずに。これは[漢字]お隣さん[/漢字][ふりがな]、、、、[/ふりがな]からの引っ越しの手土産だよ。」
榎本さんは、悪戯をする子どものように目を緩ませて言った。
「は、はぁ、」
「まあ、良いから受け取って。 親御さんに渡していてね。」
榎本えもとさんは僕に花束と手紙を預け、窓の外を見た。
「あ、止んできたんじゃない?」
「...本当だ。」
窓の外にはさっきの雨など微塵も感じられないような快晴が広がっていた。
「もう帰っても大丈夫そうだね。」
そして思い出した。
濡れたままでいることを。
「ハ、ハイ、帰らさせていただきますッ!」
「んふふ、来てくれてありがとう。また来てくださいね。」
榎本さんはそう言って僕を送り出してくれた。
(次回へ)
それと同時に、僕自身から臭う雨の匂いにも気がついた。
「ッ、榎本さん、すみません、一度着替えてきてもよろしいでしょうか?」
「え?そのままで大丈夫だよ?全然気にしないから。ニコッ」
まさかの其の儘でOKだった。
流石に濡れたままだと風邪を引くのかと思ったのか、榎本さんがバスタオルを持ってきてくれた。
「有難う御座います...。」
僕ははたと我に返る。
一度家に戻ったあとに来たほうが迷惑ではなかったのではないだろうか。
『家に帰らなくて大丈夫だよ』って言わせているのではないか。
そう思うと不躾すぎて、羞恥心が湧いてくる。
バスタオルに顔を填めていると、心配そうに榎本さんが覗いてきた。
「大丈夫?」
さらりと流れるつるつるの黒髪。
ぱっちりと開いた二重。黒い瞳。
それでもってきょとんとした顔。
その綺麗な横顔に、男でありながら惚れてしまいそうだ。
こんなんだったら、女の子なんてイチコロだろうなぁ
そんな場違いなことを考えつつ、
「大丈夫です。」
と答えた。
「そうか。良かった。」
榎本さんはそういって微笑んだ。
僕は軽く髪などを拭い、榎本さんへバスタオルを返す。
「有難う御座いました。」
「いいえ〜」
それにしても、すごく凝っている。
周りを見渡せば、黒を基調とした壁や床、家具で覆われている。
玄関ドアは硝子のドアで、その正面には、カウンターと、その後ろに沢山の花々がポットに入れられ、縦に、横にへと伸びている。
「すごい...」
「でしょ?僕の自慢の花屋になりそうだよ。」
来週からオープンだから、君が初めてのお客さんだよ。と榎本さんは言った。
「そうそう、呼んだのには理由があるんだ。」
「何ですか?」
「じゃーん!」
いつの間にか取ってきていたのか、その手には大きな花束が握られていた。
僕は目を剥き、首を横にぶんぶんと振った。
「何でですか!? 受け取れませんよ!?」
「まあまあそう早まらずに。これは[漢字]お隣さん[/漢字][ふりがな]、、、、[/ふりがな]からの引っ越しの手土産だよ。」
榎本さんは、悪戯をする子どものように目を緩ませて言った。
「は、はぁ、」
「まあ、良いから受け取って。 親御さんに渡していてね。」
榎本えもとさんは僕に花束と手紙を預け、窓の外を見た。
「あ、止んできたんじゃない?」
「...本当だ。」
窓の外にはさっきの雨など微塵も感じられないような快晴が広がっていた。
「もう帰っても大丈夫そうだね。」
そして思い出した。
濡れたままでいることを。
「ハ、ハイ、帰らさせていただきますッ!」
「んふふ、来てくれてありがとう。また来てくださいね。」
榎本さんはそう言って僕を送り出してくれた。
(次回へ)