お隣の花屋さんと僕
パーカーのフードを被り、雨の中を行く。
けれど、バケツを引っくり返したような雨は、その行為すらも踏み躙るようだった。
少し先も見えない、真っ白な豪雨。
その音と感触に、重圧すらも感じるほどだった。
ざぁざぁと降る雨に、そろそろ薄ら寒さを感じるようになった頃、道の先に人影が見えた。
(こんな天気の時に外出か?)
しかも、その人影は此方に向かってくるではないか。
母さん?と思ったが、母は今仕事の筈だ。
その人物は、傘を差しながら此方へ喋りかけてきた。
「黒瀬さんですか?大丈夫でしょうか?」
声の主は榎本えもとさんだった。
「榎本さん、、、!?」
僕は吃驚しつつも話を続ける。
いやぁ、と榎本さんが話始める。
「実はですね、別れた後、貴方が傘を持っていないことに気がついたんですよ。天気予報アプリの予測では、『急な豪雨に注意』とあったので、もしかしたらな、と思いまして。案の定、豪雨が降り始めたので、黒瀬さんの向かった方向へ向かいに行ってみたんです。」
そう言っている間にも、榎本さんは僕を傘に入れてくれた。
成程、だから家に帰る道で会えたのか。
「...有難う御座います。助かりました。」
「いえいえ。お隣さんですし。」
そうして僕らは帰路を辿った。
[水平線]
(家の近くにて)
「榎本さん、本当に有難う御座いました。」
「だからいいよって。いつでもお兄さんを頼っていいからね。」
榎本さんは茶目っ気たっぷりにウィンクしてそう言った。
しかし、次の言葉で僕は驚愕することになる。
「あ、良かったらうち店来るかい?」
「え?」
は????
この方榎本さんは何を言っているんだろう。
「あ、あの、失礼なんですが、今日引っ越されてきたばかりですよね、、、?」
「え?ああ、そっか」
榎本さんは一人で納得したようだ。
「僕はねぇ、約一ヶ月前からこの店の準備をしてたんだ。」
店??
榎本さんは僕の心を読んだかのように言った。
「あっ、店っていうのはね、君の隣の一軒家の事。ここを僕が買い取って、花屋をすることになったんだ。」
花屋を経営するのは僕の夢でねぇ、と続けていく。
「今朝、トラックが多く止まっていただろう?あれは花の仕入れだ。」
成程、そういうことか!
「じゃあつまり、店の準備自体は前々から進んでいて、そろそろ開店するからここに住もうとしていた、若しくは準備をしていた、ってことですか?」
「ま、そういう事〜」
それで、寄っていくかい?と、もう一度聞かれた。
母や父、兄弟が帰ってくるまでまだ時間がある。
「じゃあお言葉に甘えて...。」
そうして僕は、このお店榎本さん家の初めての客となった。
(次回へ)
けれど、バケツを引っくり返したような雨は、その行為すらも踏み躙るようだった。
少し先も見えない、真っ白な豪雨。
その音と感触に、重圧すらも感じるほどだった。
ざぁざぁと降る雨に、そろそろ薄ら寒さを感じるようになった頃、道の先に人影が見えた。
(こんな天気の時に外出か?)
しかも、その人影は此方に向かってくるではないか。
母さん?と思ったが、母は今仕事の筈だ。
その人物は、傘を差しながら此方へ喋りかけてきた。
「黒瀬さんですか?大丈夫でしょうか?」
声の主は榎本えもとさんだった。
「榎本さん、、、!?」
僕は吃驚しつつも話を続ける。
いやぁ、と榎本さんが話始める。
「実はですね、別れた後、貴方が傘を持っていないことに気がついたんですよ。天気予報アプリの予測では、『急な豪雨に注意』とあったので、もしかしたらな、と思いまして。案の定、豪雨が降り始めたので、黒瀬さんの向かった方向へ向かいに行ってみたんです。」
そう言っている間にも、榎本さんは僕を傘に入れてくれた。
成程、だから家に帰る道で会えたのか。
「...有難う御座います。助かりました。」
「いえいえ。お隣さんですし。」
そうして僕らは帰路を辿った。
[水平線]
(家の近くにて)
「榎本さん、本当に有難う御座いました。」
「だからいいよって。いつでもお兄さんを頼っていいからね。」
榎本さんは茶目っ気たっぷりにウィンクしてそう言った。
しかし、次の言葉で僕は驚愕することになる。
「あ、良かったらうち店来るかい?」
「え?」
は????
この方榎本さんは何を言っているんだろう。
「あ、あの、失礼なんですが、今日引っ越されてきたばかりですよね、、、?」
「え?ああ、そっか」
榎本さんは一人で納得したようだ。
「僕はねぇ、約一ヶ月前からこの店の準備をしてたんだ。」
店??
榎本さんは僕の心を読んだかのように言った。
「あっ、店っていうのはね、君の隣の一軒家の事。ここを僕が買い取って、花屋をすることになったんだ。」
花屋を経営するのは僕の夢でねぇ、と続けていく。
「今朝、トラックが多く止まっていただろう?あれは花の仕入れだ。」
成程、そういうことか!
「じゃあつまり、店の準備自体は前々から進んでいて、そろそろ開店するからここに住もうとしていた、若しくは準備をしていた、ってことですか?」
「ま、そういう事〜」
それで、寄っていくかい?と、もう一度聞かれた。
母や父、兄弟が帰ってくるまでまだ時間がある。
「じゃあお言葉に甘えて...。」
そうして僕は、このお店榎本さん家の初めての客となった。
(次回へ)