二次創作
# 最愛の君へ銃口を .
「 ... あんな豪華な見た目の屋敷に、こんな静かな場所あったんやな 」
警備と称して 屋敷の中をぐるぐると巡っていると、中庭に厳かな薔薇園があることに気づいた。
屋敷の使用人と雇用主以外立ち入り禁止区域であるため、夜会の真っ最中にここに人が来る可能性はゼロに近いだろう。
そう考えついて、中央の噴水の縁に座って月を眺める。
人気のない薔薇園は、先ほどの会場の喧騒とは打って変わって静かだ。
少しの恐怖さえ感じるほどに。
「 ... 寒っ 」
空気を切り裂くような冷えた風が吹き込むようになって、思わず身震いしてしまう。
まだ夜会は続くだろうが、酔い潰れたご婦人たちの送迎で収集されるだろうから今のうちに会場に戻っておいてもいい。
警備の制服を身につけたまま噴水の縁に座っていたせいで、体がすっかり冷え切ってしまった。
立ち上がろうとしたその時、ふいに背後から声がかけられる。
「 こんな場所でサボりとは、警備員失格ですね 」
背筋が凍るような冷たい声だった。
だが、聞き覚えのある声に振り返ると、そこに立っていたのは探していた人物だった。
普段の朗らかな雰囲気はカケラもない。
ただ役作りとしての"ユリ"だった。
「 ユリ ... ? 」
そこには、豪華な夜会の会場から抜け出してきたとは思えないほど、静かで美しい女性が立っていた。
彼女は、月明かりを浴びて一段と輝く白い肌と長い黒髪を風になびかせながら、冷たい視線でこちらを見つめていた。
「 どうして、ここに ... 」
尋ねると、彼女はふっと笑みを浮かべゆっくりとこちらに近づいてくる。
その一歩一歩が、まるで氷の上を歩くように冷たく、そして美しかった。
「 ... 貴方を一人にしておくわけにはいかないでしょう? ジュリアスの身内として、ちゃんと監視してあげないと 」
そう言って、ユリは俺の隣に腰を下ろした。
そして、何も言わずにただ月を見つめている。
彼女の隣にいると、夜会の喧騒もこの場所の静けさも、すべてが遠い世界のことのように感じられた。
だが、彼女のその美しい顔の裏側に隠された、冷たい使命を俺は知っている。
ジュリアスを愛する振りをして潜入している●●。
そして、ジュリアスの屋敷に警備員として潜入している俺。
二人ともそれぞれの目的のために、この豪華な屋敷に身を置いている。
この場所の静けさが、俺たちの心の中の嵐を一層際立たせているようだった。