二次創作
# 最愛の君へ銃口を .
夜会はさらに盛り上がりを見せ、ダンスフロアでは夫妻たちが優雅に踊り始めていた。
俺は給仕を続けながらも、自然な形で人々の動きを観察する。
ジュリアスと●●はフロアの中心で踊り、その姿はまるで本物の夫婦のようだ。
俺はその間にも、"ユリ"に関する情報を集めようと耳を澄ませている。
昔から運動神経や聴力、視力などは人よりもずば抜けていた。
( [漢字]こんな仕事[/漢字][ふりがな]殺し屋[/ふりがな]じゃなきゃ、使う出番なんて殆ど無かったんやろうけど。 )
悶々と考える間も、一杯、また一杯とトレイ上のシャンパングラスを消費していく。
どれだけ思考が忙しくても体は忠実なのだと、自分に感心すべきなのか少し迷った。
シャンパンの補充を装って、壁際で談笑している数人の婦人達の近くを通り過ぎる。
「 ... しかし、ユリ様はどこから現れたのかしら?女好きで頻繁に女性を連れ込むウィンザー様がここまでのめり込むなんて……」
「 ええ、聞けば 最近できた新しいビジネスパートナーの紹介だとか。驚くほど短期間で、信頼を得たそうよ 」
「 まぁ!そういえば、つい先日ウィンザー様の秘書が急に辞職されたって話を耳にしたわ 」
「 ええ、療養中だとか言っていたけれど事実は分からないわね。その直後に彼女が現れて、瞬く間に彼の右腕になったとか 」
[太字]右腕。[/太字]
その言葉に、俺の胸に一つの仮説が浮かんだ。
もし、●●が潜入するとしたら「ビジネスパートナーの紹介」という建前は、この屋敷に潜り込むための最も自然な方法だろう。
それに短期間での信頼の獲得は、彼女の順応性の高さを示している。
加えて、前任秘書の突然の辞任。
これが●●がウィンザーの組織に深く食い込むための偽装工作だとしたら、全てが繋がる。
( ... ちょっと、安心したわ )
( ... ん ? )
少しの安堵の溜息が漏れる。
自分の心の奥底にある感情が何なのかは、深く追及しないでおくことにした。
知ってしまったら 自分が醜い悪魔にでもなってしまいそうだったから。
俺はさりげなくその場を離れ、屋敷内の探索に移ることを決意した。
給仕のルートを逸れないよう、だが 少しだけ足取りを速めて。
この広大な屋敷には、ターゲットの秘密 そして●●の真の目的を示す手がかりが隠されているに違いない。
ダンスホールと化した会場の喧騒を背に、俺は人気のない廊下へと足を踏み入れた。
この夜会は、まだ始まったばかりだ。