拾われ少年、愛されました。
玄関で一人、少年と思われる子供が立っていた。今は廊下は冷たく、凍えそうな季節なのに、暖房はついておらず、家全体が外と同じような気温だった。
[小文字][明朝体]「おと[小文字]ぉ[/小文字]…さん?」[/明朝体][/小文字]
[大文字]「[大文字]五月蠅いッ‼[/大文字]喋りかけるなっ!なんで飯ができてないんだよッ‼」[/大文字]
[小文字][明朝体]「ぁ、ごめんなさっ」[/明朝体][/小文字]
[大文字][大文字]「口を開くなッ!!」[/大文字][/大文字]
「づぁッ‼」
殴られて、柱の角に頭をぶつける。頭を触ると手に[明朝体]ぬるり[/明朝体]とした触感が残る。視界がぼやけてきた。
[小文字][明朝体](ごはん、つくらなきゃ…。)[/明朝体][/小文字]
体を[明朝体]ゆらり[/明朝体]と起こし、[漢字]台所[/漢字][ふりがな]キッチン[/ふりがな]へと壁伝いに歩く。そんなときの廊下は冷たくて素足に[打消し]優しくない[/打消し]。
[水平線]
血が入らないように頑張って作ったご飯を[下線]殺風景[/下線]なリビングにポツンとあるテーブルに乗せ、部屋の隅でうずくまる。
[打消し]殴られないように。[/打消し]
二階から下りてくる音が聞こえると、体が跳ね、カタカタと音が鳴る。
「…‼」
リビングに入り、あたりを見回し、少年を見つけたようで小走り気味に近づく。
[小文字][明朝体]「いやっ、なぐ、ないで、ごめ、なさ…」[/明朝体][/小文字]
息切れしてとぎれとぎれの言葉を発する。少年の3倍はありそうな大きな大人は、少年にとって[太字][打消し]化け物[/打消し][/太字]みたいなものであった。
「ごめんな…ごめんな…こんな父親で、ごめんな…」
[太字][打消し]化け物[/打消し][/太字]は一変。あっという間に優しい[明朝体][打消し]父[/打消し][/明朝体]に変わった。こんな風に優しい父になることは化け物になることよりも格段に少ないが、少年にとってはそんなことはどうでも良かったらしい。
[明朝体][小文字]「おとぉさんは悪くないよ、悪いの、僕だから、悲しそぉに、しないで、」[/小文字][/明朝体]
「有難う、有難う…。傷、手当てするからこっちにおいで。」
力強い手のひかれように、少しよろつきながらも立ち上がる。父は手慣れた手つきで少年の体を手当てする。
そう、これが1回目ではないのだ。これを毎日のように繰り返してこの家族の日常が成り立つ。
日常とは、普段という意味である。歪な形の愛情であっても、暴力を振られても、それが彼らにとって普段であり、日常なのだ。
[小文字][明朝体]「ぁ、ごはん…さめちゃう…。」[/明朝体][/小文字]
こんな事特段気にすることはないだろう、一般的には。この家庭には温めなおす方法すら存在しないのだ。少年が気にするのも仕方がないだろう。
「いいんだ、今日は一緒に食べよう。冷たくしてしまって、ごめんな…。」
[明朝体]「うぅん、僕が悪いから、いいの。」[/明朝体]
少年は先ほどと同じような返答をする。歪んだ愛情は、[下線]受け取る側[/下線]すら歪めてしまうのだ。
少年はそれよりも、いつもパンの切れ端しか食べていない自分自身に、初めて与える[打消し]夕食[/打消し]に驚きを隠せていないようだった。
「嗚呼、美味しいな。[打消し]■■[/打消し]の作るご飯はいつも美味しい。」
[明朝体][小文字]「そう、かな…?」[/小文字][/明朝体]
(おいしいってあじが、これ?よくわからない…[漢字]いつものごはん[/漢字][ふりがな]ぱんのきれはし[/ふりがな]といっしょなのに)
少年の過酷な環境は味覚を失わせる程度には過酷なのだった。
[水平線]
次の日、玄関へいつも通り見送る少年に父は力強く抱き着いた。
[小文字][明朝体]「ぇ?おとぉ、さん、くるしい、よ…?」[/明朝体][/小文字]
「帰ってっくるまで、待ってくれるか、?」
[明朝体]「う…うん。」[/明朝体]
(いつものこと、でしょ…?)
「絶対戻ってくるから、待っててくれ…。」
頷いて、父がドアを開ける。冷たい風が入り込んで、喉を撫でた。
[小文字][明朝体][小文字]「行かないで…。」[/小文字][/明朝体][/小文字]
思わずつぶやいてしまい、少年は急いで口を塞いだ。これ以上は言ってはいけない気がしたから。
寒空が今日はやけに澄んでいた。父は少し止まりかけたが、結局外に出ていった。
[水平線]
その数時間後だろうか、大きな物音で体が震えた。
[大文字]「居ますか~!お金、返す期限[大文字]来てますよ~!![/大文字]」[/大文字]
(出ちゃダメ、約束、守らなきゃ。)
リビングの方に逃げた。なんだか目の前に迫っているような気がして、いつものリビングの隅でうずくまっていた。
[太字]「チッ、居ないなぁ…夜逃げしたか?」
「どうでしょうねぇ…?」[/太字]
居なくなったことを確認して、冷蔵庫を開けた。空っぽ。食材を買わなければいけない。だが、それは父の役割だった。少年は外には出ていけなかったのだった。
[明朝体][小文字]「どうしよう…。」[/小文字][/明朝体]
そんな疑問は数日たって消えた。
[大文字]帰ってくる気がして[/大文字]、いろんな部屋の窓から外をのぞいた。
[太字]帰ってくる気がして[/太字]、怖い人が来ても玄関に座り続けた。
帰ってくる気がして、包丁で手首を切り裂いた。
[小文字]帰ってくる気がして[/小文字]、玄関から動かないようにした。
[水平線]
数日が経っただろう。少年は3日間、玄関に座り続けた。
光が、父の影に見えた気がして、立ち上がろうとした。だが、数日何も口にしていない幼子だ。立ち上がろうとして、倒れてしまう。
[小文字][小文字][明朝体]「ぁ、ぁ…?」[/明朝体][/小文字][/小文字]
(動けない、や。)
少年の意識はそこで絶えた。
[小文字][明朝体]「おと[小文字]ぉ[/小文字]…さん?」[/明朝体][/小文字]
[大文字]「[大文字]五月蠅いッ‼[/大文字]喋りかけるなっ!なんで飯ができてないんだよッ‼」[/大文字]
[小文字][明朝体]「ぁ、ごめんなさっ」[/明朝体][/小文字]
[大文字][大文字]「口を開くなッ!!」[/大文字][/大文字]
「づぁッ‼」
殴られて、柱の角に頭をぶつける。頭を触ると手に[明朝体]ぬるり[/明朝体]とした触感が残る。視界がぼやけてきた。
[小文字][明朝体](ごはん、つくらなきゃ…。)[/明朝体][/小文字]
体を[明朝体]ゆらり[/明朝体]と起こし、[漢字]台所[/漢字][ふりがな]キッチン[/ふりがな]へと壁伝いに歩く。そんなときの廊下は冷たくて素足に[打消し]優しくない[/打消し]。
[水平線]
血が入らないように頑張って作ったご飯を[下線]殺風景[/下線]なリビングにポツンとあるテーブルに乗せ、部屋の隅でうずくまる。
[打消し]殴られないように。[/打消し]
二階から下りてくる音が聞こえると、体が跳ね、カタカタと音が鳴る。
「…‼」
リビングに入り、あたりを見回し、少年を見つけたようで小走り気味に近づく。
[小文字][明朝体]「いやっ、なぐ、ないで、ごめ、なさ…」[/明朝体][/小文字]
息切れしてとぎれとぎれの言葉を発する。少年の3倍はありそうな大きな大人は、少年にとって[太字][打消し]化け物[/打消し][/太字]みたいなものであった。
「ごめんな…ごめんな…こんな父親で、ごめんな…」
[太字][打消し]化け物[/打消し][/太字]は一変。あっという間に優しい[明朝体][打消し]父[/打消し][/明朝体]に変わった。こんな風に優しい父になることは化け物になることよりも格段に少ないが、少年にとってはそんなことはどうでも良かったらしい。
[明朝体][小文字]「おとぉさんは悪くないよ、悪いの、僕だから、悲しそぉに、しないで、」[/小文字][/明朝体]
「有難う、有難う…。傷、手当てするからこっちにおいで。」
力強い手のひかれように、少しよろつきながらも立ち上がる。父は手慣れた手つきで少年の体を手当てする。
そう、これが1回目ではないのだ。これを毎日のように繰り返してこの家族の日常が成り立つ。
日常とは、普段という意味である。歪な形の愛情であっても、暴力を振られても、それが彼らにとって普段であり、日常なのだ。
[小文字][明朝体]「ぁ、ごはん…さめちゃう…。」[/明朝体][/小文字]
こんな事特段気にすることはないだろう、一般的には。この家庭には温めなおす方法すら存在しないのだ。少年が気にするのも仕方がないだろう。
「いいんだ、今日は一緒に食べよう。冷たくしてしまって、ごめんな…。」
[明朝体]「うぅん、僕が悪いから、いいの。」[/明朝体]
少年は先ほどと同じような返答をする。歪んだ愛情は、[下線]受け取る側[/下線]すら歪めてしまうのだ。
少年はそれよりも、いつもパンの切れ端しか食べていない自分自身に、初めて与える[打消し]夕食[/打消し]に驚きを隠せていないようだった。
「嗚呼、美味しいな。[打消し]■■[/打消し]の作るご飯はいつも美味しい。」
[明朝体][小文字]「そう、かな…?」[/小文字][/明朝体]
(おいしいってあじが、これ?よくわからない…[漢字]いつものごはん[/漢字][ふりがな]ぱんのきれはし[/ふりがな]といっしょなのに)
少年の過酷な環境は味覚を失わせる程度には過酷なのだった。
[水平線]
次の日、玄関へいつも通り見送る少年に父は力強く抱き着いた。
[小文字][明朝体]「ぇ?おとぉ、さん、くるしい、よ…?」[/明朝体][/小文字]
「帰ってっくるまで、待ってくれるか、?」
[明朝体]「う…うん。」[/明朝体]
(いつものこと、でしょ…?)
「絶対戻ってくるから、待っててくれ…。」
頷いて、父がドアを開ける。冷たい風が入り込んで、喉を撫でた。
[小文字][明朝体][小文字]「行かないで…。」[/小文字][/明朝体][/小文字]
思わずつぶやいてしまい、少年は急いで口を塞いだ。これ以上は言ってはいけない気がしたから。
寒空が今日はやけに澄んでいた。父は少し止まりかけたが、結局外に出ていった。
[水平線]
その数時間後だろうか、大きな物音で体が震えた。
[大文字]「居ますか~!お金、返す期限[大文字]来てますよ~!![/大文字]」[/大文字]
(出ちゃダメ、約束、守らなきゃ。)
リビングの方に逃げた。なんだか目の前に迫っているような気がして、いつものリビングの隅でうずくまっていた。
[太字]「チッ、居ないなぁ…夜逃げしたか?」
「どうでしょうねぇ…?」[/太字]
居なくなったことを確認して、冷蔵庫を開けた。空っぽ。食材を買わなければいけない。だが、それは父の役割だった。少年は外には出ていけなかったのだった。
[明朝体][小文字]「どうしよう…。」[/小文字][/明朝体]
そんな疑問は数日たって消えた。
[大文字]帰ってくる気がして[/大文字]、いろんな部屋の窓から外をのぞいた。
[太字]帰ってくる気がして[/太字]、怖い人が来ても玄関に座り続けた。
帰ってくる気がして、包丁で手首を切り裂いた。
[小文字]帰ってくる気がして[/小文字]、玄関から動かないようにした。
[水平線]
数日が経っただろう。少年は3日間、玄関に座り続けた。
光が、父の影に見えた気がして、立ち上がろうとした。だが、数日何も口にしていない幼子だ。立ち上がろうとして、倒れてしまう。
[小文字][小文字][明朝体]「ぁ、ぁ…?」[/明朝体][/小文字][/小文字]
(動けない、や。)
少年の意識はそこで絶えた。