上の空な空想短編集
いつもより少し静かな教室の扉を、重く乾いた音を立てながら開け、軽い足取りで教室の中へ入っていく。
教室に入ってすぐ、味気なくて色の薄い教室にどう見渡しても、親友が見当たらないことに気づいた。だが、すぐにその理由を現実として頭に叩き込まれた。
“おはよう”という言葉は、その後帰ってくると思っていた言葉達と共に喉に張りつき、ただの痛々しい嗚咽と成り代わった。
親友の机には、レイの机には、レイの姿はなかった。だが、まるでその代わりとでも言うように、小綺麗な色をした沈丁花が自分を値踏みし、親友の香りを掻き消すかのように、レイの机で強く異彩な香りを放ち、狂い咲いていた。
まるで、レイとの思い出を汚し、侵食するかのように、レイの香りを消し去っていくかのように、その香りは鼻腔を突き刺し、何度も何度も嫌悪感を沸々と沸き立たせてくる。
「嫌だッ、、、何でッ、、」
どうして?何があった?昨日まで大丈夫って、言って。
何回も何回も大丈夫って、何度も何度も何度も大丈夫って。ねぇ、何で。
消えないって、約束して、あの時何回も何回も試して。私を置いていくなんて。
致死量に充満する自責と、行き場をなくしたレイへの想いが、どす黒くとぐろを巻きながら、真っ白に染められた心と前頭葉を深く闇の中に落とし込みながらドロドロに溶かしていった。
全てを不要物として認識しそうになった時、耳に入ってくるのは非常に陰気で、いわば机上に並べられた御託のような内容の、クラスメイト達の薄い噂話だった。
「屋上、、、飛、、、」
「他、、、、虐、、、、」
「家、、、、、、暴、、、」
微かに、だがはっきりと断続的に耳に入ってくる単語達は、全てが最悪な結末に直結していった。
もう全てが忌まわしかった。なのに、空気を読まないように周囲からは微笑混じりに偽善の哀れみを浮かべた視線を向けられ、それが気色悪くねっとりと身体に纏わりつき、正直吐き気がしてくる。
じっとりとした嫌悪感からの汗が額に気持ち悪く滲み、両足が床に縫い付けられたように動かなかった。
何故か、少しでも、ほんの少しでも親友の机に近づいてしまったら、花の咽せるような甘い匂いに毒されて、親友の、レイの存在を、否定してしまうような気がして、自分がその現実を認めてしまうような気がして。どうしてもその逃げ出したくなるような終わりを、この回らなくなってきた頭でも、認めるのが怖かった。
「っ、、ぁッ、、、あぁ"ッ、、、」
言葉を出そうにも、その言葉が喉にこびりつき、親友の机に咲いている花は、自分をせせら笑うようにその強い匂いで現実を押しつけようとしてきた。
「けど正直迷惑だよね」
その不粋に紡がれた二言が耳に入ってきた瞬間、自分の中の何かがぶつりと音を立てて焼き切れて頭の中が一気に冷え切る。
“何故言ってくれなかったのか。何故自分に何も言わずにいってしまったのか。”
その答えは実に容易で明確だった。自分という存在が、彼女にとってただの友達で、言うに値しなかったからだ。
だが、自分がレイをそのまま1人で彷徨わせるなんて、そんな事させる筈がない。
チャイムの音を掻き切るように廊下に飛び出し、必死に冷えた廊下を走り始めた。
全てから逃げるように走り続け、だんだんと視界の色彩が薄くなる。ただ目の前の目的地へのルートだけが激しくコントラストをつけながら眩しく光り続ける。
すれ違う怒声も、周りの好奇の目も、ずっと警告してくる心音も、もはや意味をなくして雑音と背景と化して溶けていく。
ただ自分がするのは、溶けてしまう前に親友の、レイの幻影を追いかけ続けることだ。
屋上の古く軋んだ扉の開閉音で飛んでいた意識がグッと戻ってくる。
だが、走る足を止める気はさらさらない。走る必死さと嬉しさと幸福がアドレナリンを出し、頭を完璧に麻痺させ覚醒させていく。
肺は上下するたび焼けるように軋み、喉は這い上がってきていた胃酸と張り付く言葉で乾ききり、閉じると鈍く鉄の味が広がった。
すぐに、早く、早く自分はレイに会いたくてしょうがなかった。
きっと1人で後悔とか罪悪感で泣きじゃくってるだろうから、今すぐにでも。
天国でも地獄でも、レイさえいれば何処へでも行くし、喜んで何でもできる。
不自然なほどに煩わしい快晴に身を投げ、真っ逆さまな学校の姿に引き攣る笑みを投げ飛ばす。
これからの憂いを、嬉しさを抱え込んで吹っ切れる。
「今から行くから、またそこでッ[明朝体][太字]」[/太字][/明朝体]
教室に入ってすぐ、味気なくて色の薄い教室にどう見渡しても、親友が見当たらないことに気づいた。だが、すぐにその理由を現実として頭に叩き込まれた。
“おはよう”という言葉は、その後帰ってくると思っていた言葉達と共に喉に張りつき、ただの痛々しい嗚咽と成り代わった。
親友の机には、レイの机には、レイの姿はなかった。だが、まるでその代わりとでも言うように、小綺麗な色をした沈丁花が自分を値踏みし、親友の香りを掻き消すかのように、レイの机で強く異彩な香りを放ち、狂い咲いていた。
まるで、レイとの思い出を汚し、侵食するかのように、レイの香りを消し去っていくかのように、その香りは鼻腔を突き刺し、何度も何度も嫌悪感を沸々と沸き立たせてくる。
「嫌だッ、、、何でッ、、」
どうして?何があった?昨日まで大丈夫って、言って。
何回も何回も大丈夫って、何度も何度も何度も大丈夫って。ねぇ、何で。
消えないって、約束して、あの時何回も何回も試して。私を置いていくなんて。
致死量に充満する自責と、行き場をなくしたレイへの想いが、どす黒くとぐろを巻きながら、真っ白に染められた心と前頭葉を深く闇の中に落とし込みながらドロドロに溶かしていった。
全てを不要物として認識しそうになった時、耳に入ってくるのは非常に陰気で、いわば机上に並べられた御託のような内容の、クラスメイト達の薄い噂話だった。
「屋上、、、飛、、、」
「他、、、、虐、、、、」
「家、、、、、、暴、、、」
微かに、だがはっきりと断続的に耳に入ってくる単語達は、全てが最悪な結末に直結していった。
もう全てが忌まわしかった。なのに、空気を読まないように周囲からは微笑混じりに偽善の哀れみを浮かべた視線を向けられ、それが気色悪くねっとりと身体に纏わりつき、正直吐き気がしてくる。
じっとりとした嫌悪感からの汗が額に気持ち悪く滲み、両足が床に縫い付けられたように動かなかった。
何故か、少しでも、ほんの少しでも親友の机に近づいてしまったら、花の咽せるような甘い匂いに毒されて、親友の、レイの存在を、否定してしまうような気がして、自分がその現実を認めてしまうような気がして。どうしてもその逃げ出したくなるような終わりを、この回らなくなってきた頭でも、認めるのが怖かった。
「っ、、ぁッ、、、あぁ"ッ、、、」
言葉を出そうにも、その言葉が喉にこびりつき、親友の机に咲いている花は、自分をせせら笑うようにその強い匂いで現実を押しつけようとしてきた。
「けど正直迷惑だよね」
その不粋に紡がれた二言が耳に入ってきた瞬間、自分の中の何かがぶつりと音を立てて焼き切れて頭の中が一気に冷え切る。
“何故言ってくれなかったのか。何故自分に何も言わずにいってしまったのか。”
その答えは実に容易で明確だった。自分という存在が、彼女にとってただの友達で、言うに値しなかったからだ。
だが、自分がレイをそのまま1人で彷徨わせるなんて、そんな事させる筈がない。
チャイムの音を掻き切るように廊下に飛び出し、必死に冷えた廊下を走り始めた。
全てから逃げるように走り続け、だんだんと視界の色彩が薄くなる。ただ目の前の目的地へのルートだけが激しくコントラストをつけながら眩しく光り続ける。
すれ違う怒声も、周りの好奇の目も、ずっと警告してくる心音も、もはや意味をなくして雑音と背景と化して溶けていく。
ただ自分がするのは、溶けてしまう前に親友の、レイの幻影を追いかけ続けることだ。
屋上の古く軋んだ扉の開閉音で飛んでいた意識がグッと戻ってくる。
だが、走る足を止める気はさらさらない。走る必死さと嬉しさと幸福がアドレナリンを出し、頭を完璧に麻痺させ覚醒させていく。
肺は上下するたび焼けるように軋み、喉は這い上がってきていた胃酸と張り付く言葉で乾ききり、閉じると鈍く鉄の味が広がった。
すぐに、早く、早く自分はレイに会いたくてしょうがなかった。
きっと1人で後悔とか罪悪感で泣きじゃくってるだろうから、今すぐにでも。
天国でも地獄でも、レイさえいれば何処へでも行くし、喜んで何でもできる。
不自然なほどに煩わしい快晴に身を投げ、真っ逆さまな学校の姿に引き攣る笑みを投げ飛ばす。
これからの憂いを、嬉しさを抱え込んで吹っ切れる。
「今から行くから、またそこでッ[明朝体][太字]」[/太字][/明朝体]