消えた何か。
#1
消えた髪の毛
俺の入っている野球部の顧問、通称TNTの頭に異変が起こった。
髪の毛がないのである。いつもならば、ふっさふっさのパイナップルヘアーで登場するはずのTNTの頭が鶴ピカなのである。さながら元阪神の青柳のように。
「/(^o^)\ナンテコッタイ」
まさにこうつぶやきたくなる。
「……」
「…!?」
ざわつきだす。うっかり誰かが口にしてしまったようだ。いったい何をしているんだか。あきれるぜ、こういうのは黙ってやり過ごすに限るのによ。
「…?」
なぜか、皆の視線がこっちに集まっている気がする。なんだなんだと首を回す。特に異変はない。…あれ?TNTまでもがこっちを見ているぞ。まさか…
「俺何かやっちゃいました?」
なろうでよく聞くセリフだ。部員のみんなが「あ~あ」という顔で見ている。
案の定、TNTに呼ばれた。どうやらこの状況になってもTNTは自分の頭の惨状に気づいていないようだった。さーて、どうしたものかと、考えながら駆け足でTNTのところへ向かう。
「お前、なんかやったのか」
「いいえ、特に何も」
「じゃあなぜみんなお前のほうを見る?」
視界の端で、頭のことは言うなというジェスチャーが飛んでくる。これに従い、黙っておくことにした。
「テストでいい点がとれたものですから」
我ながらいい言い訳だ。
「嘘つけ、お前最下位常連だろ。」
ばれた。どうしよ。よし、あきらめて頭のことを伝えよう。
「今日、先生髪型変えました?」
「いきなりなんだ。変えてないが」
ああ、確定だ。気づいてない。意図的に笑わせに来てるのかなー、という考えもあったのだけれど、無駄だったか。
その時、目を疑う光景が見えた。バスケ部の連中が、なにかふさふさしたものを投げて遊んでいる。
「あー!?」
思わず声に出してしまった。おそらくあれは、TNTのヅラであろう。TNTが振り返ろうとする。慌てて止める。
「なんで、も、も、ないです。説教づつけましょ!」
TNTは、不信な顔をしたが、振り返らず、説教を続けてくれた。何に対しての説教かはわからないけれど。
説教が終わってから、急いでバスケ部の連中どものところへ行く。あのヅラをこっそりTNTのところへ返さなければ。ヅラを探してうろうろしていると、バスケ部の顧問が現れた。こいつは、比較的温厚で生徒人気も高い。ヅラのことを話してもいいかと思ったが、面白そうなので黙っておくことにした。一応部活を軽くさぼっているわけだし、見つかるわけには行けない。陰に隠れて、場を過ぎるのを待った。待っていると都合よく奥から、TNTが現れた。バスケ部顧問の反応を見てみたくなり、少しのぞいてみた。バスケ部顧問は、少しばかり驚いたようなしぐさを見せたが、すぐに通常の運転に戻り、何事もなかったかのように通り過ぎて行った。俺は、TNTのヅラを探すという重大なミッションへと再び足を進めた。
すこし、体育館を回っていると、TNTのヅラらしきものを見つけた。近くにバスケ部もいる。どうやらあれで間違いはなさそうだ。誰にも見つからぬよう華麗にヅラを抜き取っていく。さすが俺。忍者にでもなれるぜ。と思いながら、その場を後にすると、後ろから、バレー部のやつが声をかけてきた。
「それなーにー?」
語尾を伸ばしたなめ腐ったしゃべり方だ。まあ、俺は優しいのでそんなことは気にしない。
「重大なミッションなんだ」
それだけ言い残して、さっさと逃げる。追及されたら面倒くさいしな。バレー部のやつは、ぽかんとした様子でこっちを見ている。すまない、これは国家の最重要ミッションなんだ。さながら何かの映画の主人公気分で、グラウンドへ戻る。野球部の奴らが期待を込めたまなざしでこっちを見てくれている。俺は、調子に乗りヅラを持った手を大きく掲げて持って行ってしまった。野球部がいるということは、そこにはTNTもいるというのに。TNTは、何か悟りを開いたような目でこちらを見ている。部員は「あっ、やっちゃった」とでも言いたげな顔でこちらを見ている。当の本人である俺は、「あっ、やらかしたー」という気持ちで、掲げた手をひっこめることもできないままTNTの前に行き、スライディング土下座で、誠心誠意謝った。
TNTはあきらめ、悟りを開いたような目で、まだこちらを見つめている。俺は地面に膝付き、手付きの状態だ。ちなみにヅラは俺がかぶっている。それが一番面白いかなって。
TNTはだまってヅラを抜き取り、ゆっくりかぶって、校舎の中に引っ込んでいってしまった。俺にお咎めは無しだった。
部員のみんなが、わらわらと集まってくる。あるものは、「よくやった」という顔で、あるものは、「何をしてるの」と軽蔑のような顔で、あるものは背中をバンバンたたきながら「やるなあ!」と言ってきてくれた。
部員のみんなが楽しんでくれたならば、部活をさぼったかいがあるというものだ。その日から数日、TNTは学校を休んだ。よほどメンタルに来たのだろうか。俺にその気持ちはわからない。
髪の毛がないのである。いつもならば、ふっさふっさのパイナップルヘアーで登場するはずのTNTの頭が鶴ピカなのである。さながら元阪神の青柳のように。
「/(^o^)\ナンテコッタイ」
まさにこうつぶやきたくなる。
「……」
「…!?」
ざわつきだす。うっかり誰かが口にしてしまったようだ。いったい何をしているんだか。あきれるぜ、こういうのは黙ってやり過ごすに限るのによ。
「…?」
なぜか、皆の視線がこっちに集まっている気がする。なんだなんだと首を回す。特に異変はない。…あれ?TNTまでもがこっちを見ているぞ。まさか…
「俺何かやっちゃいました?」
なろうでよく聞くセリフだ。部員のみんなが「あ~あ」という顔で見ている。
案の定、TNTに呼ばれた。どうやらこの状況になってもTNTは自分の頭の惨状に気づいていないようだった。さーて、どうしたものかと、考えながら駆け足でTNTのところへ向かう。
「お前、なんかやったのか」
「いいえ、特に何も」
「じゃあなぜみんなお前のほうを見る?」
視界の端で、頭のことは言うなというジェスチャーが飛んでくる。これに従い、黙っておくことにした。
「テストでいい点がとれたものですから」
我ながらいい言い訳だ。
「嘘つけ、お前最下位常連だろ。」
ばれた。どうしよ。よし、あきらめて頭のことを伝えよう。
「今日、先生髪型変えました?」
「いきなりなんだ。変えてないが」
ああ、確定だ。気づいてない。意図的に笑わせに来てるのかなー、という考えもあったのだけれど、無駄だったか。
その時、目を疑う光景が見えた。バスケ部の連中が、なにかふさふさしたものを投げて遊んでいる。
「あー!?」
思わず声に出してしまった。おそらくあれは、TNTのヅラであろう。TNTが振り返ろうとする。慌てて止める。
「なんで、も、も、ないです。説教づつけましょ!」
TNTは、不信な顔をしたが、振り返らず、説教を続けてくれた。何に対しての説教かはわからないけれど。
説教が終わってから、急いでバスケ部の連中どものところへ行く。あのヅラをこっそりTNTのところへ返さなければ。ヅラを探してうろうろしていると、バスケ部の顧問が現れた。こいつは、比較的温厚で生徒人気も高い。ヅラのことを話してもいいかと思ったが、面白そうなので黙っておくことにした。一応部活を軽くさぼっているわけだし、見つかるわけには行けない。陰に隠れて、場を過ぎるのを待った。待っていると都合よく奥から、TNTが現れた。バスケ部顧問の反応を見てみたくなり、少しのぞいてみた。バスケ部顧問は、少しばかり驚いたようなしぐさを見せたが、すぐに通常の運転に戻り、何事もなかったかのように通り過ぎて行った。俺は、TNTのヅラを探すという重大なミッションへと再び足を進めた。
すこし、体育館を回っていると、TNTのヅラらしきものを見つけた。近くにバスケ部もいる。どうやらあれで間違いはなさそうだ。誰にも見つからぬよう華麗にヅラを抜き取っていく。さすが俺。忍者にでもなれるぜ。と思いながら、その場を後にすると、後ろから、バレー部のやつが声をかけてきた。
「それなーにー?」
語尾を伸ばしたなめ腐ったしゃべり方だ。まあ、俺は優しいのでそんなことは気にしない。
「重大なミッションなんだ」
それだけ言い残して、さっさと逃げる。追及されたら面倒くさいしな。バレー部のやつは、ぽかんとした様子でこっちを見ている。すまない、これは国家の最重要ミッションなんだ。さながら何かの映画の主人公気分で、グラウンドへ戻る。野球部の奴らが期待を込めたまなざしでこっちを見てくれている。俺は、調子に乗りヅラを持った手を大きく掲げて持って行ってしまった。野球部がいるということは、そこにはTNTもいるというのに。TNTは、何か悟りを開いたような目でこちらを見ている。部員は「あっ、やっちゃった」とでも言いたげな顔でこちらを見ている。当の本人である俺は、「あっ、やらかしたー」という気持ちで、掲げた手をひっこめることもできないままTNTの前に行き、スライディング土下座で、誠心誠意謝った。
TNTはあきらめ、悟りを開いたような目で、まだこちらを見つめている。俺は地面に膝付き、手付きの状態だ。ちなみにヅラは俺がかぶっている。それが一番面白いかなって。
TNTはだまってヅラを抜き取り、ゆっくりかぶって、校舎の中に引っ込んでいってしまった。俺にお咎めは無しだった。
部員のみんなが、わらわらと集まってくる。あるものは、「よくやった」という顔で、あるものは、「何をしてるの」と軽蔑のような顔で、あるものは背中をバンバンたたきながら「やるなあ!」と言ってきてくれた。
部員のみんなが楽しんでくれたならば、部活をさぼったかいがあるというものだ。その日から数日、TNTは学校を休んだ。よほどメンタルに来たのだろうか。俺にその気持ちはわからない。
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